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1.防衛隊入隊日の出会い


 街の上空を覆いつくすほどの巨大UFOは、いくつかの小さなユニットに分裂した。

 空を素早く移動して世界各地に広がり、主要都市に大量のエイリアンを降らしていく。


 スクリーンに映し出されたのは、各国の防衛隊員たちが武器を手に取り、戦いを挑む姿と泣き叫ぶ子どもたち。


「ひどい。こんなの私たちに勝ち目がない⋯⋯」


桜坂 小春(さくらざか こはる)くん。君なら必ずや大義を成し遂げられる。『世界が君に夢見ている』」


 男性は敵地に乗り込まんとする私に向かって敬礼をした。







 ――20××年 6月24日。突然、この国の上空に、超巨大UFOが現れた。

 

 その大きさは、直径50kmという、途方もないもので、四方を山に囲まれた殿宮(とのみや)県の空の全てを、分厚い雲のように覆い尽くした。


 円盤状のUFOは、下部中央から強烈な光を放ち、初めてこの光を見た人々は、太陽が落っこちて来たのだと、パニックに陥ったという。


 UFOから解き放たれ、地上を暴れ回るエイリアンには、銃や刃物といった従来型の武器は軒並み通用せず、人類は絶望に突き落とされることになる――


 しかし、皆には安心して欲しい。

 なんとしても、この悪夢を終わらせるべく、我々『防衛隊〈アトモスフィア〉』が立ち上がった!


 人類の希望『デザライト鉱石』を元に作成された武器によって、エイリアンの討伐が可能となったのだ!


 さぁ! 勇気ある者たちよ! 

 愛する者を守るため、この美しい星を救うため、共に戦おう!

 世界が君に夢見ている!!



 研修室の正面のスクリーンに投映された動画は、そこで終了した。 


 ナレーションを務めていたのは、声の感じから察するに、初代レッドだろう。

 この組織の花形であるレンジャー部隊の中でも、最も脚光を浴びるチーム、『六連星(プレアデス)』の頼れるリーダー。

 かっこいいな⋯⋯


「というのがこの組織――防衛隊(アトモ)の入隊時説明動画です。ここにいるみなさんは、管理部門に配属となりますから、戦闘に関わる機会はありませんが、この国を、世界を、救いたいと思う気持ちは同じです。みなさんの活躍を願っています」


 研修の講師である管理本部長は、私たちにメッセージを贈ってくださったあと、退室して行った。


「これにて、入隊者合同研修を終了する。この後は各部門に分かれ、部門長の指示に従うように。解散!」


 人事部長は、各部門の集合場所をスクリーンに映し出す。


 私は、配属先である給食部門の待ち合わせ場所へと向かった。




 私の上司となる給食部の部長は、五十代前半位の細身の女性だ。

 部長の案内でエレベーターに乗り、長い廊下を歩く。


 金属で出来ているような明るい銀色の壁に、少し青みがかった灰色の床と天井。

 天井と床を二本ずつ走る、真っ白なライン照明。

 SF映画に出てくる宇宙船のような建物に、心が躍る。


 これから向かうのが、私の新しい職場――給食室。

 そこで正義の味方、防衛隊員たちの食事を作るんだ。


「桜坂小春ちゃん⋯⋯だったわよね? 貴女はどうして、ここで働こうと思ったの?」


 部長は首からぶら下げたカードキーで、次々と扉のロックを解除しながら私に話しかける。

 この建物はいったい、どれだけ厳重なセキュリティに守られているのか。


「はい! 私は物心ついた時から、ずっと六連星(プレアデス)に憧れていまして! 正義の味方をサポート出来るなんて、やり甲斐を感じますから!」


 本当はレンジャー部隊に入るのが夢だったけど、サポート役だって重要な役割だ。

 その責任の重さを思うと、光栄すぎて、感動が湧き上がり震えが来る。


「そう。まだ若いのに偉いわね。ウチのメンバーは、みんないい子たちだから、緊張しなくて大丈夫だからね」


 部長は、給食室の扉を開ける前に、笑顔でこちらを振り返った。


 給食室の中も廊下と同じようなSF仕様だけど、お風呂に出来そうなくらい巨大な鍋がいくつも並び、大量の食材を洗うためか、蛇口がついた洗い場がずらりと続いている。

 小学生の時に窓の外から見えた、給食室そのものだ。

 

 それから、さっそく先輩方の前で、挨拶をする事になった。

 

「こちらが今年度採用の新メンバー、高校二年生の桜坂小春ちゃん。学業と両立しながら働いてくれるとのことで、主に平日の夜と休日のシフトに入ってもらいます。市内にお父さんとお母さんと暮らしていて⋯⋯⋯⋯」


 部長は道中で話した内容を要約して、丁寧に紹介してくださった。


「桜坂です! 幼い頃から空手をしておりましたので、体力と気力には自信があります! 精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」


 元気よく挨拶すると、みなさん笑顔で拍手してくれた。

 よかった。本当に良い人たちだ。


 これから一緒に仕事をする仲間⋯⋯

 仲良くなれたらいいな。


「では、さっそく桜坂さんには、仕事をしてもらいます。ここでの業務は座学よりも、身体で覚えてもらった方が早いですから。何か手伝って欲しい仕事がある人〜?」


 部長の問いかけに、一人の先輩職員が手を挙げた。


「はい! 風邪で寝込んでいる隊員に、お粥を持って行って欲しいです! 今日は四人もいるので大変だけど⋯⋯」


 先輩は申し訳なさそうに眉を下げる。


「それは良いですね。館内の構造も覚えてもらわないといけませんから」


 こうして出勤初日の初仕事は、寮の個室への配膳となった。



 衛生的なユニフォームに着替え、マスクを付けて、衛生帽をかぶる。


 配膳カートの上には四つのお盆。

 灰色の土鍋の中身は、卵がゆとのこと。

 

 寮は基地と直結しているから、建物内に段差はないし、エレベーターも完備されているから、仕事はサクサク進んだ。

 それぞれのお盆に乗っているメモを頼りに、車輪のついた配膳カートをガラガラと押しながら、隊員たちの部屋を訪ねる。

 

 最後の部屋が、408号室の『緑川 樹(みどりかわ いつき)さん』か。


 カードキーを使ってエレベーターを呼び、自動ドアをくぐって408号室を目指す。


「緑川さん、お疲れ様です。給食部です。お粥をお持ちしました」


 インターホンを押して、声をかける。

 最初は緊張したけど、四件目ともなると、セリフもスラスラと出てくるようになるものだ。

 

「はい⋯⋯ありがとうございます⋯⋯入ってすぐの部屋の⋯⋯テーブルに⋯⋯お願いします⋯⋯」 


 スピーカーから弱々しい声が聞こえ、ロックが解除されるカチッという音が鳴る。

 どうやらこのインターホンは、スマートフォンと連動しているようで、隊員たちは起き上がらずともロックを解除出来るらしい。

 

 前の三件も同じような流れで、隊員本人と直接顔を合わすことはなく、指定された場所に料理を置く形だった。


「わかりました。それでは失礼します」


 玄関を開け、中に入ると、宇宙船のような廊下とは、がらりと雰囲気が変わり、落ち着く空間が広がっていた。


 恐らく1DKのような間取りなんだろう。

 左手にキッチン、右手がトイレ風呂洗面、そして正面のドアの向こうが寝室と思われる。

 ご指定のテーブルは、入口を入ってすぐのところにあった。


「テーブルの上に置きました。それでは失礼いたします。お大事に」


 声をかけ部屋を出ようとすると、背後からドサッと大きな物音がした。

 なんだろう?

 まるで、人が倒れたような⋯⋯


「緑川さん? 大丈夫ですか? 物凄い音がしましたけど⋯⋯」


 念の為声をかけるも、反応はない。


「緑川さん? あの〜生きてますか? 寝ちゃっただけ⋯⋯ですよね?」

 

 扉に耳をつけて中の様子を伺っても、部屋の奥は静まり返り、物音一つしない。


「え? まさか、倒れてますか? こういう時ってどうしたら⋯⋯」


 急変してしまったというのが最悪のパターン。

 でも、ただ寝ているだけだったら?

 

「心配なので開けますね。勘違いだった場合は、後でいくらでも謝罪しますから! ごめんなさい!」


 謝りながらドアを開けると、正面の窓際にベッドが、左右の壁沿いには書き物机や本棚、ソファが置いてあった。

 ベッドやソファ、床の上に人はいない。

 ということは⋯⋯


 部屋の奥まで進むと、ベッドと窓の間の隙間に座り込むようにして、壁にもたれている緑川さんを発見した。


「緑川さん!! 大丈夫ですか!? 分かりますか

!?」

 

 緑川さんは、私と年が近そうな高校生くらいの男の子だった。

 透き通るような肌に長いまつ毛、モデルさんのように整った寝顔は、赤く火照っていて、薄く開いた唇からは、苦しそうな呼吸が漏れている。


「もしもし! 救護部でしょうか!? 給食部の桜坂です! 緑川樹隊員が、寮の部屋で倒れています! 声をかけても反応がありません! 熱が高くて、息苦しそうです! すぐに来てください!」


 入隊初日から波乱の幕開けとなった。

この度は、数ある作品の中から、本作を見つけて頂きありがとうございます!


毎日更新の予定ですが、時間帯は固定ではありませんので、ぜひ『ブックマークに追加』&『更新通知ON』をお願いいたします!

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