戸惑う
*
「はい!これで完成です。
効果は、薬神様の折り紙付きですよ!」
嬉しそうに話すマリーを見る。
魔力の大量使用による全身筋肉痛のような痛みと倦怠感があるはずだし、顔色もあまり良く無い。それなのに、薬が作れてよかったと満面の笑みで言う……
(本当に貴女と言う人は……)
そう思うと、体は自然とマリーを抱きしめていた。
ふわりと甘さと共に薬草の香りが鼻を掠める。心地よい香りについもっと嗅ぎたくなり、顔を擦り寄せてしまった。
すると、今までぴくりとも動かなかったマリーが少し身じろぐ。
「…………あの…誠司さん?」
多少の上擦り声は聞かなかったことにしよう。きっと、びっくりしているだろうから。
俺は、マリーを抱擁から解放すると、
「薬、飲むね」
出来た瞬間から劣化が始まるため、早々に蓋を外し、一気に飲み干した。
(ゔっ……
やっぱり何とも言えない味だな)
眉間に皺を寄せながらも、飲んだ瞬間からじんわりと温かさが体の奥深く隅々まで行き渡るような感覚がある。
これが薬の効果なのだろうか?
「確か、この薬の効き目を診ながら解呪をするんだったよね?
動いた方が黙っているより薬の回りが早そうな気がするからハクに手合わせをお願いしようかな。
でも、その前にマリーに“感謝のキス”を贈りたいんだけどいい?」と、尋ねる。
驚きながらも、「はい。もちろんです」と受けてくれるらしい。
(やはり“感謝のキス”は、貰い慣れているよな…)
そんなことを頭を掠めたら、趣向を変えたくなる。
ゆっくりとした動作でベッドに腰掛けると、右手で頬を覆っていた髪をそっと耳に掛ける。
驚いた顔で俺を見ているマリー右頬に左手を添えると暫し見つめて微笑む。
「マリー、薬を作ってくれて本当にありがとう」
ゆっくり顔を近づけると左頬にチュッとリップ音を鳴らした。
そっと離れると……
(んー、まぁ、予想通り…かな。
これで少しでも俺に対して何かしら思ってくれるといいんだけど)
マリーは色白だから顔も手もはっきり分かるくらい真っ赤。
驚きのあまり放心状態のマリーはそのままにしておこう。
「マリーは、そのまま安静にしててね。
じゃ、また後で…」
放心状態のマリーの頭を撫でると、手を振って部屋を出る。
『手慣れているのかと思ったが…
どうやら違うらしいな』
それまで何も言わず黙って見守ってくれていたハクが、俺を見てクククッと笑っている。
「ハク…俺だって…必死なんだよ!
ちょっとでも爪痕残したいし、その他大勢と一緒なんてなりたくないんだよ!」
『まぁ、マリーの前でその顔を出さなかっただけ褒めておこう。
ほら、手合わせをするのだろう?
気持ちを切り替えろ』
慣れないことしたせいで顔と耳が熱い…
両頬をパンパンと叩いて気持ちを切り替えると、ハクに促されて外へ出掛けた。
*
「……あれは、本当に“感謝のキス”…なの?
私がいつも貰ってたのとは全然違う……」
誠司さんとハクが部屋から出て行ってから暫くすると戸惑いから疑問に変わる。
ここは日本とは違いスキンシップが多い世界の為、“感謝のキス”は、依頼者の方々からよく貰うのだ。手の甲に“感謝のキス”を。
(まあ、たまに嬉しさのあまり感極まった方がハグをくださることもあるけれど、それとも違うし…)
さっきの誠司さんの……
……あれは…
何だか、す、好きな人にするような…キスみたいだった…
つい思い出してしまい、顔が熱い。
いやいや…そう、そうよ!
あれは、私を揶揄ったんじゃない?
心配をかけたことに対する趣向を変えた悪戯なのかも。
もしかして、私のことを……?なんて、自意識過剰にもほどがある。
知り合ってまだ少ししかたってないのに、恥ずかしい…
誠司さんと私は、依頼人と請負人の関係。
それだけ。うん、そうよ!それだけだもの。
そう自分を納得させると、そわそわするようなもやもやするような気分が少しなくなったような気がした。
とりあえず、寝てしまおう。
大量の魔力使用の反動で体は痛いし、すごく眠たい。
もしかすると、このなんとも表現しがたい気分もそのせいかもしれない。
寝て回復すればそれも無くなるかもしれない。
横になり、掛け布団を掛けて目を瞑った。




