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失命旅行  作者: 山田
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寺井美穂

「あ、死のう」


 初春はつはるの頃。午後の日差しは暖かく、昼食後の適度に満ちた心身は次に睡眠を欲して、ぬくめられた縁側に転がった。

 無造作に放られた洗濯物は縁側いっぱいに折り重なっており、下の方にある布物は薄らと埃を纏っている。

(洗い直した方がいいんじゃないかな…)

 ごわごわに固まったバスタオル。手触りのよろしくないそいつを丸めて枕にし、しわになるなぁなんて思いつつ衣類を体の下に敷き込んで、眠気で億劫そうにだらり伸ばした腕で窓を細く開けた。吹き込む風は未だ冷たく、けれど確かに春化粧を施されていた。


 死のう


 微かに梅の花が香る風を胸いっぱいに吸い込んで、寺井てらい美穂みほはふ、と思った。




 美穂はこれといって特出したところのない、極めて平凡な女だ。少々病気がちな幼少期を過ごし家族に多大な心配をかけ、しかし小学生にもなれば体も丈夫になり日々友達と駆け回ってやんちゃに過ごした。6年生の終わり頃から中学校に跨がって反抗期を迎えて引き篭りとなり親に心配をかけたりしたが、高校に上がる頃には反抗期もおさまり汚名返上とばかりに真面目に勉学に勤しんだ。

 高校卒業後はネット上の派遣会社に登録し、三ヶ月から半年周期で仕事を転々としながら地方を回り、気儘な一人暮らしを満喫していた。そんなありふれた経歴の、穏やかな人生を送る女だ。

 家族構成もまた平凡で、サラリーマンの父と専業主婦の母、一つ上の公務員の兄。特に語るような事もない普通に仲のいい家族である。

 仕事も順調、家族仲も良好、プライベートも、恋人はいないがまぁそれなりに充実している。自殺を促しうる要因など一つも見当たらないように思えるが、美穂にとってその考えはストンと胸に落ちてきて、そして「あぁきてしまったか」と納得できる程度に身近なものだった。


 美穂は昔から死にたがりであった。

 特別嫌な事があっただとか、人一倍ネガティブだとか、生きる事が辛いだとかそんな理由は一切なく、ただふとした拍子に、「今日は空が青いなぁ」くらいの心持ちで「死にたいなぁ」と思うのだ。

 理由を問われても上手く説明できず、自分自身理解できない本能のようなそれ。希死念慮とでも言うのが分かりやすいだろうか。

 美穂は死にたがりの自分自身に対して特段困ったり悩んでいたりはしなかったが、申し訳なさは常に抱えていた様に思う。普段は漠然としたその罪悪感の様なものが時たま、どこか深い所からググッとがって来る事がある。その度にまた、消えたい。死んでしまいたい。とそう強く思ったものだ。


 この様に、美穂が死にたいと思うのはなにも初めてのことでは無いのだが、今回はその濃度が違った。

 今までは死にたいと思いつつも、さて明日のお昼は何を食べようか、何て呑気に考えていられる余裕があった。食欲に負ける程度の死神なんて居ていない様なものだった。

 そんな軽く受け流せる程度のものが、今回は濃厚に、確実に、受け流せない程に重く、深く、そしてふらりと自然に、美穂の心の一番真ん中に居座ってしまった。

「これはもう駄目だなぁ」

 大きな欠伸と共に吐き出した言葉はふにゃふにゃと明瞭な音にならず、吹き込む風に攫われていった。

「なんか言ったー?」

 台所でおやつ作りに励んでいる母親の問い掛けに「うー?」やら「んー?」やら生返事を返して、美穂はうとうとと微睡に堕ちていった。

 起きたら遺書を書こう、何て夢うつつに思いながら。




 夕食を終えお風呂も済ませ、後は寝るだけとなったその日の夜。美穂は自室でボールペンを回していた。

「『お父さん、お母さん、お兄ちゃん、先立つ不幸をお許しくださいーー」

 あまりにもベタすぎるだろうか。

 頭を捻りながら思いついた文章を声に出してみるも、どれもこれもチープだったり妙に不幸ぶっている様に感じられたりしてどうにもしっくりこない。下書き用に拾ってきたチラシの裏は真っ白なままだ。

 人差し指に弾かれて、あらぬ方向に飛んでいったボールペンが床に落ちカタリと一度跳ねて転がった。それを拾うのもなんだか億劫で、万歳の姿勢をとって仰向けに寝転がる。美穂は昔からペン回しが下手だった。




 派遣先での契約期間が終了し、次の仕事をすぐには決めずにちょっとのんびりしようかなと約五年ぶりに帰ってきた我が家。

 家を出る際にベッドと座卓と本棚以外綺麗に片付けて殺風景になった自室は、五年という月日を感じさせない清潔さと懐かしさで迎えてくれた。まぁ年に数回顔を見せに立ち寄る位はしていたのでそこまで久しぶりという感じはしないのだが。

 端に積まれた見る度に増えていく段ボール達には目を瞑ろう。どうせ兄のゲーム機器の類だ。

「なるべく悲しませたくは無いんだけどなー…無理か」

 ごちんとフローリングに後頭部を懐かせて、家族と過ごしたここ数日に想いを馳せる。


 暫くはうちでのんびりすると連絡を入れた時、美穂の父、敏雄としおは人生薔薇色といった具合に上機嫌になり、三日前に帰宅した娘を喜色満面歓迎した。子煩悩な敏雄は、目に入れても痛くない程愛娘を可愛がっているのだ。

「仕事はどうだ?」「飯はちゃんと食ってるか?」「彼氏なんてまだ早いぞ」

 そんな、メールでしょっちゅう送ってくるのと全く同じ内容の会話でも、直接問答出来るのが嬉しいらしい。天気の話やら政治の話やら、中身の無い会話のキャッチボールを、美穂がリビングにいる限り延々と振ってくる。若干煩わしくはあるのだが、あんまりにも父が幸せそうにするものだから無碍にも出来ず、これも親孝行だと晩酌に付き合いながら似た様な会話を繰り返した。


 以降今日までずっとご機嫌な敏雄に釣られて、恵理子えりこ夫人もどこか浮足だった様子で普段は滅多に作らない手作りおやつなんぞを振舞って下さった。ぼそぼそ食感の口腔内の水分という水分を奪っていくマフィンは、味こそいまいちだったが心満たされる一品だった。ただし次からは自分も一緒に作ろう、と心に留めた美穂の趣味はお菓子作りである。

 あれは本当にマフィンだったのか…?

 それはさておき。

 母親の手作りおやつなんて一体いつぶりだっただろうか。

 兄妹が幼い頃はあれこれ拘って作ってくれていた覚えがあるが、今では食卓の半分がお惣菜やレトルト品で埋まっている。恵理子の腕が落ちたのか美穂の舌が肥えたのか、手作りの品もあまり美味しいとは思わない。

 初めての子育てに懸命になるあまり、途中でガス欠してしまったのだろう。

 いつからか家は散らかりっぱなし、庭もご近所の方に恥ずかしい程雑草まみれの荒れ放題。家族の誰もがその環境に慣れきってしまって、一足先に家を出た美穂だけが現状にひどく眉を顰めるのだ。

 派遣先では大体社員寮に入るので、部屋は常に綺麗に保つ事を意識している。衣服やタオルは手触り良く、食事も健康的で質の良いものを取る様に気を付けているので、正反対と言える実家に帰るのは実は億劫だったりする。特に荒れた庭については、帰る度に恵理子にくどくど文句を言ってしまう。

 庭いじりが好きな美穂がいた頃は、室内は荒れていても庭は常に綺麗だった。綺麗と言っても造園に凝っていた訳では無いので一般的なご家庭のお庭程度だが、見られる事に恥を覚える様な今とは雲泥の差があった。

 そんなだから美穂は、いくらお小言を言っても「はいはい」と聞き流す恵理子の事があまり好きでは無い。散らかった部屋も美味しく無いご飯も、ぼそぼそ食感の不味いマフィンも好きでは無いが、なんだか懐かしいこの味が時たま無性に食べたくなるし、職場の愚痴やゴシップなんかは、なんだかんだ母親と喋り散らすのが一番なのだ。

 だから億劫でも、いちいち文句をつける事自体に嫌気が差しても、美穂は年に数度は顔を見せに帰るのである。


 兄の裕治ゆうじは両親の浮かれっぷりにやや引き気味だが、連日続くご馳走にご満悦である。妹の帰宅は「ふーん?おかえり」くらいに軽く受け止めている。居ても居なくてもどうでも良さげだが、美穂も兄に対してそんな感じなのでお互い様である。

 ゲームの対戦相手ができた事については大歓迎された。裕治は昔からゲーマーなのだ。


 程度の差はあれ、家族みんなが美穂の帰宅を喜んでいた。

 四人で囲む賑やかな食卓は暖かく、料理自体は微妙でも雰囲気で幾らでも美味しく感じられた。

 自分は愛されている事、自分が死んだら皆が悲しみ涙することを、過剰も不足もなく等身大で理解していた。


 常ならば。

 家族との交流で、美味しい食べ物で、友人とのおしゃべりで、死を求める本能は揺らぎ薄れて、今日の続きを望む方向へと天秤が傾いていた。なのに今回はそれが無い。生と死の狭間で揺れていた天秤そのものが忽然と姿を消してしまった。戻ってくる様子は未だ見られず、残されたのは一枚の天秤皿のみ。ポツンと地面に取り残された、その皿の上にあるものが答えである。

「ごめんね、お父さん、お母さん。ごめんなさい。……ごめんなさい」

 遺された家族を想えば胸が張り裂けそうになるのに、今回ばかりは思い留まれそうになかった。

「これは、ほんとにもう駄目だなぁ」


「美穂ー、今いいかー?」

「はーい、すぐ行くー」

 階段を登る足音を、兄の張り上げた声が追い越して響く。それに返事をしながら、腕を振り上げる反動を使って上体を起こす。

 やれやれ、勇者様からのメンバー招集だ。

 軽く伸びをしながら立ち上がる。視界の隅に捉えた床上のボールペンは、結局面倒臭さが勝ってそのまま放置する。美穂も家族の例に漏れず、結構なものぐさ屋なのだ。

 パチリと照明の落とされた部屋。ちっとも進まなかった白紙の遺書は、扉が閉まる風圧でベッドの下に飛ばされて、そのまま一瞥もされずに忘れ去られた。




 からんからんとドアベルが鳴るたびに、ツンと冷えた空気が入店してくる。入り口に近い席に座ったのは失敗だった、とタイツ越しの足をさすりながら、少し冷えたキャラメルラテをズズっと音を立てて啜る。

 人生からのリタイアを決意して今日で一週間。美穂は近所のファミリーレストランで一人待ち惚けをくっていた。

 家にいてもする事がないからとかなり早い時間に出てきた自分が悪いのだが、頼んでいたスイーツはとうに食べ終え、ゆっくり飲んでいるドリンクバーが三杯目を迎えても、待ち合わせの相手は影すら見せない。首を大きく捻って見上げた時計は随分とのんびり動いていて、待ち合わせの時間まで長針と数字とはまだ180°近く開いている。

 ガラス越しの通りを眺めて、当たり前だが待ち人がまだ来ぬことを確認して、ドリンクバーにおかわりを注ぎに行く。

 四杯目は抹茶オレにした。


 美穂が待ち合わせている相手は川村かわむら香奈美かなみという、美穂にとって気のおけぬ仲の友人であり、今回の一件で唯一直接報告申し上げた無二の親友であった。

 美穂は本当ならば一週間前のあの日、思い立ったが吉日とばかりにすぐにでも自殺を決行するつもりであった。しかし他人様ひとさまに迷惑をかけず、部屋を汚さず、家族に出来るだけ迷惑をかけないように、苦痛は少なく、と色々と条件を整えて、それに沿う死に方とはと詳しく調べて見れば土台無理な話で、自分は少々理想を高く持ち過ぎていたらしいと反省した。

 検索フォームの一番上に表示されている「心の相談窓口」「お電話ください」の文面と電話番号。安易に首吊りでもしようかとドアノブに延長コードを巻き付けたところでふ、とそれを思い出して、香奈美と話しておこうと閃いたのだ。


 香奈美と美穂が出会ったのは中学の頃だった。とはいえその頃は特別親しい仲ではなかった。三年間(片方は半分位引き篭もっていたのだが)クラスメートであったのでお互い顔と名前は知っていたし何度か会話も交わしただろうが、これといって記憶に残っているものはない。卒業すれば忘れさり合っていただろう薄い交流しかなかった。

 二人が親しくなったのは高校二年生の夏休みからだった。

 美穂は家から近い私立の女子高に、香奈美は少し離れた公立の高校に通っていた。接点のなくなった二人を引き合わせたのは、二人の生活行動範囲の丁度中間辺りに位置する一件のファミリーレストラン。現在美穂が居座っているそこである。

 高校生にとって、長期休暇に遊び呆ける事は言うまでも無いが、バイトに明け暮れることもまた一つの憧れ、夢見た青春の一ページである。遊ぶ金も手に入って一石二鳥。

 そんな思惑で応募した、夏休みいっぱいファミレスでの短期バイト。そこに美穂より半年早く勤務していたのが香奈美だ。前年の冬から、土曜日曜と放課後の短い時間、ここで労働に勤しんでいたらしい。

 最初は仕事についての説明、相談。日常会話から雑談に花が咲き、会話の場が業務後の一時ひとときからプライベートまで広がるのに、そう時間はかからなかった。


 一つ会話を重ねるごとに一つ互いを知っていった。読書が好き。動物が好き。植物が好き。甘いものに目がなくて、フルーツタルトが大好き。少食で薄味好み。人混みの絶えない都会より、自然豊かな田舎が好き。

 知れば知るほど、驚く程に二人の趣味や嗜好は似ていて、成人を迎える頃には己の心情をあけすけに話せる稀有な相手となっていた。


 スマートフォンをいじる気にもならず、頬杖をついてレモンティーをちびちびやっていたら、通りの向こうから見慣れた車が駐車場に入って行くのが見えた。香奈美の愛車のおんぼろな赤い軽自動車。ブレーキを踏む度にキュルキュルと鳴く、高速道路にはとても乗せられない困ったちゃんだ。

 車を認めた途端に、美穂の心臓はどきどきと大きく脈打ち始めた。モゾモゾと何度も無意味に座り位置を調整し、その度に膝掛けにしているコートを広げ直して。とっくに空いたティーカップを、この短時間で五度も口元に運んだ。

 美穂は分かりやすく、大変に緊張していた。


 六、七年になる香奈美との付き合いで、直接会って遊んだりトークアプリでやりとりをした事は数知れずあるが、電話を掛けるのは、何を隠そう今回が初めてだった。

 美穂は電話が苦手だ。こちらから掛けるのも掛かってくるのを取るのも、明確な理由はないが何となく嫌厭している。職場の電話はちゃんと対応できるし、電話の方が手っ取り早くて良いと思いもするのだが、何となく、いつまて経っても慣れないし、緊張する。たとえ親友相手でもそれは変わらなかった。


 呼び出し音が重なる度に口の中が乾いていき、舌がぴりぴりと痺れる様な錯覚に陥った。初めての電話に、話す事が事なだけに今に負けないくらい緊張し、身体はカチンコチンに固まっていた。

 どんな反応をされるのか、なんて言葉が返ってくるのか。そもそも上手く言葉を話せるだろうか?美穂の舌は喉の奥にヘドロの様に張り付いて気道を塞いでいた。

『もしもし、美穂?久しぶり。珍しいね、電話なんてーー』

「あ、香奈美〜。ごめんねぇ急に。私そろそろ死ぬ事にしたから、最期に話しときたいなーって」

 相手の言葉を食う様に、言葉は早口に紡がれた。明るく普段通りに、雑談に興じる時の声色を模して。

 対する香奈美の反応は、予想外のものであった。

『……んぁー、そっかぁ…。わかった、一週間待って』

 歯切れの悪い一言でもって、数秒間の沈黙。一方的に約束を取り付けたと思えば、ぷつりと唐突に電話は切られた。


(……え、切れた)


 美穂が知る香奈美という女性の為人ひととなりとは掛け離れた対応に、しばし呆然とする。

 思いやりに溢れ、相手の話をウンウンとよく聞き、相手の欲する態度や言葉を返してくれる聞き上手。それが香奈美だ。そんな彼女の常ならばあり得ない素気ない対応。もっと二、三言質問やら宥めるような言葉やらが出てくるものと思っていただけに、盛大に肩透かしを食らった気分だった。

 おまけに一週間待てときた。こちらの予定も都合も聞かずに取り付けられた約束も、普段ならありえないものだった。

 一週間後に何がある。確実に直接対面する事になるのだろうが、この準備期間こそが一番怖い。一週間後に何がある?一体何を言われるのだろう?

 スマートフォンの画面を暫くぼーっと眺め続けて、どのくらい経ったか。ベッドに緩慢に倒れ込んだ拍子にスマートフォンは手から零れ落ちて、暗くなった画面をふわふわの毛布に埋もれさせた。

 そのままもそもそとベッドに潜り込み目を閉じる。考えるのが面倒臭くなったのだ。

(やだなぁ…えーやだな怖いんだけど。何言われんだろ?一週間後かぁ…会いたいけどやだなー。…やだなぁー!)

 そのまま不貞寝した美穂の目覚ましになったのは、トークアプリの通知音だった。おそるおそる見れば日時と場所の指定だけが簡潔に記されており、流れる様に強制召喚の場が整えられていた。

 ちなみに二時間がっつり寝ていた。その間香奈美にめちゃくちゃに泣かれる夢を見ていたので、過去一気分の落ち込んだ目覚めであった。


 そして迎えた今日である。緊張感を漂わせるのも致し方なし。

 お冷でも貰いに行こうかと迷っているうちに、待ち人はドアベルを鳴らしていた。




「久しぶり」

 やって来た香奈美は至って普段通りであった。

 コートを椅子の背に掛け、片手を上げてウェイトレスに季節のケーキセットを注文してから対面に座る。ちなみにケーキはガトーショコラだ。美穂は既に食べ終えているが、とても美味しかった。

「久しぶり。ごめんね、その…あれな感じです。はい」

「いいえー、大丈夫。まぁびっくりはしたけどね、うん、…大丈夫だよ。しょうがないよ」

 いい加減この座りの悪さを払拭したくて早速とばかりに口を開く。人目を気にして言葉を濁して伝えれば、香奈美は子供の悪戯を見つけた親の様な顔で、困った様子で柔らかく笑った。

「私もほら、解らないでもないからさ」

 二人は本当に、どこまでも似た者同士だった。香奈美もまた、希死念慮の持ち主なのだ。

 美穂は内臓まで出るんじゃないかという程思い切り息を吐いた。

(否定されなかった)

 香奈美なら自分を肯定してくれるだろうとは思っていたが、実際にその返答をもらってやっと込めていた余計な力を抜く事ができた。


「お待たせ致しました。季節のケーキセットでございます。お飲み物はドリンクバーにてセルフサービスとなります」

 二人して暫く黙り込んでいたら香奈美の注文の品が運ばれて来た。決して嫌な沈黙ではなかったが、次の会話の糸口が掴めず少々困っていた二人は、ガトーショコラとそれを運んで来てくれたウェイトレスのお嬢さんを心中で拝んでおいた。

 沈黙も苦にならない仲の二人だが、だからこそこんな空気感で会話が途絶える事など滅多になく、この妙な雰囲気をどう払拭していいか分からなかったのだ。

「おかわり注いでくるね。香奈美は何がいい?」

「ありがとう。あったかい紅茶で」

「了解」


 香奈美がケーキを食べるのを眺めながら、ぽつぽつと小声を交わし合う。最近観ているドラマの話や、読んだ本の話。家庭菜園でアレを育てたい、など。会う度に似た様な話ばかりするのに、全く飽きのこない不思議。

 香奈美の落ち着いた声音と春めいた午後の日差しに、美穂は心地よい微睡の波に揺られる。何せ一週間前から悪夢が続いていて、碌に寝た気がしていないのだ。不安が払拭された今なら、穏やかに眠れる事だろう。

 会話の最中にも関わらず頬杖をついて瞼を閉じている美穂を咎めない、寧ろ穏やかに笑って見守ってくれる香奈美の優しさを、美穂は好いていた。


「美穂、そろそろ行こう」

「…んー、うん。どこ行くの?」

「旅行に行くの。行き先は未定」

「…?……え、今から?!!」




 どんよりと垂れ込んだ雲が日差しを遮り、まだお昼前だというのに仄暗い車内。曇りのせいか真冬の頃に戻った様な低い気温と、それを助長する海風の冷たいこと。

 赤いおんぼろ自動車が悲鳴を上げながら海岸線をひた走り、全開にされた窓から乗客二人の甲高い声を、チラシよろしく車外にばら撒いていた。

「いや寒い寒い寒いって!!!窓!窓閉めよう!!」

「あはははは!!!」

「もーおーい〜や〜〜!!!」

「さぁーむいねー!!!」

 人通りの少ない片田舎の海岸沿い。かと言って人っ子一人居ないわけではなく、ひゅうんと通り過ぎて行った車から聞こえた随分と楽しそうな悲鳴混じりの笑い声に、畑仕事に勤しんでいた老夫婦は揃って首を傾げていた。


「やばい、調子に乗り過ぎた…」

「めっちゃ寒い…歯がカチカチなる…マジでこんなんなるんだ」

「漫画みたーい…」

 真冬日に窓を全開にして海辺のドライブ。青春真っ盛りの学生でもやらない様な馬鹿の所業は3分と続かず、最大出力でガンガンに暖房を焚き上げた車内でホットの缶コーヒーを抱きしめる結果となった。

 何でそんな馬鹿みたいな事をしたのか。難しい理由なんて無い。単純にその場のノリである。

「あったかいスープ飲みたい」

「いいね。肉まんでも可」

「採用」

 目的地がコンビニエンスストアに決まり、スマートフォンのナビゲートに従って再び車を走らせる。

 ファミレスでの一幕から過ぎて一日。

 二人は自由気儘な旅を楽しんでいた。




 香奈美の突然の旅行宣言。美穂の家に向かってのろのろと走る車中で詳しく聞いても、彼女はただ笑って「いいじゃん」「旅行行こうよ」としか言わなかった。

 突然の提案に驚いたが、同時に楽しそうだな、とも思った。

 最期に大好きな親友と思いっきり遊び呆けて、満足ゆくまで楽しいばかりの時間を過ごして、幸せを胸一杯に抱いて逝けたのなら、それはとても幸せな事だと。夢想に耽る程に、それはとても魅力的な誘いに聴こえた。


 この一週間、香奈美こそ色々と思うところがあっただろう。何を言うべきか、どう引き止めるべきか悩んだはずだ。不安と緊張に苛まれて眠れぬ夜を過ごしたのは、何も美穂だけの話では無い。何を言われずともその位察する事はできる。それだけ厚い信頼を互いに抱いた相手だからだ。

 きっと今も答えは出ていない。穏やかな笑顔の裏で、沢山の苦悩を抱えているのだろう。そんな胸中をおくびにも出さず、あくまでも美穂の気持ちを尊重してくれようという態度。

 美穂はぐっと奥歯を噛み締めて、目を細めて運転席を見つめた。差し込む日光が眩しくて目を細めれば、すかさずとばかりに揶揄ってくる意地の悪い人がそこにいた。

「変な顔」

「うるさいですー」

(ああこれだから!)

 これだからいけない。その眼差しも行動も、揶揄いの言葉からすら美穂を甘やかそうとする色が透けて見えるから、甘えすぎるのは良く無いと、香奈美の負担になるまいと思っていても、ついつい流されてその肩に寄り掛かってしまうのだ。

 逆光に輪郭を光らせたその人は、薄ら隈の浮いた顔で困った様に微笑わらっていた。




 クローゼットで眠っていた旅行鞄を引っ張り出して、適当に洋服を詰めていく。

「足りるかな?」

「つどつどコインランドリー寄るから」

「了解」

 行き先も期限も予算も決めていない、当て所ない旅の支度にしてはぽんぽん順調に進んでゆく。

 洋服はシンプルな上下を四、五着ずつ。下着類は多めに。アウターはダウンジャケットとカーディガン。加えて膝掛けやブランケットにタオル等も揃えて段ボールに詰めこんでトランクルームに積上げる。冬物が中心だからしょうがないのだが、なかなかに嵩張る。

 スキンケア用品を一通りと、メイク道具はポーチに入るだけの最低限で構わない。二人ともあまりメイクに重きを置いていないのでそれで充分。

 旅の間は、ビジネスホテルと車中泊で旅費を節約する予定なので毛布を後部座席に積み込む。枕は鞄や丸めたコートなどで代用できるだろうから要らないだろう。

「この後寝袋買いに行こう。毛布だけじゃまだ寒いと思う」

 お風呂は銭湯や温泉施設を利用する。シャンプー、コンディショナーはそれぞれ自分で用意して、ボディソープは共用する事にした。お風呂セットもこれでOK。

 一通り車に積み込んで、一つ一つ指折りながら声に出して確認していく。狭い車内のトランクルームはぎゅうぎゅう詰めのいっぱいいっぱいだ。

「準備は?」

「万端!お金も?」

「たんまり!」

「よっし行きましょう!」

 ぱぁん!とハイタッチ。乾いたいい音が鳴った。

 二人とも貯金はしっかりしておくタイプで、かつ金遣いも荒くなかったので通帳にはかなりの額が貯まっている。余程派手に使わなければ早々底をつくことはないだろう。

 美穂は貯蓄型保険に加入しているので自分の葬儀代はそこから出して貰うことにして、残りはパーっと使ってしまうことにした。家族に迷惑料くらいは残したかったが、まだもう暫くは生きていく予定だろう香奈美のお金は出来るだけ使わせたくはない。旅費は出来るだけ自分が持つつもりだ。


 とんとん拍子に進んだ荷造りも、終わる頃には既に日が暮れていた。流石に夜に旅立つのは過保護な男親がうるさそうなので、一旦解散して翌日の早朝に出発する事となった。


 初めはただ流されるままに始めた旅支度だが、これから旅行に行くのだ。しかも長期の。その実感がむずむずと口角を押し上げて、翌朝車に乗り込む頃にはテンションは最高潮だった。

「いってらっしゃい。気をつけてね」

「はい。娘さんお預かり致します」

「はーい。お母さんも家のことちゃんとしてよ」

 恵理子にふくふくの丸い手を振って見送られ、計画性皆無の長い旅が始まった。




 ランチや休憩を挟みつつ車を走らせ、二人が最初の目的地に定めたのは海だった。理由は特にない。

 春の日暮は未だ早く、曇天も手伝い辺りがすっかり暗くなってしまった夕頃。目の前にはシーズンオフで人っ子一人いないビーチが広がっている。

 波打つたびに外灯の明かりを反射してぼんやりと輪郭を持つ海は酷く不気味で、なのにじっと見つめていたら心が凪いでいくような怪しい魅力を持っている。

 このまま吸い込まれてしまいたい、そんな慕わしさすらあったけれど車を降りる気にはならず、ぼうっと座ったまま海を眺めた。だって絶対に寒いもの。


「そういえば、仕事はよかったの?」

 雰囲気たっぷりのBGMはないかとスマートフォンの画面をスワイプしながら、ふと思い至って美穂は尋ねた。

 香奈美は高校卒業後、父親の顔利きで近所の町工場に事務員として勤めていた。社長も職人さんたちも昔からの顔馴染みで、薄給だがアットホームで働きやすくて良い職場だ、と聞いていた。

「ああ、友達と長期旅行してきますって言ったらまとまったお休みくれた。旅行終わったら連絡してねー、だって」

かっるい」

「ねー」

 くすくすと笑う香奈美と、それを見て呆れた表情の美穂。割とのんべんだらりと過ごしている自分が言えたものか分からんが、そんな適当で良いのか経営者。そんな顔である。



 ザァ ザン

 ザァ ザン


 波の音をバックコーラスに加えてスマートフォンが歌う。お洒落なバーで流れていそうなジャズの、トランペットが高らかに鳴り響く名前も知らない名曲が大音量で車内を満たす。


 ァ ザン

 ァ ザン


 少し遠くなった波の音に耳をそばだてる二人は、目を閉じ、窓に頭を凭らせ、深い眠りに就いた様な雰囲気を纏っていた。ゆっくり上下する胸と音楽に呑み込まれた呼吸音だけが、二人がまだ起きている事を証明していた。


 ザ ザン

 ザァ ザン


 暗闇に飲まれた狭い車内で、スマートフォンの四角い光源が瞼越しにチクチクと視覚を刺激する。美穂の膝の上で、スマートフォンは音もなくひっくり返された。

 トランペッターはピアニストに交代し、ピアニストがクラシック楽団に取って代わられた頃、ぽつりと静かに声は響いた。

「なんかさぁ」

「うん」

「…んー、なんだろ」

「うん」

 ともすればBGMに呑み込まれてしまいそうな声量のそれを聞き逃すまいと、香奈美もまた囁く様な相槌を打つ。しかしそれきり美穂は黙り込んで、時々グスグスと鼻を啜るだけだった。


 何故だか泣けてくる。その理由は知らない。

 考えるのは面倒だから、分からないものは分からないままで構わない。そんな考え方をするものだから、美穂の胸中は常に分からないもので溢れていた。

 この涙の理由も分からない。ただただ、込み上げる何かがあったのだ。

 香奈美は無言を貫いた。慰めも励ましの言葉もなく、ただ静かに泣かせてくれた。その寄り添い方が、美穂には好ましかった。


 美穂が泣いていた時間は5分にも満たなかった。「貰うね」と言ってダッシュボードに置かれたティッシュケースから二、三枚抜き取り豪快に鼻を擤んだら、次の瞬間にはスッキリした顔で笑っていた。

「ごめんね、なんか色々込み上げてきちゃって」

「んーん、」

「家族に申し訳ないなーとか、自分ほんとダメなやつだなーとか、まだやりたい事色々あるんだけどなぁ、って」

「うん」

「でもやっぱり死にたくて。おかしいって分かってるのに、その気持ちが無くならなくて。世の中には生きたくても生きられない人が大勢いるのに。死ぬ程辛い事がある訳でもないのに、なのに自殺とか。命は大切にしなきゃいけないのにね」

「そうね」

「香奈美」

「うん」

「死にたい」

「うん」

「死んでいい?」


「、ん」

「ーーっありがとう〜!香奈美なら分かってくれるって思ってた!」


 腕を広げて運転席側に向ければ、香奈美は緩く腕を上げて美穂をその胸で抱きとめてくれた。

 殆ど力の入っていない腕で壊れ物でも扱う様に髪を撫でられる。擽ったさに肩を揺らせば、抱き締める腕が一瞬強張り、鼻を啜る音が一つこぼれた。

 一秒、二秒、ぎゅうと強く抱き締められ、猫の子の様にスリ、と頭が擦り付けられる。首元に擦れる髪の毛の感触が擽ったくて、普段あまりボディタッチを好まない香奈美からのその行動に心まで擽られる様だった。

(幸せだなぁ)

 友人が自分を惜しんでくれる事がこんなにも嬉しい。

 胸を満たした歓喜はあふれて、ぎゅ、と一層腕に力を込めさせた。


 ほんの短い時間で、香奈美は見事に切り替えてみせた。顔を上げてため息を一つ吐く顔は、諦念を宿した、優しい色を滲ませた笑顔だった。

 香奈美はすっと身体を離して、ハンドルを握りサイドブレーキを上げる。俯き気味の横顔には、不思議な色合いが乗っていた。美穂には到底分からない、複雑な色。

 美穂はじっと香奈美を見つめた。香奈美が今何を考えているのか、その胸中は分からなくとも、彼女が改めて美穂の気持ちを尊重する事を決意してくれた事は分かった。

 もう今すぐ死んでしまいたいほどに、それは幸せな事だった。

 助手席でにこにこ笑っていると呆れた様にため息を吐かれる。「死ぬのは旅行が終わってからね」と見透かされた様に言われた言葉にも、美穂ははしゃいだ声でうん!と応えた。


「とりあえずそろそろホテル行こう」

「この辺ラブホしかないねー」

「一番過激な部屋探そう♪」

「やだぁ〜かな男さんのえっち〜」

 エンジンと砂を噛んだタイヤをキュルキュル鳴かせながら車を走らせる。湿った空気は霧散して、流れ出した陽気なJPOPにつられる様にくだらない会話に声を上げて笑い合う。

 これから自殺しようとする人間が乗っているとは到底思えない賑やかさであった。




 晴れとも曇りとも取れる空模様の下、二人は細く急な山道を越えて梅の花を見に来ていた。

 山奥のどマイナーな城跡だか藩邸跡だかに造られた梅園は丁度盛りを迎えていて、車のドアを開けた瞬間にふわりと優しい香りに迎えられた。

 花の香りは好きだ。桜に薔薇に金木犀。花見に出かけるその度に、まず最初に大きく深呼吸をする。甘い香りが肺を一杯に満たすと、口の中にも甘い味が広がる様な錯覚に陥った。

 華やかでありながら香水の様なツンとしたキツさの無い自然香はすぐに空気に紛れて隠れてしまう。その足跡そくせきを辿る様に歩道を行けば、開けた向こう高の庭、その視界いっぱいに様々な種類の梅花が賑やかに咲き誇っていた。

 スタンダードな五枚花弁のものに八重や枝垂れ、色も紅白桃黄と鮮やかで正に圧巻の一言につきる。中には既に盛りの過ぎた木やまだ蕾の青い木も混じっているが、八割方満開である。

 すご…、と二人共無意識の内に一言こぼして、後は惚けた様に無言で庭を眺めた。


 梅の木の間を縫ってゆっくりと庭を横切り、ちらほらと居る観光客の邪魔にならない隅の方に移動する。その間も視線は奪われたまま、常よりも随分ゆっくりとまばたきをした。

「きれーだねぇ」

 舌っ足らずになる口調。口内でまごつかせたところで、結局ありきたりな言葉しか出てこなかった。

 先人達が歌に残した景色もこんな風だったのだろうか。和歌を詠める程教養深くもなければ、そもそも対して詳しく知らないけれど、そんな気持ちになる程の感動が美穂の胸の内で暴れていた。

「ね。こんなに綺麗に満開の梅って、私はじめてかも」

 山の上という事もあり、じっと動かないでいると身体が冷える。未だ心ここに在らずといった様子の美穂を手招いて呼びながら、香奈美はゆっくりと庭園の散策を始めた。形許りの散策順路を示す看板に従って進み、特に美しく咲く木々の前では立ち止まり、繁々と花の色を眺めては深く香りを吸い込む。

 美穂は上を見上げたままあっちへふらふらこっちへふらふらと忙しない。時たま指先でそっと花びらをつついてはふふと楽しげに笑っていた。

「よく花見に出掛けるんだけど、いつも微妙にタイミング外すんだよね」

「あーね。あと天気も外れがちだったよね」

「雨女なもので」

 コミカルに肩をすくめて見せる香奈美をスルーしてちょこんと地面にしゃがみ込む。萼ごと地面に落ちた綺麗な花が目を引いたのだ。

「押し花にでもしよっかなぁ」

「いいんじゃない?」

 膝に手をつき覗き込んでくる香奈美に笑顔を返して、鞄からポケットティッシュを取り出す。

 栞にしようか、アクセサリーにしようかとわいわい話しながら、二人で綺麗な花を拾って回った。未だ瑞々しいその花たちをふうわりとティッシュでくるんで、潰さないように大切に鞄に仕舞い込んだ。




 田畑ばかりが広がる山間部にデンと聳える巨大なビニールハウスの群れ。日光を白く反射する屋根の連なりが目に眩しい。

「食べまくるぞー!」

「おー!」

 綺麗に整備された駐車場に車を停めて、二人は足取りも軽やかに受付へと向かう。主張の激しい手作り感満載の看板には、大きく『いちご狩り 受付はこちら→』との言葉が踊っていた。

 急にいちご狩りに行こうと思い立ち、二人揃って目を皿にして調べ上げた末に見つけたこの農園は、いちごの品種がかなり豊富に取り揃えられた巨大な農園である。


 受付で貰った薄いプラスチック製の殻入れには練乳の入ったおかずカップもちょこんと乗せられており、追加料金200円でおかわり可能らしい。

 こんな少量に200円も取るとはぼったくりも甚だしいと思わないでも無いが、美穂はいちごはそのまま食べる派なのでスルーしておいた。練乳も使いたい派の香奈美は追加するかどうかちょっぴり悩んでいる様子。

 ビニールハウスの扉を開けた先では白いビニールに包まれた長大な畝が幾つも横並びに佇んでおり、真っ赤に熟れたいちごがそこかしこにぶら下がって光っている。

「きゃー豊作!すっごい!」

「わざわざ地方跨いできた甲斐があったね」

 畝は胸ほどの高さにあり、屈まずに取れる位置にいちごがあるのが嬉しい。

 熟したいちごを早速摘み取り、乾杯をしてからかぶりついた。

「あっまぁ〜い」

「うま」

 大粒の真っ赤ないちごはそのビジュアルだけでもう美味しい。勿論味もイメージ通り、甘くてちょっとだけ酸っぱくて瑞々しい。口端から溢れそうになる果汁を小指の腹で拭いながら、二人は思い思いに動き出した。

 小粒なの、色の薄いの、細長いの、まん丸いの。

 隣の列に移って物色したり、違う品種を集めて食べ比べてみたり。こっちのこれが美味しい!と相方を呼んだり、完熟のやつ見つけた、と一押しのいちごをプレゼントしたり。何この変な名前〜と品種名に大笑いしたりと忙しない。


 ハウス内の暖かな空気と少しずつくちくなるお腹に、だんだんと眠気がやってくる。まるで催眠術にでも掛けられた様な感覚で、頭の中に幸せ色の靄がかかる。催眠術に掛かった経験なんてないけれど。

 いちごの赤と葉っぱの緑、遠くで揺れる香奈美の髪色と服の色。

 美穂が今感じている多幸感を水に溶かして紙に塗り広げたら、きっと目の前の光景が出来上がる事だろう。そんな寝ぼけた事を考えながら口に運んだいちごはひどく酸っぱくて、思わず「すっぱ!!」と大きな声が出た。

「どしたどした〜」

 香奈美が笑いながら駆け寄ってくる。手の上の殻入れには満タンになった練乳カップ。いつのまに。

 広いハウスの中で離れたり寄り添って行動したりしながら、二人は大いにいちご狩りを満喫した。


 受付のすぐ隣にはカフェが併設されていて、ハウスで採れたいちごをふんだんに使ったいちごスイーツが頂けるようだ。

 午前中いっぱいを使っていちごを食べまくった二人のお腹は果汁でたぷたぷに満たされていたが、スポンジケーキとジャムとアイスクリーム、そしてたっぷりの生クリームに突き刺さる大量のいちごの乗ったパフェの写真を見ては、これはもう頼まないわけにはいかない。

 ホットコーヒーをお供にお値段もサイズ感もビッグなパフェを一つ、シェアしながら時間をかけて完食した。

 半分も食べる頃には後悔の方がまさってしまったのもまたご愛嬌。




 三月も下旬に入ると言うのに、目の前は一面の銀世界。昨夜から降り続く雪は勢いは弱まれど止む気配がなく、昨日霜焼けになりながら作った雪だるまも足跡アートも、すっかり白紙に戻ってしまっていた。

 泊まっているホテルの二つ向かいの通りの、住宅街の先にある学校から始業のチャイムが聴こえてくる時間帯。ホテルの窓から外を眺めて、さて今日は何をしようかと思案する。


 寒の戻りは大寒波と連れ立ってやって来て、日本列島全域に大雪警報が発令された。

 適当にぷらぷらしていた二人も大雪に足を取られ、ここ一週間程ホテルに缶詰になっている。

 近所のレンタルビデオ屋でDVDを借りられるだけ借りて来たり、たまーに外に出て雪遊びに興じたり、一日中何もせずにぼうっとしたりして過ごしていた。

 暖房の効いたホテルの一室でも窓辺は冷気が忍び込んでくる様で、ぶるっと身震いを一つ。まだ日中だがカーテンを引いてベッドに潜り込む。

 美穂と一緒に冷気も潜り込んだのか、未だ夢の中にいる香奈美がむずがる様に身体を丸めて毛布を抱き込んだ。その端っこをちょいと引っ張って拝借しつつ、うつ伏せに転がってスマホを弄くる。

 連れの体温の移ったセミダブルのベッドの上。健やかな寝息に釣られて、いつの間にか美穂もうつらうつらとしてしまう。

(昨日も夜中まで映画観てたから…)

 誰に言うわけでも無い言い訳を脳内に並べながら目を瞑る。

 お安いビジネスホテルにしては珍しく貸し出し用のプロジェクターがあり、ベッド脇の白い壁にレンタルしたDVDを写して夜中まで映画鑑賞に勤しんだ。お陰でここ一週間毎日徹夜気味だ。邦画洋画問わず、恋愛ものからホラー、サスペンスまで様々なジャンルを垂れ流した。正直内容は半分位飛んでいる。


 日がな一日ベッドの上で、何をするでもなく一日が過ぎてゆく。ともすれば退屈だと思われるようなそれも、二人からすれば悪くない、贅沢な時間の使い方だ。

 スマホの電源を落とし適当に枕元に放る。照明を消し、香奈美に背を向ける形で丸まり完全に寝る体制に移る。ちょっとだけ触れた背中が温かくて、ギュイギュイ押しやってぴったりと背中をくっつけた。壁とサンドウィッチされた香奈美は寝苦しそうに唸っている。申し訳ない。

 結局その日もそのまま二人、昼時まで仲良く惰眠を貪るのだった。




 日本列島を北上する道中、とある温泉街に迷い込んだ。

 運転席に着いていたのは美穂なのだが、彼女の運転にはどうにも難があった。

 美穂は慣れた土地ならともかく、初めてゆく場所ではナビが有ろうが無かろうが道を間違え、最終的に山奥の離合も難しい様な細い道に行き着く。

 美穂は「山に好かれている」と真面目ぶった顔で言い、香奈美は「ただの方向音痴だ」と笑った。

 そんな事が多々ある為普段は助手席に座ることの方が多い美穂だが、流石にこの旅行中は交代々々こうたいごうたいハンドルを握っていた。

 そうして案の定と言おうか、香奈美が助手席でうたた寝をしていた僅かの間に、何処かの山奥へと辿り着いてしまった。


 日本列島に満遍なく雪化粧を施した大寒波が去った後は、嘘の様に暖かな日和が続いていた。積もった雪は軒並み溶かされ、道の端の日陰に溶けかけて泥混じりのそれらが残るばかりだ。気象予報士は連日雪崩や土砂崩れ等の注意喚起を欠かさない。

 雪解け水で濡れた山道をおっかなびっくり登り続けて見つけたその集落は、春の題材とするに相応しい色を纏っていた。

 趣ある和風旅館とこじんまりした民宿が数軒軒を連ねる温泉街と、周辺にぽつぽつと点在する古民家。山裾にはへばりつく様にいくつもの田畑が広がり、濃いピンク色の山桜がちらほらする間から真っ白な蒸気が空にたなびいている。

 絵に描いたようなとはこのことか。そんな風景が山間に広がっていた。


 とあるさくら祭りに向かっている途中で見つけた温泉地。祭りの開催期間は長く、その上寒波の影響か、桜の開花が例年に比べ一週間前後遅まっていると天気予報でも言っていた。道草を食うのに実に御誂え向きな状況であった。

 怪我ならぬ方向音痴の功名。

 一帯を見渡せる開けた離合場所からその風景を見て、一目で此処に滞在する事を決めた。


 旅行サイトを探せば、閑散期なのかすぐに空室を見つける事ができた。一度は泊まってみたい露天風呂付きの客室で、朝食のみの長期滞在プランなるものが何と今だけ格安であったので、思い切って十日間ほど滞在する事にする。

 重たそうな屋根瓦。飴色の太い梁や柱。つやつやと照明の灯りを反射する廊下は暗い鼈甲色をしていて、過去にそれだけ多くの人がこの廊下を歩み擦り磨いてきたのだろうと思いを馳せたくなる貫禄があった。

 よく手入れされた苔庭と錦鯉の泳ぐ池は、部屋付きの風呂からも望むことが出来るらしい。日焼けした畳に、広縁にはゆったり座れるロッキングチェアまで置いてあった。

 テレビドラマに出てくる様ないかにも高級な和風旅館に、二人のテンションはもう最高潮である。

「これで一泊一万いかないとかある?」

「素泊まりならともかく、朝食は付いてるんだよね?」

「やばくない?」

「やばい」

 落ち着きなくキョロキョロしながらやばいやばいと繰り返す二人を、中居のお姉様方は微笑ましげに見守りながら館内の案内をしてくれた。

「当旅館では専用の蒸し場を所有しております。御宿泊のお客様でしたらどなた様でも無料で御利用いただけますので、御利用の際はフロントの者にお声掛けください」

 蒸し場とは、温泉の蒸気で食材を蒸す事ができる調理場の事だそうだ。卵や野菜類、丸鶏なんかも売店で売っているそうで、説明の途中で既に本日の夕食は決定していた。


 中居さんのおすすめに従って、蒸し場に食材をセットしてから大浴場に行く事にした。

 洗い場の数は少なめで、内湯は小さめだがフラットな黒いタイル張りで高級感がある。

 露天風呂は大自然を感じさせる大きな岩風呂で、深いところと浅いところがあり、奥には打たせ湯もあった。とろみのある湯感触ゆざわりが気持ちよくて去り難く、のぼせる寸前、真っ赤っかに染まった身体でようやく湯から上がった。よろよろふらふらと実に危なっかしい足取りであった。


 随分と長湯をしてしまったものだ。

 旅館から少し歩いた先にある蒸し場まで下駄をからころ鳴らして歩く。未だ冷たさの残る風が火照った身体に心地良い。

「いい所だねぇ」

「だねぇ。私の方向音痴も偶には役に立つってもんでしょう!」

「はいはい」


 蒸し場に着くとコンクリートの地面が下駄の音をより高く響かせた。壁は無く、その代わりに幅の広くとられた屋根が雨水の吹き込みを防いでいる。入り口から見て左手には丸テーブルと椅子が数セット並び、その奥には屋根から外れて芝生が広がっている。

 右手には作業台と蒸し釜が並び、美味しい匂いのする蒸気が蒸し場いっぱいに広がっていた。

 待ち切れないとばかりに二人の腹の虫が鳴く。入浴は存外体力を使うのだ。

 匂いの発生源は二人の使っている蒸し釜である。いそいそと作業台に移動してお皿や籠を準備する。これらも旅館からの貸出品だ。備品が充実していてありがたい。

 蒸し釜の上でほわほわと蒸気を噴き出す蒸篭せいろはステンレス製で、寸胴鍋を三等分に輪切りにしてそれぞれに持ち手を付けた様な形だ。

 三段目の持ち手を掴み一気に作業台に移す。蓋を開ければ籠った匂いが一層濃く立ち昇り、鼻から大きく吸い込んだ。

「い〜匂い〜」

「香りだけでもう美味しい」

「それな」

 一段目には葉物野菜と薄切りにした玉ねぎのサラダ。深い器に山盛りにしていた筈のそれらはすっかり萎んで、溜まったスープの中に浸っている。事前にまぶしておいたコンソメの香りに食欲を唆られる。

 二段目には根菜類。じゃがいもと里芋、長芋にさつまいもと、人参と蓮根。見事に芋ばかりだが、まぁまぁまぁ。蒸す前より若干色の濃くなったそれらは見るからにホクホクで、微かに甘い匂いをさせている。シンプルにお塩でいただきたい。いやバターとお醤油も欲しい。

 三段目は、大本命の丸鶏。小ぶりの若鶏は白くぷりぷりで、中にはハーブやスパイスと一緒にお米が詰め込まれている。

「あーこれ絶対美味しい奴〜!」

 二人できゃいきゃい言いながら食材を皿に移してゆく。ラップを巻いて籠に入れ、風呂敷で包んで保温とする。二つの籠をぱんぱんにしながら、スープをこぼさない様に慎重に旅館への帰路を辿る。


「明日のお昼どころか夕食まであるんじゃない、これ?」

「ちょっと蒸し過ぎちゃったねぇ」

「日中は暖かいしさ、温め直したらそのままあそこで食べていこうよ」

「いいねぇ。今はお風呂上がりだからそうでもないけど、やっぱりまだちょっと寒いもんね」

「外で食べるにはまだ早いよね」

「あとさ、売店にさ、冷凍まんじゅうとか蒸しパンキットあったじゃん。あれもしたいよね」

「あったあった!桜も綺麗だしお花見したいね」

「花より団子な奴がなんか言いよる」

「うっさいですぅ。いうてぇ自分もぉそうな癖にぃ」

「あはは、ちょっとやめてよ、こぼれちゃうって!」


 至る所から蒸気の涌く町をじゃれあいながら歩く。硫黄の香り漂う中、片手に蒸し上がったばかりの食材たち。反対の手で隣にちょっかいを出しつつ、折角の夕食が冷めないうちに、と浴衣の裾を捲らない程度に足を早める。

 足音はからころ。笑い声はころころ。

 賑やかな音は蒸気に混ざって星の瞬き始めた空へ上っていった。




 テレビや雑誌で見かける度に、一度は訪れてみたいと思っていた日本一を謳うさくら祭り。念願叶ってやって来た訳だが。

 桜はそりゃあ美しかった。満開とはいかなかったけれど、数えきれないほど植えられた桜の木々はどれも堂々と胸を張っていて、視界いっぱいに花びらを光らせていた。こんなに沢山の桜の木を一度に見たのは、生まれてこの方初めてだった。

 広い歩道の両脇には屋台もズラッと並んでいた。ソースの焼ける香ばしい匂いや艶やかに光るりんご飴の光沢がお客を呼び込み、あちこちで花見客が列を成していた。

 美穂も香奈美も、花も好きだが団子も好きなたちなので、初めこそ目を輝かせて屋台を冷やかしながら人の流れに沿って歩いていたのだが。

「「……………」」

 元来人の多い所を苦手とする二人だ。生まれて初めて経験するレベルの人混みに、早々に人酔いを起こしてしまった。

「大丈夫?歩けそう?」

「…」

 美穂は顔色を悪くしながらも、人混みに逆らいながら懸命に帰路を辿っていた。普段ナビゲート役を買って出てくれる香奈美は、血の気の失せた白い顔で美穂に手を引かれフラフラと着いてくる。都度々々つどつど大丈夫かと声を掛けても、声を出すのも億劫なのかコクコクと浅く頷くばかり。

 なんとか公共交通機関を乗り継いで宿泊しているホテルに辿り着く頃には、二人とも死人の様な顔色になっていた。

 フロントスタッフに頻りに心配されながら部屋まで付き添われ、碌に礼も言えぬままベッドに倒れ込んだ。この時の時刻、午前十一時。

 祭り会場での滞在時間は、実質一時間にも満たなかった。


 たっぷりと休息を取ったおかげか体調も取り戻し、もぞもぞとベッドから這い出したのが午後三時頃。どうやら昼食も取らずに寝込んでいたらしい。

「正直、行きのバスの時点でちょっときてた」とは香奈美の談。美穂も無言で深く頷いた。

 混雑が酷いと事前に聞いていたので公共交通機関を乗り継いで会場へと向かったのだが、それが仇になった。いや、例え車で向かっていても会場のあの混み具合には敵わなかっただろう。帰りの運転で事故を起こすのが目に見えている。それを思えば賢い選択であった。

 ともかく、ゆっくりお花見もできなかったが、リベンジしてやろうという気には全くなれない。

 結局そのまま夕食も摂らず、翌日のチェックアウトまで一歩も外に出ることはなかった。




 未曾有の人混みに揉まれた反動か、兎に角人のいない場所へ行きたかった。

 確固たる目的地もないままに美穂を運転席に座らせて、その方向音痴っぷりを遺憾無く発揮させながら先へ先へと車を走らせる。結果辿り着いた何処ぞの山奥のダム湖の畔で、赤いオンボロ自動車はようやく休憩を許されたのだった。


「途中もうダメかと思った」

「ほんとに。あんな狭い道で対向車でも来たらどうしようかとね」

「てか凄くない?こんな綺麗な場所に来れるとか私持ってるくない?」

「さすが、山に愛されとるわー」

「ンッフフフ」

 車が三台停められるか程度の広場。端には小さな東屋があり、ベンチに腰掛ければ正面に湖面を眺めることができる。車道に覆い被さるように繁っていた木々は広場を境に途切れ、遠く広がる深い深い緑色をした湖は、暮れ始めた空を反射して湖面を玉虫色に光らせていた。

 東屋を越えて柵の先、湖に向けて緩やかにくだる草原にレジャーシートを敷き、寝袋にくるまってそこに転がる。明らかに侵入防止目的に立てられている柵を越えるなんてやんちゃ普段ならしない訳だが、この時の二人はちょっとしたハイ状態だった。

「…きれー」

 水彩絵の具で描いた様な、淡く柔らかな夕焼け空。ぽつぽつ浮かぶ雲を七色に染めながら、優しい色合いの夕日が山の向こうへ沈んでゆくのを見守った。

 やがて空の色が濃くなり、一番星が輝き始める頃。香奈美が取ってきた一枚の毛布を二人で被り、ぽそぽそと小声で内緒話の様にやり取りを交わす。話した側から忘れてしまう様な取り留めのない内容に、ただ楽しい気持ちだけが積もり続けた。


 時折り拭く風が木々を揺らしザワザワ鳴る。梢が歌う子守唄に、いつの間にやら二人とも眠ってしまったらしい。ふっと意識が浮上して目を覚ました美穂が起き抜けに見たのは、雲一つない満点の星空。

「……。…、わぁ、」

 一瞬、息を呑んだ。

 真冬の様に澄み切った空に春の星座が光っている。寝起きの頭では処理落ちしてしまうくらい、それはそれは美しい景色だった。

「…、わぁ!わーすごい!すごいよ香奈美!ねぇ見て!」

「んー……なぁに…」

「星星!すごいよ!」

「ほし?」

「あっあっ流れた!まじ!?うっそヤバ〜〜!」

 隣の香奈美はまだ眠そうで、大はしゃぎする美穂に迷惑そうに眉間に皺を寄せる。

 時刻は午前1時頃。流星群にでも当たったのか、先ほどから幾つも星が流れてゆく。美穂はその度に歓声を上げ、やがて目を覚ました香奈美の声もそこに加わり湖畔は一気に騒がしくなる。

 視界の端から端までを横切る特大の火球に最早悲鳴に近い声を上げ、寝袋に入ったままだと忘れて立ち上がろうとするものだから、危うく湖まで転がって行くところだった。そんなハプニングすら楽しかった。

 やがて夜空は落ち着きを取り戻し、散々騒いだ二人が口を噤んだのが午前2時頃。口の代わりに、今度は腹の虫が騒ぎ始めた。

「お腹空いた」

「晩御飯食べ損ねてるもんね。コンビニ何処だろ」

 コンビニどころか民家さえ見当たらない山奥である。ナビによれば食べ物に有り付けるのは一時間は先になりそうだ。

 手早く辺りを片付けて車に乗り込む。運転席には香奈美が座った。

 来た時同様カラオケ大会で大いに車内を沸かしながら、一時間掛けてコンビニエンスストアを目指したのだった。


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