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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

連続殺人鬼『怪人mirror』

作者: かぼちゃん

初投稿作品です。よろしくお願いします。

『続いてのニュースです。東京のすみだ水族館のペンギンショーの特集です。現場の杉岩アナ――』

「おい、海斗―。父さんもう仕事に行くから。お前も学校だろ、遅刻すんなよ。」

「はいはい、わかってるよ親父。」

適当に返事をして、親父がいそいそと玄関に行くのを横目に、マーガリンを塗ったトーストをほおばる。運動部に入っている熱心な学生ならまだ暗いうちから登校するんだろうが、特に何か所属しているわけでもない俺は親父より少し遅いくらいの時間になる。

朝食を食べ終わって、テレビを消そうとしたそのとき、妙なニュースが流れてきた。

『速報です。つい先ほど、埼玉県川越市の工場で焼死体が発見されました。警察の話では、遺体の身元は特定中で、状況から殺人事件として捜査するとのことで――』

「ここって俺の住んでる町じゃねえか。こりゃ今日は一日これで持ち切りだな。」

とここで、時計が示す時間に気づく。

「おいおい、こんなことしてる時間じゃねーわ!」

俺はすぐにリモコンを切って、カバンを持って玄関を飛び出した。


高校では、当然というべきか、事件の話題一色だった。それは俺も例外ではなく。

「よう、海斗。さっきのニュース見たか?」

「ん、おはよう隆也。勿論見たぞ、大変なことになってるな」

こいつは川口隆也で、俺の親友だ。キャンプとゲームが好きで、よく二人でスマブラやUFOキャッチャーをしたり、レンタルしたバイクでツーリングキャンプをしたりしてる。

「犯人、逃走中らしいな。学校のなかでばったりコンニチハしちゃったりして」

「流石にないだろ…それに日本の警察は優秀だから、下校の時までにはつかまってるさ」

「それもそうだな、あ、そうだこの前出た宿題なんだけどさ…」

隆也がそういいかけたとき、キーンコーンカーンコーン、とチャイムの音が流れてきた。

「お前らー、時間だ。席に就け」

「やべ先生だ、またあとでな」

「おう」

朝のホームルームでも、先生が開口一番に口にしたのが殺人事件の話だった。確か、放課後の活動を制限するとか言っていたな。だから、クラスの何人かは休校じゃないのかよってぼやいてた。隆也も文句を垂れてた。少なくとも、隆也はこれにかこつけてサボりたいだけだろう。

そんなことを考えてるうちにホームルームが終わり、解散の声とともに学生たちがばらけていく。

隆也がいいかけてたことは案の定というか、宿題の写しのお願いだった。「今日の学食のデザートあげるから!あの先生ガチ怖いんだよ、頼む!」なんて本気で手を合わせられたら断れない。次やらかしたら見せないからな、とは言いつつも、ノートを開いた。


『ええ、どうやら被害者はなにかの刃物で刺されてから焼かれたそうじゃないですか。早く捕まってほしいですね――』

放課後、スマホで開いた動画サイトには今日の昼のワイドショーが流されている。

「まだ、捕まってないのか、アレ。あーあ、今夜はゲーセンに行こうと思ったんだけどな」

「今日は無理そうだな。」

『――それで、遺体のポケットからメモ帳が新たに見つかりまして、それには「mirror」とだけ書いてあったんです。ほう、――』

俺は、その『mirror』の言葉を聞いた途端、なにかひどく寒気を感じたような感覚に襲われた。

「…大丈夫か?顔色悪いぞ海斗」

「あ、いや、気のせいじゃないか?ほら、ぴんぴんしてるぞ、たい焼きみたいに」

「そのギャグセンはどうかと思うけど…まあ、お前がそういうなら」

『○○地区の生徒は下校の準備を開始してください。繰り返します――』

「あ、俺のところだ、じゃあ先に行くな。また明日、隆也」

「ん、また明日」


「鏡…か」

帰ってきた俺はスマホの写真を内向きに起動し、その前で上を脱いだ。

ほどほどの筋肉がある体には右胸から腹にかけて、大きな傷跡が残っている。

「はは、いつ見てもひでーわこれ。」

俺には、親父だけでなく母さんもいた。ただ、その母さんは大変な人で。

どうやら子育てのストレスで、昔の男遊びの激しさを再発させてしまったらしく浮気をした結果、親父にバレてごねにごねたものの離婚することに。当然、俺の親権は父親にわたり、母は多額の慰謝料を抱えることになった。

酷いのはここからで、その晩、親父が外に出てるタイミングで家に母が乗り込んできた。俺の方にくるなり、猿のような奇声で、「あんたのせいで!あんたさえ生まれなければ!」とわめきながら殺そうとしてきた。必死に抵抗したが、当時小学生だった俺は流石に大人の力にかなわず、最終的に割れた鏡の破片で体を切られた。帰ってきた親父により母は取り押さえられ、傷も浅く命には関わらなかった。

ただその時の経験は俺に大きな影を落としたようで、当時は割れてない鏡ですら視界に入れる度に当時のトラウマをフラッシュバックさせて日常生活には大変苦労したし、今でも鏡の直視は不可能だ。

これのせいで、あの英単語を見たときは動揺したが、流石になにかの偶然だろう。

そうであるはずなのに、いくら自分に言い聞かせても嫌な感覚は消えなかった。


制服を着なおした俺はスマホの時計を見て、そのあとで溜息を吐く。

「さて、バイトいくか…なぁにが気を付けて出勤しろだ、学校とはえらい違いだな」

俺は小遣いのために、放課後に近くのコンビニでアルバイトをしている。普通はこういう時は大人が優先して出勤するべきなんだろうが、人手が足りないと店長にごねられて仕方なくいくはめになった。店長の薄い毛が早くハゲになりますように、って祈ってやるからな。

コンビニの従業員スペースに入ると、そこには店長の他に見慣れない人がいた。女性で年齢的には高校生ぐらいに見える。そう思いながら会話を眺めていると、こちらに気づいた店長が話かけてきた。

「おお、宇山君!今日もよろしく頼むぞ!」

「店長…その人誰っすか?」

「ああ、この子は新しく入ってきたバイトの小宮花君だ。教育よろしく頼むぞ。」

そういうとすぐに、ハンカチで額をぬぐいながら奥の部屋に入っていった。

「…えーと、宇山海斗です。わからないことがあったら何でも聞いてね。」

「は、はい、ありがとうございます、よろしくお願いします。」

少しおどおどした返しを聞きながら、内心でかわいそうだなと思った。バイト初日に同じ町で殺人事件があったことに加え、ここの店長のことだからこの子にもごねまくって出勤するように頼んだんだろう。


そのまま、新人の彼女に色々教えながら9時までバイトをした。9時になると、従業員室にはあの人が来る。

「よーす、宇山お疲れさん。そっちの子は新入りか?」

「波部先輩こんばんは。ええ、今日から入ったそうです。」

「あ、小宮花です。よろしくお願いします。」

彼は近所の大学生の波部元和先輩。ラグビー部の副将なだけあって、ガタイがすごくいい。正直、殺人鬼にあっても彼なら余裕で返り討ちにしてしまいそうだ。

「ん、よしここからは任せとけ。ほんとはシフト全部もらい受けれればいいんだがすまないな」

「いえいえ、先輩も大会の追い込みで忙しいでしょう。じゃあ代わりに今度何か奢ってくださいよ」

先輩はこれに、「よしきた」とばかりにガハハと笑うと、俺たち二人にこっちに来いと手招きした。

二人とももう着替え終わっていたので、そのまま外へついていくとそこには白い軽自動車があった。

「今は危ないからな、しばらく車で送っていくことにした。なあーに、店長には許可を取っとる」

俺たちは思ってもないことにしばらく顔を見合わせて、遠慮するのも悪いとのことでご厚意を受けることにした。


それから月日が経って行った。第二の殺人が起こることはなく、はじめは連日報道されていた事件の話も次第に他の目新しいものに埋もれていくようになり、ついには話題にすら出なくなった。

俺たちの学校でも、殺人者はもう遠いところに逃亡して、ここにはいないという判断がされ、一か月もしたころには普通の生活に戻っていた。川口とも、また一緒に遊びにいけるようになったのは本当にありがたいことだった。


シフトの多くが小宮さんと被っていた俺は、次第に彼女に惹かれるようになっていった。

彼女と話すうちに同じゲームが趣味であることが分かり、時々オンラインで遊ぶようになった。

7月の後半、俺はとうとう彼女にデートのお誘いをした。彼女はすこしはにかんだ表情をしながらも、いいですよ、と言ってくれた。

波部先輩にデートプランの相談をしたら、よかったなと肩をたたかれ、一緒に考えてくれた。



当日、俺たちは駅で待ち合わせして、お互いのおしゃれをほめあった後に、そこから東京へと向かった。共通で好きなゲームのお店や、落ち着いたカフェで二人の時間を過ごした。正直内心ではすごい緊張していたが、うまく過ごせたと思いたい。

俺はデートのトリに選んだ東京の水族館で意を決して、温めてきた言葉を言った。

「あなたのことがずっと前から好きでした。付き合ってください!」

「…はい、私も好きでした。よろしくお願いします。」

彼女はそう頬を赤らめてOKしてくれた。

周りから拍手が沸き起こり、俺は少し照れくさくなったのは内緒だ。



「…は?波部先輩、いまなんていいました?」

『なにもなんもその通りのことだ!俺だって何度も言いたくねえよ、信じられないならニュースつけてみろ』

翌朝、夏休みで珍しく朝遅くまで寝ていた俺をたたき起こしたのは一本の電話だった。寝ぼけながら出ると、すぐに波部先輩の焦燥した声が入ってきた。

先輩からそれを聞いた俺は、冗談でも聞いたかのような声でひきつった笑いをしながらニュースを付けた。

『今朝7時ごろ、埼玉県川越市の河川敷で死体が発見されました。警察によると、被害者は同市に住む16歳高校生の小宮花さんと特定されています。――』

頭が真っ白になった。昨日デートで笑いあった彼女が、恋人になったばかりの彼女が変わり果てた姿になっているなんて。まるで天と地がぐにゃぐにゃになった感覚だった。

『――被害者はなにかの刃物で全身に50カ所以上の刺し傷があり、その場で死亡が確認されました。現在、検察による司法解剖がおこなわれているところで――』

ふと、小宮さんから一通のライン通知が来ていることに気づく。

俺は、これを開けずにはいられなかった。とびつくように開くと、そこに書いてあることを見て絶句した。

『mirror』

俺があの時、偶然だと見逃したこの言葉。まるで過去から目をそらすなといわんばかりのメッセージ。俺がかかわったばかりに彼女は死んだのはもう明白だった。

そうか、俺の、俺の、俺の俺の俺の俺の俺のせいで

「あ、あああ、あああああああ!」


次に目覚めた俺が見たのは、真っ白い天井だった。

「ここは…」

見渡すと、ここは病室のようだった。

「海斗、目覚めたのか。ほんとうによかった…」

親父はベッドのすぐそばのパイプ椅子に腰かけ、安堵の表情で涙を浮かべていた。

どうやら親父によると、あのあと夜勤から帰ってきた親父が床に倒れていた俺を見て慌てて119したらしい。殺人が起きたばかりだったので、その時は気が気ではなかっただろう。

親父と話していると、そこに見知らぬコートの男が入ってきた。

「こんにちは、君が宇山海斗君だね?私は埼玉県警の鮫谷警部だ。」

「警部さん…?俺になんのようですか?」

「君も知っているだろうが、被害者のスマホから君宛に『mirror』という単語が送信されている。

4か月前の事件でも、耐火性の袋に入ったメモ帳から同じ文字が発見された。我々警察としては、この二つの事件は同一犯によるものであり、なおかつ君の関係者だと考えている。」

「ちょっと、息子は傷心なんです。いきなりそんなことを言わないでください!」

警部の遠慮のない発言に、親父が思わず抗議する。こういうときでも、俺の味方でいてくれる親父には本当に申し訳ないと思ってしまう。

「…すみませんお父様、不躾な発言だとは私も心得ています。しかし、犯人の目星すらついていない我々警察にとって海斗君は重要な手がかりをもつ存在になります。海斗君、どうかこれ以上被害者を出さないためにも、我々に手を貸してくれないか。」

「海斗、無理して受ける必要はない。」

俺はこの時、小宮さんの記憶を思い浮かべていた。この惨劇がなかったら、俺たちはどうしていただろうか?俺は、彼女のことを花ちゃんと呼びたかったし、9月と言っていた誕生日にバイトでためたお金でなにかをプレゼントしてやりたかった。

このままだと、もしかしたら隆也にも、親父にも被害が及ぶかもしれない。

もう、覚悟は決めた。

「わかりました。警部さん、俺も協力します。…親父、せっかくかばってくれたのに、ごめん」

「海斗…わかった、お前がそういうのなら俺はなにもいわない」

「…!ありがとう、ほんとうにありがとう。では、まずこの写真を見てくれ。」

そういって警部さんが出したのは、一枚の写真だった。映っているのは手前部分を占める真っ赤な血だまりと、奥で背を向ける返り血で染まった紺色のパーカーの人物。

「これは、小宮さんのスマホで撮影された写真だ。このパーカーの人物に心当たりは?」

この人物が何者なのか、目を凝らしてじっと見たが、結局わからなかった。

「すみません、俺にはさっぱり…」

「わかった、じゃあ『mirror』について心当たりは?」

聞かれるとはわかっていたが、いざ人に話そうとすると気がめいって言葉が出ない。

「それについては私の方から話しましょう。私の方がよく知っています。」

そんな俺の様子を察してくれた親父が助け船をだしてくれた。

「わかりました。ではお願いします。」

親父は、俺の体の傷のことをなるべく言葉を選んで話した。警部さんはこれを聞いた後、「話してくれてありがとう、その線で捜査を進めてみるよ。このことはメディアにはすべて内緒にしよう。」と言い、そのまま病室から出ていった。

その背中を見届けた後、親父は「お前は本当に強い子だな…」と俺の頭の上に手をポンと乗せた。

俺は泣いた。それは、彼女の死を哀しむ涙だけではなかった。


俺は明後日には退院できる運びとなった。翌日、隆也がお見舞いに来てくれた。

「よう、川口隆也様のおでましだぜ!ほら、お土産。」

「ん、メロンか。悪いな」

「いやいやお前の宿題の借りに比べたら安いもんよ!」

「はは、そうだな」

「いや否定しろよ」

へらへらしていた隆也だったが、不意に笑顔が落ちてこっちに近づいてきた。

そして俺の体を――、思いっきり抱きしめた。

「なっ!?隆也?俺にそんな趣味は―」

「大丈夫だ、俺はお前からいなくなったりしねえ。ずっとそうだったろ、何度喧嘩したかわかんねえけどよ、俺たちはいつも最後には一緒にいたじゃんか。よくわかんねーサイコ野郎の好きにはぜってーならねーから」

「隆也…」

俺はこれ以上言わずに、目の前の親友を抱きしめ返した。

いつもならからかいあうが、今日はあいつも俺も何も言わなかった。


あれから無事に退院した俺は、すぐにバイトをやめた。ごねで有名な店長も流石に引き留めてくることはなかった。波部先輩は「何かあったらすぐに頼れよ!」なんていって俺の背中をたたいてきた。いつもは絶妙な手加減の彼の手のひらが、なんだか今日はいつもよりも痛かった。

鮫谷警部はあれからなんどか連絡をよこしてきた。彼の話によると、情報提供のおかげである程度犯人像を絞れてきたらしい。一日でも早く捕まえてみせる、なんて息巻いていた。

親父とはいつも通りの生活をしていた。事件のことは何も言わなくて、俺にとっては気が休まってありがたかった。

そして、隆也はというと、

「なぁ、明日久しぶりにキャンプでも行かねえ?」

「…?どうしたんだよ急に」

「いや急ってか、前々から考えてたんだけどよ、お前、辛そうだったから気分転換にどうかなって。」

そういわれて俺は考える。確かに最後に心から笑えた日なんていつからだっただろう。

目の前の親友は俺をただ慮ろうとしているのはすぐに分かった。ただ、小宮さんのようにまた奪われてしまうかもという気持ちはどうしても消せない。

それに気づいたのか隆也は、

「前に言っただろ、俺はいなくならねえって。俺を信じろ、それを証明してやる。」

「…わかった、行こう」

安心したのだろうか、思わずこぼれた言葉に、彼はニコッと笑うと「明日の10時、いつものところで待ってる」と言い残して去っていった。


翌日、俺はいつものレンタルバイクの店で隆也と合流した。

二人とも、たくさんの荷物を抱えている。

「よーし、準備できたな!」

「ああ、だけど今日はどこに行くんだ?隆也」

「長野県にいいキャンプ場があってだな、そこにいく予定だ」

あのキャンプ好きでいろんなところに行ってるあいつがいいキャンプ場として選ぶわけだ。どんなところなんだろうか?って少し楽しみになってしまう自分がいた。


バイクを借りて、キャンプ地についたころには既に夕方に差しかかっていた。

そこは夏休みシーズンということもあって、そこそこの賑わいを見せている。

早速、予約した場所にテントを張った。そのあとすぐに、夕飯の用意を始めた。今日は、最もオーソドックスなカレーだ。わざわざ隆也が、お前の好物だろって、牛肉にしてくれていた。

久しぶりのキャンプ飯はなんだか懐かしくて、なぜか涙が出てきてしまった。

夕飯を食べ終わって、片付けも済ませてしまったころ、隆也が俺の手を突然引いた。

「こっちだ、海斗。」

わけもわからないままに、俺たちは森の中へと入っていった。


森を抜けた先は、少し小高い丘だった。見晴らしが広く、空には無数の星が輝いている。

「ここは…?」

「俺のお気に入りの場所だ。星が最もよく見える場所だって兄貴につれてってもらった。」

草原に寝転んだ彼は、星空に指を差した。

「俺は不器用な人間だからよ、こんなことしかできねえけど」

「いいや、最高だよ。お前と友人でほんとうによかった」

それから、俺たちは1時間二人で星空を見ながらおしゃべりした。

月が頂点にたどり着いたころ、すっかり笑いあった俺たちは、テントに帰って眠りについた。明日の朝は何を作って食べようか。なんて考えながら。























…ここはどこだ?昨日は確か、あいつとキャンプにいってそれで…

ぐちゃ

あれは…非常出口…?

ぐちゃ

なんなんだ?さっきからなにを踏んでるんだ?

ぐちゃ

…血だまり?

べとぉ

「う、うわあああああああ!?」

俺が踏んづけていたものは、血だ!あいつの、後ろで倒れてる隆也の血だ!

隆也!?どうしたんだ!?しっかりしろ!

…くそっ、いなくならねえんじゃねえのかよ。

とにかく俺もこのままだと危ない、早く逃げないと!

こんなことになってるってのに、俺の頭はひどく冷めていた。

さっきの非常出口からなら外に出れるはずだ。


点灯していない非常出口の扉の先を抜けると、そこはただの部屋だった。ただ、なぜか部屋の真ん中には鏡があった。

鏡を直視したのは久しぶりだった。だって俺は鏡から目を離すことができなかったから。

俺が着ているのは紺色のパーカーだった、ダメ押しに一面の返り血がパーカーについている。

恐ろしくなって手を見ると、俺の手はどす黒い赤に染まっていた。

突然、鏡の俺がしゃべりだした

「こんばんは。もう一人の僕」

「くだらない嘘をつくな!お前は誰だ!?」

「ひどいなぁ、僕たちは同じ宇山海斗なんだから。怒鳴らないでよ、ねえ?」

「…お前が小宮さんを、隆也を殺したのか?」

途端に鏡の俺の顔が、醜悪な笑顔に変貌した。

「そうだよ。」

「っ!」

「そんな顔しないでよ、殺したのは実質的には君でもあるんだよ?」

「は?…まさか」

「鏡の下にカメラが置いてあるだろう?見ればわかる」

目線を下にやると確かに古いカメラがひとつ、床に置いてあった。俺は震えた手で拾い上げて、カメラを起動した。

そこに映ったのは、小宮さんを鏡の破片でめった刺しにする男、隆也の首を鏡の破片で切り裂く男、そしてあの時以来一度も顔を合わさなかった母を燃やす男。この狂気的な笑顔で事をする男の顔は間違いなく俺の顔だった。

顔を上げると、いつの間にかやつはいなくなっていて、映るのは顔面蒼白の俺の顔だけだった。

その鏡面にはいつのまにか傷で文字ができていた。

『怪人mirrorからのプレゼント』



『続いてのニュースです。本日の午前8時に、長野県のトンネル内で死体が見つかりました。また、付近のキャンプ場では二名の客が行方不明になっており、警察は急いで身元を確認する方針で――』

ここまで読んでくれて本当にありがとうございました。

誤字脱字や辛口評価等も大歓迎です。

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