俺の青春
夕日が眩しい時間帯、俺は家に向かって帰る。
「今日も今日とてやることねぇ……」
俺は現在高校一年生、特に部活をしているわけでもなければ何かしら打ち込める趣味があるわけでもない。なんなら小遣いがないから金もない。
おまけに付き合いが悪いから友達もいない。
グラウンドでサッカーやらテニスやらやってる連中を『たかだか1、2才歳が違う程度でしごかれて可哀想に』なんて斜に構えてみたりもしたが、今となってはそれが羨ましくもある。
「バイトしたくても許可くれないし、部活したくても金がかかるもんは出来ないし趣味もない。ほんとに帰ってテレビ見て飯食って寝るだけ。なんなんだろな」
あいつ独り言うるさいよな、たまたま帰り道が同じなだけのクラスメイトからそんな声が聞こえてきたが知ったことか。
こっちがどれだけぼっち生活してきたと思ってんだ。自分以外で喋る相手なんか親くらいだぞ。
「なんかこう、めちゃくちゃ打ち込めるもん。全部放り投げても打ち込める何かが欲しいな」
そんな風に考えながら今日もまた何度歩いたか分からない通学路を歩いて自宅まで帰る。そして道中で一軒の書店にある本が目に入った。俺が最近見た深夜アニメの元になった小説だった。
「……あれの原作ね」
立ち読みで数ページだけ読んでみる。アニメと違うところがあったり、映像だけでは見えてこないキャラクターの内面などが見れて、なんというか……
「こんな世界もあるんだな」
それまで俺が見た小説といえば国語の教科書に書かれているようなお堅い難しい物ばかりだったがこれは教科書に載っているような堅さはない。どこまでも自由な文体で、分かりやすくて、キャラクターに惹かれた。
「ぼっちゃん、それ買うの? 買わないの? どっちさ?」
「え? いや買いはしないよ」
「じゃあ帰っておくれ。Ⅰ時間も読むだけで居座られちゃ迷惑だよ」
書店の店長に追い出された。流石に全部読み切るのは無理な相談か。
自宅に帰った俺は真夜中にテレビをみながらあの小説のことを思い出していた。
「アニメで見た時とは違う面白みがあったな、アレ」
親は入院していて居ない。俺は高校生になるまで特に見向きもしなかった深夜アニメを見るようになっていた。だがただ見るだけで特に自分では何も生み出してはいない。確かに見ていて楽しいが、それだけだった。
「……俺にもあんなものが書けるかな?」
深夜の3時、俺は自分の勉強机に向き合っていた。授業内容なんてこれっぽっちも書かれちゃいないノートに、今日見た小説のような文章を、自分が書きたいと、読みたいと思えるような文章を書きなぐっていった。
キャラクターを書いて、風景を考えて、見たことも無い国の名前や会ったことも無い人のことを書いていく。国語の授業もまともに受けていないような俺だ、よその人が見れば鼻で笑うような酷い文章だろうが、それでも楽しかった。
「もう6時か、いまから寝ても多分起きれない。このまま書いてみようか」
誰も居ない家の中、俺のいる部屋だけが明るい。
足りなかったパズルのピースがようやくみつかった、そんな気分。それからの俺はただただ夢中になって書き続けた。高1から高2に上がり、卒業する時になっても暇があるときはただただ書き続けた。
高校を卒業して10年後。俺は社会人として仕事に集中していて、昔書いていた小説のノートを見つけた。
とても見れたものじゃない。何もかも拙い、けど不思議と引き込まれる。
「また、書いてみるか」
俺は再び、筆をとった。