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黒猫妖奇譚  作者: 胡蝶飛鳥
黒猫と呪いの刀
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出逢い

       

 電源をつけ、パソコンを起動させる。ヘッドフォンとマイクの調子を確認。録画確認。このシリーズもかなり増えてきた。水を一口飲み、息を吸う。週末の楽しみがこれだ。


「皆さんどーも!t@cです。今日も前回の続き、やっていきましょう」


 t@cこと、この男の名は五十鈴(いすず)裕昌(ひろまさ)。巷ではそこそこ有名なゲーム配信者だ。なんでも親しみがわく話し方と、叫び声が人気らしい。今起動させたのは、5VS5のチーム対戦バトルだ。RPG要素も組み込まれているため、中々やりがいがある。


「くっそぉ、あの敵どこいったんだ全く……」


 キーボードを叩きながら交戦する。敵の隠れ方がかなり上級者だ。突然出てきた敵に、裕昌は思わず叫んだ。刹那。


「おわああああっ!?……ぶっ!」


唐突な後方からの衝撃に、裕昌の顔面がキーボードにめり込んだ。画面には「GAMEOVER」の文字が表示されている。


「うるせえな!猫の気持ち考えやがれ、このやろう!」


 きゃんきゃんと甲高い声が耳に突き刺さる。視界の隅に黒い毛玉が動いている。


「お前な……そんな荒々しい言葉使うなって、いつも言ってるだろ。あと蹴飛ばすな」


「猫は耳が良いんだから、もうちょっと静かにできねえのかよ」


「だから言っただろ。隣の部屋に居とけって」


「あの部屋胡瓜まみれじゃんか!無理ったら無理!」


 そういえば、隣の部屋は親戚から送られてきた、胡瓜やらトマトやらが山積みにされていたか。

 黒い毛玉、いや黒猫は激しく首を横に振っている。こんな風に猫が会話していると、そのまま二足歩行しそうな気がしないでもない。

 どうしてこんなことになったのだろう。

 裕昌は数日前の出来事を思い出した。





*       *       *



 裕昌は動物好きである。その中でも、生まれた時から猫がいつも隣にいたのだ。その愛猫も今は寿命で旅立ってしまい、今までは大学、就職と忙しかったため猫を飼う余裕が無かったのだが、大学も無事卒業し、居候生活も安定し、趣味でゲーム実況動画を投稿し始めてから猫と暮らしたいと思うようになってきたのだ。

 そこで、勇気を出して近くの保護猫カフェに寄ってみることにした。


「いらっしゃいませーおひとり様ですか?そこで消毒お願いします」


 笑顔で明るく接客をしてくれる店員さんにはとても好感が持てた。丁寧な猫カフェだな、と思いつつ中に入るとたくさんの保護猫がいた。

 スコティッシュにアビシニアンに三毛猫、ここは天国だ……などと思っていると、ふと、黒い猫に目が留まった。


「もう……くろちゃん、またそんなところに……」


 毛並みのよい黒猫で、一番高い窓のところにいる。その光景を見て、いや、高いところに猫がいるのは普通じゃ……と思っていたのだ。だが、その猫がこちらを見たかと思うと、窓から降り、近づいてきた。その時、裕昌はあっ、と声が出そうになった。その黒猫は、左前脚が無かったのだ。


「この子、病気か何かなんですか?」


「いいえ?保護した時からすでに片前足が無かったんです。それも、足を失くして()()経ってるみたいで……」


 へえ、と相槌を打ちながらその黒猫をまじまじと見た。じーっと見つめ返してくる。

そして、手に身体を擦り付けてきたのだ。裕昌の心の臓は見事に射抜かれ、ぐはあ、と仰反る。


「あら、珍しい。この子全然人に懐かないんですよ」


 店員が不思議そうに黒猫を見ている。


『何そのツンデレさ…反則だろ…』


 黒猫の可愛さに惹かれて、裕昌は一緒に暮らしたいと思った。

 そこからは早かった。キャットタワーに猫用の皿、餌、トイレ、などなど、必要なものは実家から、ペット用品店から買い集めた。そして、いざ共に暮らし始めると、全くと言って手のかからない猫だった。愛嬌もあり、ダメだと言われたことはしない。「黒音(くろね)」と名付け、とても可愛がった。そう、ここまでは全く問題ない。





 だがその夜。事件は起こった。

 やけに物音がすると思い、ふと目を開けた。ああ、いつもの天井だ。そう思ったが、何か違う。その手前に何かいる。知らない女が、じっとこちらを見つめている。


 まずい、身体が動かない。


 四肢の末端が冷えていくような感じがした。本能が、これはいけないものだと警鐘を鳴らしている。黒音は何処だ。助けに行かないと。その時。


「失せろーーーーー!」


 甲高い声と共に裕昌の目の前を、細い光が通った。

 恐る恐る目を動かすと、獣耳の生えた少女がそこにいた。黒い髪を左耳の上で一つに結い、右腕の袖がない着物っぽいものを着ている。

 ちょっとまて、誰だ。

 反対側に視線を移動させると、透けた女が三又に分かれた棒のようなものに貫かれ、壁に縫い留められていた。これはたしか筆架叉とかいったか。確か下のオカルト資料館にも展示してあった。因みに、裕昌の住んでいる部屋は、今働かせてもらっている老舗の雑貨屋兼、いろいろ古いものを集めた資料館の上だ。


「ふん、この家結構出るな」


 少女が見渡すと、辺りには男やイタチや子供が浮かんで集まっている。それが視える。裕昌は硬直していた。


『え?俺って霊感あったっけ?いやいや、今まで見えてなかったし、何なんだこれは!?』


「ここは私の寝床だあああああ!」


 脇差の刃が霊を一掃する。瞬く間に霊が消えていく。少女は脇差を収めると、壁に刺さった筆架叉を抜き取り、腰帯に差した。

 思わずベッドから転げ落ちた裕昌は、少女の出で立ちと、左袖が不自然に垂れ下がっているのと、エメラルドグリーンの瞳から少女が何者であるかを悟った。


「…………………………………黒、音?」


「ん、裕昌?何やってんだその格好?ってか、視えてるのか?」


 見た目とそぐわない口調で首を傾げる。裕昌はと言うと、まだ硬直したままだった。


「あー……私の妖気と同調したか。やっぱり」


「黒音?」


 黒音が困ったように後頭部をかりかりと掻く。


「たまにいるんだよなあ、霊力が妖気と同調して急に視えるようになる奴」


「黒音ええええええええ!」


「ぐえっ」


 裕昌は情けない声を上げて少女、基、黒音をむぎゅうっと抱きしめた。


「ううっ、無事でよかったよお〜」


「――――っ!痛い苦しい暑苦しい!離せ!」


 じたばたとあがく黒音だが、大の大人に片腕だけでは歯が立たない。顔を押しのけたり、ローキックをしたりしているのだが、それどころではない裕昌は離す気がない。

 その夜の後の記憶は全くない。





※エブリスタ内にて掲載したものに加筆修正を行なっています。


初めまして。胡蝶飛鳥です。

普段はエブリスタで連載しているのですが、なろうにも挑戦してみます…。

視えるようになってしまったごくごく普通の一般人と、ちょっぴりツンデレな黒猫又の不思議な『縁』のお話をお楽しみくださいませ…

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