ゆりデビュー 7
体育館の角まできたら、私そっと首を伸ばして、裏手の様子を確認した。
いた!
体育館の裏手の日の当たらない、ひねくれた木を背にして、じっと立っている。
とりあえず・・・・・・
――デッキから、カードを2枚伏せて、ターン終了!
私は、元気よく、裏手へ足を踏み出した。
「えっと、脇川くん?」
って、わざと名前を間違えて呼んであげる。ドジっ娘つかさちゃん登場!
「あ・・・・・・ わ、脇田です」
「あわわ。ごめんなさい」
慌てた様で、手をブンブン胸の前で振って、いつものように、私のかわいさを演出と。
これから何が起きるのか、何も気づいていないかの様な純真な表情で、かわいく、かわいく見つめてあげると、あらら、彼、耳まで真っ赤に染めちゃって。かわいい。うふ。
「脇田くん、なにか私に用?」
「・・・・・・・・」
地面をもじもじ見つめて、なかなか用件を切り出せないみたい。
たまに、こういうのいるんだよねぇ。
呼び出しレターを私の下駄箱にいれるのに、もってる勇気を全部出し尽くしちゃって、肝心のときに、びっしときめきれないヤツ。
でも、大丈夫、この天使つかさちゃんは、辛抱強く、君がなけなしの勇気をかき集めなおすまで、待っていてあげるよ。
「・・・・・・・・・」
にこにこにこ・・・・・・
「・・・・・・・・・」
にこにこにこ・・・・・・
私、辛抱強く、にこやかに、待ってあげていた。
「・・・・・・・・・」
にこにこにこ・・・・・・
「・・・・・・・・・」
にこにこにこ・・・・・ピキッ!
「ちょっと、脇田くん? 私に用事があるから、呼び出したんじゃないの?」
「あ、あの・・・・・・・・・」
にこにこにこ・・・・・・
血管がしだいに浮き上がってくる!
「用事ないんだったら、私、もう帰るね」
「あ、まって・・・・・」
脇田くん、私の手をつかんで、引きとめようとする。結構強い力。
「い、いったーい!」
「あ、わわわ、ごめんなさい、神宮寺さん、大丈夫?」
痛さで目の端に、うすく涙をうかべてみせたりして。
それを見て、脇田くん、さらに顔の赤みが増して・・・・・・・
突然。
「好きだ!!! オレ、君のことが、好きです!」
くふ、大声上げちゃって。そんなに叫ばなくても、目の前にいるんだから、十分聞こえるってぇの。
その後は、結構、すばやかった。今までのもじもじした態度がウソみたいに・・・・・
彼、私に向かって飛びついてきた。
思わず・・・・・
ばしっぃぃん!
私の平手が、脇田くんの顔に炸裂した。
「やめてよ! なにするのよ! 飛び掛ってきたりしないで!」
そんな私の抗議にはおかまいなく、抱きついた姿勢のまま、脇田くん、「好きだ! 好きだ! 好きだ!」
ったく、でたな、自己中、好きだ男!
あなたは私のことが好きでも、私はあなたが好きではないの。
私は、なんとか脇田くんを押しのけようとしてみるけど、さすが男子、私の力ではびくともしない。
そうこうするうちに、脇田くんに押されるようにして、体育館の壁におしつけられた。
もう、やだ! 背中がよごれちゃうよぉ!
と、脇田くん、私の顔を見た。
やばっ! その視線からだと、ぷっくらとかわいい私の唇! 私は必死に首を曲げて、脇田くんの視線から、唇を離そうとした。そして、
「助けて! 学君!」
――リバースカード『伏兵』オープン! もう一枚のリバースカード『守護精霊マナブ』召還!
体育館の角から、「呼ばれて、飛び出て、じゃじゃじゃじゃーん」なんて、なつかしのフレーズを口にしながら登場してきたのは学君。あっという間に、脇田くんを私から引っぺがした。
さすがに、今の醜態を他の人にみられ、恥ずかしくなったのか、脇田くん、逃げていっちゃった。
ふう~~~
いつものこととはいえ、疲れちゃうよ。まったく!
思わず力が抜けて、しゃがみこんじゃった。
「ありがとう、学君」
学君、ナイトがプリンセスにするみたいにお辞儀をひとつ。ほんと、キザなんだから。
私まで、恋しちゃいそう。しないけど・・・・・・