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14.僕らのヒーロー


 あれから数日後、陽太さんから、あやめ先輩の処遇について説明を受けた。


 あやめ先輩は今まで、未成年の女性隊員を束ねるリーダーの役割を担ってきて、戦闘力とカリスマ性を評価されていた。

 けれども、規律を乱したり、遅れを取ったりする隊員のことは、徹底的に躾けるといった、恐ろしい一面もあったらしい。

  

 全ては正義感の暴走とのことだけど、私にやったのと同様の手口で、過去にも何人かの女性隊員を痛めつけていたことが発覚し、無期限の自宅謹慎を言い渡されたそうだ。


 しかし、本人からの申し出があり、最終的には除隊処分になったとのこと。



「ヒーローマインドの検査は、入隊時だけじゃなくって、定期的に実施するべきだよね〜八年も経ってたら、性格だって変わっちゃうし!」


 しんみりとした雰囲気の陽太さんに対して、いつもと変わらぬテンションで語りかける米谷さん。

 この人は空気が読めないのか、そもそも読む気がないのか。


「僕は彼女の事をかばうつもりもないし、分かってやって欲しいだとか、許してやって欲しいなんてことも思わない。僕は彼女の代わりに、小春くんに全てを説明する責任を預かっただけだ。ただ、僕がもう少ししっかりしていれば、今回の事は防げたかもしれないと反省している。本当に申し訳なかった」


 誠実にも陽太さんは、私に向かって頭を下げてくれた。


「陽太さんは悪くないと思います。周囲を納得させられるような成果を挙げていないという点では、私にも非があります。これから頑張りますので、どうか、引き続きご指導のほど、よろしくお願いします」


 その場では硬い握手を交わして、お開きとなった。


 

 その日はいつも通り、樹くんと海星くんとブレードの訓練をして、家に帰った。


「ただいま〜」


 持ち帰った洗濯物をかごに入れ、食卓につく。


「やったー! 今夜はハンバーグだ! しかもヒーローチーズが乗ってる! 最高!」


 ヒーローチーズと言うのは、今代の13代目六連星(プレアデス)の武器の絵が描かれたスライスチーズの事で、お求めの際は全国のスーパーマーケット等で購入可能だ。


 ちなみに一袋六枚入りで、今日はグリーンの専用武器、ハリケーン・サブマシンガンのチーズだ。


「あんたってば、いつまでそうやって子供みたいな反応をしてるのよ。女の子なのに、全く」


 お母さんは呆れたような顔をしているけど、こうやって、私の好みのものを買ってきてくれるんだもんね。


「⋯⋯⋯⋯そう言えば最近、やけにタオルと肌着の洗濯物が増えたわね」


 洗面所に向かったお母さんは、洗濯物のかごの中身を洗濯機に移しながら、ぶつぶつと言った。


「あ! そうだね! 給食室って暑いし、配膳でやたらと歩き回るから!」


 最近、戦闘訓練続きで汗だくだなんて、とてもじゃないけど言えない。


「そう言えば今日、弁当を忘れて昼に食堂に行ったけど、小春はいなかったな」


 お父さんはハンバーグを食べながら、さらりと爆弾を落とした。


「そう? 会えなくて残念だったね〜私たちも交代でお昼休憩を取るからさ!」


 お母さんに対してはある程度誤魔化しが効くけど、お父さんにバレるのは時間の問題だ。

 しかも、よりにもよって人事にいるんだから、異動したことがいつバレてもなんら不思議はない。


 遅くとも月初の人事異動の発表でバレる。

 タイムリミットは迫りつつある。


「あ〜美味しかった! 明日は久しぶりに秋人のお見舞いに行ってこよ〜っと! ご馳走様でした〜!」

 

 食卓に居座るのはリスクが高いからと、大急ぎで夕食を済ませ、部屋に閉じこもった。


 このままではいけないのは、分かってるんだけどな。

 問題を先送りにしても良いことはないけど、今は両親に夢を反対されるのが怖かった。



 翌日、電車で一駅の場所にある、殿宮県立総合病院にやって来た。

 お母さんからの預かりものも、暇つぶしになりそうなグッズも持った。


 秋人がいるのは7階の循環器病棟だ。 

 エレベーターがなかなか来ないので、訓練がてら階段で登ることにした。


 病棟の入り口で面会申請書を書き、許可証を首からぶら下げる。


 秋人が入院しているのは、奥の方の広めの個室だ。

 一家が注意区域に住んでいるから、国が入院費用から個室料金まで、全てを負担してくれている。


 一度も病院から出たことがない秋人には、せめて広い部屋を使わせてあげたいという、私たちの思いを国は叶えてくれた。

 リスクと隣り合わせになることと引き換えに。

 

 ただし、移植を受けたければ自費で海外に渡るしかない。

 この国では移植の件数自体も少ないから。


 

「秋人〜起きてる〜? 今日も色々持ってきたよ〜」


 ノックをしたあと、引き戸を開けて中を覗く。

 秋人はベッドの頭側を起こして座っていた。

 

 そして、ベッドの側の椅子に腰かけていた面会客に、自分の目を疑う。


「え!? 陽太さん!? どうしてここにいるんですか? 秋人と知り合いだったんですか?」


 我らが14代目六連星のリーダー、赤木陽太その人だ。


「秋人くんのお姉さんが小春くんだったのか! 苗字が同じだし、どことなく雰囲気が似ている気はしていた。実は数年前にファンレターをもらって以来、時々こうして会いに来ていたんだ!」


 陽太さんは胸の前で拳を作って、爽やかな笑顔で笑った。


 血を分け合った兄弟である秋人もまた、根っからのヒーローオタクである。

 このパーフェクトヒーロー赤木陽太に憧れるのも至極当然のこと。


 そうか。陽太さんは長い間、秋人の支えになってくれてたんだ。

 

「陽太さん、秋人に力をくれてありがとうございます! 秋人も教えてくれたらよかったのに! 別に二人の仲を邪魔したりなんかしないよ?」


「すまない。僕が秋人くんに、誰にも言わないで欲しいと頼んだんだ。ファンレターをくれた全ての人の元に行けるわけじゃないからってね。秋人くんは熱心に手紙を書いてくれたし、気が合いそうだから、個人的に会ってみたくって。今では僕が彼に話を聞いてもらって、力をもらっているんだ」


 陽太さんは秋人の肩に手を置き、優しく微笑んだ。

 陽太さんは、あやめ先輩の事で悩んでいて、それで秋人に会いに来てくれたのかな。


「お姉ちゃんも陽太くんと知り合いになれてよかったね! 防衛隊の給食部に入れたんだもんね! 仕事は楽しい? お姉ちゃんが陽太さんの料理も作ってるんでしょ?」


 秋人は前のめりになりながら、目を輝かせる。

 その余りにも純粋で眩しい瞳に嘘をつけるはずもなく⋯⋯


「秋人、あのね。お父さんとお母さんには内緒にして欲しいんだけど⋯⋯」 


「うんうん! どうしたの? 彼氏でも出来た? お母さんが最近のお姉ちゃんは何だか浮かれてるって言ってたよ! まさか! お相手は陽太くん!?」


 激しく妄想を膨らませる秋人を落ち着かせ、自分が憧れの六連星(プレアデス)に選ばれたことを伝えた。


「え! お姉ちゃんすごいじゃん! お母さんは120%反対するかも知れないけど、たくさんの人がお姉ちゃんの力を必要としてるってことでしょ? そんなの夢みたいじゃん! お姉ちゃんは昔からヒーローになりたかったんだし、僕は全力で応援するから!」


 両手を握って、力強く上下に振る秋人。


「そんなに振り回したら、胸が苦しくなるよ? ね?」

 

 陽太さんと二人がかりで、再び興奮した秋人落ち着かせる。

 元気になって欲しくて面会に来たのに、負担をかけてどうするんだ。


「小春くんはまだご両親に、六連星入りのことを話していないのか。余計なお世話かも知れないが、後々のことを考えると先延ばしにしないほうが良い」


「そうですよね。すみません、なんか、あっちもごちゃごちゃ、こっちもごちゃごちゃな感じで⋯⋯」


「急な抜擢だったんだから、それも仕方ない。ご両親を説得する際には僕も同行して、任務内容や安全策について一緒にご説明しよう。一人だと心細いだろう? 事前に飯島本部長にも話を通しておけば、誠意をもって桜坂課長とも話をしてくださるはずだ」


 まさか、そんなことまで言ってもらえるなんて。

 はっきりとした口調と自信溢れる笑顔に、そっと背中を押してもらえるような気がする。


 私たちのリーダーは、なんて温かくて頼もしい人なんだろう。

 

「ありがとうございます! 一人で説得できそうになかったら、お願い出来ると助かります!」


「あぁ、もちろんだとも!」


 陽太さんは、その後、用事があるからとすぐに帰って行った。

 私も当面の着替えや、お土産に買ってきた防衛隊基地限定の六連星グッズ等を渡したあと、お昼時には帰ることにした。



 そして、とうとうこの日が来てしまった。


 ある日の朝、六連星の作戦会議室に向かおうと、私服で廊下を歩いていた時のこと。


『緊急要請、緊急要請。上守城周辺にマンティス型エイリアン多数発生。全部隊、至急出動せよ』


 防衛隊基地内に、けたたましいサイレンの音が鳴り響いた。

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