15.初出動
出動要請の放送を聞いた私は、大急ぎで六連星の作戦会議室に走った。
「おはようございます! 出動ですか!?」
慌てて部屋に飛び込むと、皆さんは既にスカイブルーの戦闘服に着替えていた。
「そうだとも! 全員揃ったことだし、作戦会議を始めよう!」
もっと空気がピリピリと張り詰めるものかと思いきや、いつもと変わらない調子の陽太さんに手招きされる。
同じように、いつもと変わらないみんなと共に、中央のテーブルに移動し、正面のモニターに目を向けると、そこには上守城上空からの映像が映し出されていた。
恐らく、防衛隊が所有している、24時間監視型ドローンのカメラが記録しているものだ。
「マンティス型エイリアンは、その名の通りカマキリの遺伝子を持つエイリアンだ。両手の鎌は刃物のように鋭利で、背中の羽根で空を飛ぶことも出来る」
モニターに映し出されたマンティス型エイリアンは、辺りを走り回りながら、鎌を振り下ろして、民間人を攻撃しようする。
そこに現れた先発隊の防衛隊員が、ブレードで攻撃を受け止め、人々を逃がす隙を作ったあと、刃を返して斬りかかった。
しかし、マンティスは背中の羽根を羽ばたかせて、その場から逃げ出してしまった。
マンティスが飛んでいった先にも街がある。
このままでは良いようにやられてしまいかねない状況だ。
「今回、上守城周辺に現れたマンティスの数は3000強とされている。1メートル前後の小型が約2500、5メートル前後の中型が約500、10メートル超えの大型が10体だ」
上守城周辺の地図が表示されると、敵の位置が赤い点で表示される。
どうやら、一匹の大型を中心に中型と小型が配置されているみたい。
10に分かれた集団が放射状に街に向かって、それぞれ侵攻している。
「今回の戦いは、六連星としてではなく、上級隊員の六人部隊として行動する。まだ今代の六連星の活動期間内だからな。それでは、具体的な作戦は冬夜くんから伝えてもらう」
陽太さんはタッチパネルの操作権を冬夜さんに譲った。
「まず、俺たちの持ち場だが、城の南西のこの集団を撃破したあと、反時計回りに進み、ここら一帯の集団を撃破する」
地図に表示されたスカイブルーの点は、上級部隊の配置だ。
四つの部隊が、それぞれ等間隔の位置から反時計回りに敵を倒しながら進んで行くと。
確かに飛んで逃げる習性のあるマンティスは、挟み撃ちにしようとしても、取り逃す可能がある。
それよりも市街地に行かせないよう、中級隊員も含めて、城の方へ渦のような陣形で追い込むのが妥当という事みたい。
「俺たち六人それぞれの役割は、まずは小春の最高火力のボウと俺と陽太の銃で、小型・中型の数をできる限り減らす。場が整ったところで、樹と陽太のフォローを受けながら、光輝と海星が大型に接近し、攻撃する。その間、俺と小春は大型撃破の邪魔が入らないよう、残りの小型と中型を相手にする」
私たち六人を模した二頭身のキャラクターが、冬夜さんが説明した通りに動く、シュミレーション映像が流れる。
その余りにも可愛らしい姿に、平常時なら目がハートになっているところだけど、正直不安しかない。
練習期間は一週間しか取れていないというのに、本当にこんな風に上手く立ち回れるのだろうか。
「懸念事項があるとすれば、小春にとっては初任務になるということだ。六人での連携訓練も経験させてやれないまま、いきなりの実戦だ。フォローには俺がつくが、みんなも気にかけてやって欲しい」
冬夜さんの言葉にみんなも頷いてくれる。
「それでは、気を引き締めて行こう! 出動だ!」
「おー!!」
陽太さんのかけ声に合わせ、全員で天井に向かって拳を突き上げる。
その後は、大慌てで戦闘服に着替え、サイレンカーに飛び乗る。
スカイブルーの車体に、ホワイトとフォググレーのラインが入った爽やか仕様。
しかし、ルーフに取り付けられた真っ赤なサイレンは、けたたましい音を鳴らしながら、高速回転している。
最大八人乗りの車内は六人で乗ると広々と感じられる。
今日の運転手は陽太さん。
防衛隊のサイレンカーの運転ができるのは18才からだから、私の番が回ってくるのは早くても来年の秋か。
「上守城周辺にて、エイリアン発生。緊急出動中につき、道をお開けください⋯⋯⋯⋯ご協力いただきありがとうございました」
助手席の光輝くんは、マイクに向かって話しながら、前を走る車に声をかけている。
いつものひょうきんな城西ボーイからは想像がつかないほどの落ち着き具合だ。
いよいよ写真でもなく、動画でもなく、ダミーでもない、本物のエイリアンとのご対面。
緊張で呼吸が浅くなって、身体がガチガチに固まる。
「やけに静かだと思ったら、何? 緊張してるの? 本物のサイレンカーに乗れたんだから、もっと喜べば?」
隣に座る樹くんは、頬杖をついて窓の外を眺めながら言った。
「本来なら飛び上がるくらい嬉しいはずなんだけど、やっぱりちょっと怖くて⋯⋯」
あんな風に鎌を振り回しながら襲いかかってくる敵に勝てるのか。
私はヒーローとして民間人を守れるのか。
矢を狙った所に当てられるのか、誰かを巻き込んだりしないか⋯⋯
「⋯⋯⋯⋯深呼吸」
後ろに座る海星くんが、私と樹くんの間からひょっこり顔を出す。
「え? はい。スーハー⋯⋯スーハー⋯⋯」
海星くんのアドバイス通りに深呼吸すると、酸素が身体の中を巡るような、爽やかな感覚がする。
「⋯⋯⋯⋯顔色⋯⋯⋯⋯戻った」
深呼吸を終えた私の表情を見届けると、海星くんは満足そうに座席に戻った。
そんなに酷い顔をしてたのかな。
心配かけちゃったみたい。
「冬夜さんの指示をちゃんと聞いてたら大丈夫だから。むしろ、いつもセーブしてた『デストロイヤー』も撃てるんだから、案外爽快かもよ」
樹くんの口調は、いつも通りのどこか他人事のような、突き放すような語り方だけど、勇気づけようとしてくれているように聞こえた。




