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11.洗礼

 支給されたスカイブルーのジャージに着替え、トレーニング施設にやって来た私は、指紋認証システムに手をかざしながら、ドキドキしていた。


 しばらく待機すると表示された『Welcome! Koharu Sakurazaka!』の文字。


「来たー! かっこよすぎ! スパイ映画みたい! いや、スパイは指紋認証とかしないのかな?」


 今日は、昨日に引き続き、樹くんと海星くんが面倒を見てくれるとのこと。

 二人が主に、ブレードの扱いを教えてくれるそうなので、私は二人が来るまでに、ボウの自主練をしようというわけだ。


 今の時間、樹くんと海星くんは、光輝くんと同様、ポジション毎の集まりに参加している。

 樹くんはサポーターで、海星くんは近接攻撃(メレー)


 私が今後そのような会に参加する場合は、冬夜さんと一緒に遠距離(ロングレンジ)ということになるそう。

 ちなみに、陽太さんは中距離(ミドルレンジ)だ。



 長距離用の射撃場の予約が取れたので、ひたすら練習あるのみ。

 射撃場では、的を壊してしまっても、次々と新しいものが自動的に下からせり上がってくる仕組みらしく、多少の無茶も出来るとのこと。


 どうやら、ゆっくり時間をかけながら弦を最後まで引き絞ると、最高火力が出せるっぽい。

 また爆発したら怖いから、そこまで本気ではやってないけど。


 普通の威力にするためには、軽く引いて、ポンと矢を放つ必要がある。

 それでもディア能力で作られた矢は推進力を失わずに直進する。

 ただ、照準を合わせるのに時間をかけられないし、弓を構えたままで長時間待機するのも難しい。

 

 当面の目標は、狙った場所に、狙った火力で矢を当てることだ。


 ひたすら矢を放ち続けていると、誰かが部屋に入ってくる気配がした。


 振り返るとそこには、綺麗な女の人が立っていた。

 上級隊員のスカイブルーのジャージを着た、黒髪ロングの色白美人。

 キリッとつり上がった目に、色っぽい口元のほくろ。

 落ち着いた雰囲気から察するに、大学生くらいだろうか。

 

 腕を組みながら、こちらに冷たい視線を向けてくる。


「お疲れ様です。何か御用でしょうか?」

 

 特に話しかけてくるわけではないので、自分から声をかけたけど、私の声が聞こえていないのかってくらい、反応が乏しい。

 

 もしかしなくても、嫌な感じがする。


「あ〜! あやめせんぱぁい! そうそう、この人ですよ! 例の問題児は!」


 あとからぞろぞろと入って来たのは、中高生くらいの女性隊員たち。


「そう。良かったわ。人違いじゃなくて。じゃあ、桜坂小春さん。ちょっと一緒に来てくれないかしら?」


 あやめ先輩と呼ばれた人物は、有無を言わさぬ雰囲気で一方的に告げる。


「は⋯⋯はい⋯⋯」


 あやめ先輩のあとをついて歩くと、女性隊員たちに左右と後ろを囲まれた。

 まるで、逃さないとでも言いたげに⋯⋯


 すれ違う隊員たちが、ギョッとしたような目で見てくる。

 もしかして、もしかしなくても、締められるんじゃ⋯⋯

 

 たどり着いた先は、昨日、樹くんと海星くんがティラノを倒したのと同じ、2〜4人用の訓練場だった。

 ガラス張りとは言え、人目につかない最奥の部屋だ。


「桜坂さん。私と決闘(デュエル)しましょう」

  

 あやめ先輩は優雅な手つきで、腰からブレードを取り出した。

 鋭くつり上がった目で私をじっと見つめてくる。

 軽く首を回すと一つくくりにした長い髪がさらりと揺れる。


 この人は上級隊員だし、出で立ちからして、間違いなく実力者だ。

 それに、尋常じゃない殺気が出ている。


「私、まだ全然、ブレードの扱いには慣れてなくって、これから習得するところなんです。勝負にならないかと⋯⋯」


 見逃してもらえないだろうかと、両手を挙げて降伏のポーズをする。

 しかし、あやめ先輩は許してくれなかった。 


「けど、あなたは六連星(プレアデス)に選ばれたんでしょ? もし今、街にエイリアンが現れたら? あなたは人々を救うために、出動しないといけないのよ? 街の人にも同じ事が言えるのかしら」


 あやめ先輩がおっしゃることは、ごもっともだ。

 私が正規のルートで六連星入りしなかったことは、街の人には関係ない。


「でも、だからといって、弱い自分のままで出動することにだって、当然リスクがあります。そのために私は自主練をしていたんです。戻っても良いでしょうか?」


 踵を返して訓練場のドアを開けようとするも、何故か鍵が開かない。


 廊下にいる子たちがタッチパネルで何か操作したんだ。

 意地悪そうな顔で笑いながら、こちらの反応をチラチラ見てくる。


「やっぱり、あやめ先輩がピンクをやるべきだよね」


「あの子が横入りしてこなければ、間違いなくあやめ先輩が選ばれてたもん」


「これであやめ先輩があの人を倒せたら、上層部も考え直すはず」


 なるほど。

 そういうことか。

 あやめ先輩とこの子たちは、私がピンクに選ばれた事に納得できずにいると。


 それは当たり前の反応だろうけど、それにかこつけて、自分に有利な盤面で私をボコボコにして、『わからせてやる』つもりなんだ。


「さぁ! 早く! 逃げずに剣を抜きなさい!」


 あやめ先輩は苛立ったように怒鳴り声を上げた。

 

 この勝負が終わるまで、ここを出させてもらえそうにない。


「分かりました。お願いします」


 私がブレードを構えると、カウントダウンの音声が流れ始めた。

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