100.光が射す
翌日以降、流星くんは時間を見つけては、私の話し相手になってくれたり、UFOの内部を案内したりしてくれた。
今、訪れているのは『史料室』と呼ばれる場所で、ガラス張りのショーケースの中には、殿宮県のジオラマがあって、空にはUFOの模型が浮かんでいる。
「UFOの素材って何で出来ているんだろう? 固体というよりは液体なのかな? どうやって浮いてるの?」
UFOの模型はよく見るとグレーのボディが、プルプルと揺れていて、地上の物質で言うところの水銀に近いようにお見受けする。
「固体で作ってしまったら、分裂や合体に支障をきたすからな。メルタルと呼ばれる液状の金属だ。動力は電気と祈願力。この部分で磁場が生成されることで、磁気浮上が起こる」
流星くんはジオラマを使って、熱心に説明してくれる。
細かい原理は分からないけど、ずーっと先を行くテクノロジーなんだろう。
「流星くんて、意外と親切だよね。だけど何故か一人も友だちがいない」
ここ数日、彼と過ごしてみて気づいたのは、意外と地上の人間に対して、多少の敬意を払ってくれているということ。
それはもしかしたら、自分たちのための『尊い犠牲』みたいな感覚なのかもしれない。
そんな彼は、プリンスと呼ばれる立場でありながらも、アギル星人に対しても威張ることなく接している。
けれども、どこか孤立している感は否めなくて⋯⋯
「お前さぁ、人が気にしてることをズケズケ言うなよ。仕方ないだろ? 俺はプリンスなんだから。平民が気軽に接していい存在じゃないんだろう」
流星くんは結構ショックだったのか、傷ついたような顔をして、近くのベンチに腰かけた。
「ごめんごめん。あまりにもストレートに言い過ぎた。でも、実際、流星くんは現状に違和感ないの? 流星くんのお父さんとお母さんは誰って聞かされてる? どういう設定なの?」
私も隣に腰かけ、彼の顔を覗き込む。
「設定ってお前⋯⋯俺の両親は王族として、アギル星に残って勇敢にも戦った。けれども、最期にはエンペラー軍の攻撃により命を奪われた。生き残った俺は、騎士たちに連れられて、ここに合流した」
それが流星くんが聞かされている自分の生い立ちなんだ。
「けど、確かに違和感はあった。どう見たって俺だけ見た目が違うし、周りもよそよそしかったから。船長はそれは俺の能力が異様に高いから、突然変異みたいなものだって言ってた⋯⋯そう言えばお前、初めてここに来た日に変なこと言ってたよな?」
流星くんは私の話に耳を傾ける気になったのか、真剣な表情で前のめりになった。
「人から聞いた話だから、私も詳しくはないよ? けど、流星くんの本当のお父さんとお母さんは、地上で生きてる。今、流星くんが誠心誠意尽くしているこの星は、流星くんのお父さんの故郷を奪った張本人。この写真を見たら、きっと信じてもらえると思う」
充電してもらったスマホを取り出し、六連星の六人で撮影した写真を表示させる。
「ほら、これが流星くんのお兄さんの海星くん」
スマホを受け取ると、流星くんの動きが止まった。
「なんだよ、こいつ。俺と瓜二つだ」
他にも、学校で撮った写真や、食堂で撮った写真、年越しで撮った写真など。
流星くんは一枚一枚じっくりと時間をかけて確認していく。
「お願い流星くん。これ以上、敵の味方をしないで。ここにいる人たちは、幼い流星くんをさらって行った、悪い人たちなんだよ? 利用されてるのは私だけじゃない。流星くんだって⋯⋯」
説得を試みるも、それ以上言うなとばかりに肩に手を置かれた。
「仮にそうだったとしても、俺が寝返ったところで、どうにもならない。もし、お前の話を信じて、二人で逃げ出したとしたらどうなる? 地獄の果てまで追い回されて、たくさんの人間が殺されるんだ」
「それは⋯⋯」
返す言葉が見つからない。
でも、だからって、長いものに巻かれてろって?
全然納得できないけど、この星を守りたいのなら、二人してアギルに従う以外に方法はない。
「少し落ち着いて考えたい」
流星くんは太ももの上に肘をついて、項垂れた。
「うん。分かった。先に戻ってる⋯⋯」
一人で史料室を出て、自分たちの部屋に向かう。
長い廊下には、膝よりも低い位置に採光用の窓が空いている。
床を這うようにして覗き込むと、見慣れた街が見えた。
次の襲撃まであと五日か。
もうそろそろ、覚悟を決めないといけない。
スマホを取り出して、樹くんへのメッセージを打つ。
『流星くんのこと、説得出来なかった。今の私たちには力がないから。この星を守るためには、アギル星に行くしかないみたい。結局まだ決断は出来ないけど、もう他に方法が思いつかない。私は樹くんのことがずっと大好きだけど、樹くんは誰かと幸せになってね』
送信ボタンを押して、アプリを閉じる。
あーまた泣けてきた。
せっかくだし、今日の分のデザライトを作ってもらわなきゃ。
流星くんの元に戻ろうと、踵を返したその時。
館内放送が流れた。
『えーあー⋯⋯テストテスト。これ、もう、繋がってんの? 話してええの? よっしゃ。えー⋯⋯アギル星の皆さん、こんにちは。こちら、弱小惑星S-003の防衛隊、アトモスフィアです。UFOの全乗組員に告ぐ。今から一時間後に、UFOを爆破します。こちらの要求は桜坂小春および、青山流星の解放。そして、この星からの撤退です。はい! 通訳して!』
突然始まった放送は、光輝くんの声に聞こえた。
続いて、ゴーゥヤさんと思われる人が、アギル星人語を話す。
UFOを爆破する? 私たちの解放と、この星からの撤退を要求?
「地上に降りて来ても無駄ですよ〜こちら、五万台もの飛び跳ねる砲台がいますから〜!」
光輝くんは煽るように話を続ける。
飛び跳ねる砲台?
それってまさか⋯⋯
再び窓を覗き込むと、防衛隊の基地の上に馬鹿でかいカエルがいるのが見えた。




