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ゆりデビュー 8

 次は、図書館となりの休憩ベンチ。

 相手は、D組熊坂くんと・・・・・・

 私たちは、気を取り直して、図書館へ向かって歩いていった。

 学君によると、さっきの脇田くんは、柔道部の1年生。どおりで、私が抵抗しようとしても、どうにもならなかったわけだ。

 だけど、熊坂くんについては、学君も知らないみたい。

 ともかく、この子が済めば、今日は終わり、晴れて、私は帰宅できる。

 はやくすまそ! って声をかけて、走り始めた。

 慌てて、学君も追いかけてくる。

 キャハハなんて、笑い声を上げて、追いかけっこを楽しんだりして。

 周りから見たら、私たち、恋人どうしに見えたりして。

 それはそれで、ヤなんですけど・・・・・


 図書館に到着すると、体育館でもそうしたように、そっと影からクビを伸ばして、様子を偵察。

 一応、いることはいる。手前のベンチには、膝の上に本を広げて読んでいる女の子。ショートの髪。どこかで見たことがあるような。その向こうのベンチには、男の子が二人。なにか雑誌を広げて、バイトがどうとか話しているみたいだから、彼らじゃないよね? きっと。

 でも、4つあるベンチのうち、誰かを待っているって感じの男の子はいないみたいだし・・・・・・

 もう、帰っちゃったのかな?

 なんて、学君と相談して、とりあえずは、空いているベンチのひとつに座ってみる。

 男の子たちの方から、あ、神宮寺つかさだ! なんて、声が聞こえてきたけど、無視無視!

 あんたたちに、気安く呼び捨てにされるいわれはないわ!

 と、視界の隅に動くものが・・・・・

 本を読んでいた女の子だ。

 その本を小脇に抱えて、ゆっくりと私の方へ近づいてくる。そして、

「あの、神宮寺さん、およびだてしてしまって申し訳ありません」

 って、この子が熊坂さん。あの二通目の呼び出しレターの子。女の子だったなんて・・・・・・


 熊坂さん、私の隣に腰掛けて、話しかけてきた。

「あ、あの、わたし・・・・・D組の熊坂光っていいます。えっと、その・・・・・・入学式で、あなたのことをお見かけしたときから、ずっと心に面影が残ってしまって・・・・・・」

 へっ!?

 いま、この子、なんていった? なんか、とんでもないことをいったような・・・・・

 って、おい、おーい!

 なんで、そこで、ぽっと頬を染めて、うつむく! よく考えてみなよ、私も君も女なんですけどぉ~

 熊坂さん、きっと目を上げて、私をひたと見つめる。なんか、すごい迫力・・・・・

 私の逃げそびれた手をガシッとつかんで、身を乗り出して・・・・・

「す、好きです! あなたが好きです!」

 言いおった。言いおったで、この娘!

 信じられない言葉、信じられない展開。

 呆然として石化している私をよそに、次の瞬間には、頬に熱い唇の感触が・・・・・・・・ そして、熊坂さん、どっかへ走っていっちゃった。な、な、なんだったのだろう、いまの子は・・・・・・・

 めまいがしてきた。

 なんだか、後ろの方から、男の子たちが「すげー」とか騒いでいるような気がするけど・・・・・

 私は茫然自失。

 いつの間にか、学君、私の前に立っていて、

「つかさ?」

 心配そうに私を見ている。大丈夫よという感じで、淡く微笑んで、返事の代わり。

 それに対して、学君・・・・・・・

「ゆりデビューおめでとう!」

 さらに、力がぬけた・・・・・・


 学君、今日は空手部の部活に行くとかなんとか、いってたけど、強引に捕まえて、商店街まで、強制連行!

 ネクタイを思いっきり引っ張って、ほとんど引きずるようにして。まるで、セカイ系美少女が新しい部活を始めることでも思いついたかのように・・・・・

「もう、なんなの、あの子!」

 ほんと、なんだったのだろう?

「ヤんなっちゃう! 学、カラオケいこ! カラオケで歌いまくってやる!」

「ちょ、ちょっと、悪いけど、おれ、これから部活に・・・・・」

 まだ春だというのに、汗をいっぱいかいて、何とか逃げ出そうとする学君。

「え? なに! アンタも思いっきり歌いたいのね? いいわ、特別に私とデュエットしてあげるわ!」

「ひ、ひぃぃぃ~~~」

 なんか、学君、白目をむいて失神しちゃったけど、そんなの気にしてらんない!

 徹底的に、歌いまくらなくちゃ、この不快感すっきりしないよ!

 今日は、歌うぞぉ~! 徹底的に歌ってやるぞぉ~!

 私は、気を失っている学君を引きずりながら、商店街の外れのカラオケボックスへと向かった。その背を真っ赤な夕日に照らされながら。


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