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ゆりデビュー 6

「おまえな~」

 放課後、私と学君は、体育館の裏手へ向かって並んで歩いていた。

 ありさちゃんは、剣道部の部活に参加するために、一人で部室の方へいっちゃった。

「ごめん、なさい・・・・・・」

「お前があんなこというから、午後ずっと、他の男子に無視されっぱなしだぞ!」

 ったく!

「ごめん、なさい・・・・・・」

 さっきから、私、謝ってばっかりだ。大体、本当のことを言ったまでだし、なにも間違ったことを言ったわけじゃない。どうして、私が謝んなきゃいけないのよ!

 ちょっとむくれた私の頭を軽く殴るみたいな真似をして、学君、話題を変えた。

「で、今日はどんなヤツ?」

 スカートのポケットから、手紙を二枚取り出して、学君に渡した。受け取った手紙を裏返して、差出人を確認する。

「えーと、C組の脇田に、D組の熊坂っと・・・・・」

 そう、今朝、私の下駄箱に入っていた手紙二通・・・・・・

 いわゆる恋の呼び出しレターってやつだ。

「ほんと、お前ってもてるなぁ~ 毎日毎日・・・・・」

 いまさらのように、学君も感心する。そう、入学式の翌日から、私の下駄箱には、毎朝ラブレターだとか、男の子からの呼び出しレターが入っていたのだ。それも、毎回違う男子から・・・・・・

「大変だよな。お前も」

「うん・・・・・・・・」

 こういう古典的な告白の形だけでなく、どこで調べるのか、私の携帯に電話やらメールで告ってきたのも含めれば、すでに30人に告白されているってことに・・・・・・

 30人・・・・・

 考えてみればすごい数。30人の男子っていえば、クラス1つ半だよ。一週間でコレだけの数になるんだったら、これからの一年で、どれぐらいの人数になるんだか・・・・・

 ちょっと恐ろしい数になっちゃいそう。

 でも、私は美少女戦士つかさちゃんだから、コレぐらいのこと当然といえば当然。この程度のことで、驚いたりしててはダメ! 美少女に生まれついた私への、こんな神様のいじわるな試練ぐらい、見事に乗り越えて見せるわ!

 むぎゅっ!

 力を入れて、こぶしをにぎり、あさっての方角をにらんで、きめポーズしたりして。

 学君の冷たい視線を感じる気がするけど、無視よ、無視! つかさガンバレ!


 本当なら、脇田くんとかいう子の待つ体育館裏へ、私一人で行くべきなんだけど。

 ・・・・・・相手も一人なんだしね。

 でも、私、いつも学君か、ありさちゃんについてきてもらってる。

 だって、一人で男の子が待つ場所へ行くなんて、まして、男子と二人きりになるなんて、かなり怖いんだもん!

 経験上、告白してきた男子に、ごめんなさいすれば、大抵は、その場所から素直に立ち去らせてくれるんだけど、中には、そうでない卑怯な男子もいるんだよねぇ。

 もともと、人気のない場所に、私と男子の二人きり。

 私は、どうみても、非力でかわいいだけの女の子。相手は未成年だといっても、男。

 想いがかなわないって、知った途端、力づくで何とかしようとするヤツがたまにいるんだなぁ。そこで、格闘技全般が得意な学君やありさちゃんの登場。毎回、そういう力任せの卑怯なヤツなんか、コテンパンにやっつけて、私を救い出してくれる。


 あれは、小学校4年生のとき。

 私に、生涯で5番目に告白してきたのが、2つ年上の6年生。下校途中にあるマンションの駐車場へ呼び出されて、ごめんなさい、あなたと付き合えませんって言ったとたん、あいつ私を押し倒して、唇を奪おうとしてきた。

 私、必死に抵抗して、悲鳴をあげたんだ。

 そしたら、たまたま、そのマンションから出てきて、私を助けて出してくれたのが、清貴さん。私、初めて、男の人に恋をした。

 だって、あの乱暴な6年男子を大声でしかりつけて、追っ払い、やさしくケガはないって、手を差し伸べて、助け起こしてくれたんだもん!

 あの手、頼りがいがあって、がっしりしていて。それなのに、指が繊細で、白くて・・・・・

 王子様の手。私の、私だけのプリンス。

 まぶしい笑顔の清貴さんの背後に、純白の羽が見えた気がする。

 清貴さんは、そのマンションに住んでいて、そのときは高校3年生。ってことは、8つ年上。コンビニへ買い物に行くために、駐車場の脇に止めてある自分の自転車を取りに行こうとしてたところだった。


 でも、それから、私、すっかり怖くなっちゃった。

 男の子から呼び出された場所へ、一人でのこのこ出むいたら、また、男の子に襲われるんじゃないか、今度は、清貴さんがいないから、唇を奪われるどころか、もっとひどい目にあっちゃうんじゃないかっておびえてた。

 だから、ずっと、呼び出されても、出かけず無視してばかりだった。

 そしたら、私に無視された男の子たち、怒り始めちゃって、私をいじめるようになったんだ。男の子たちが私をいじめるようになったら、もともと私が可愛くて、男の子たちに人気があるのを妬んでいた女子たちも、一緒になって私をいじめるようになった。

 はっきり言って、男の子たちからのいじめより、女の子たちからのいじめの方が、ひどかった。つらかった。

 男の子たちがいじめるっていっても、私の持ち物を隠したり、スカートめくりをしたりとか、その場では、悔しかったり、はずかしかったりするけど、それで怪我したりなんかしない程度のもの。だけど、女の子たちときたら・・・・・・

 体育の時間に私の服を持ち出して、裏のドブに捨てたり、かみそりを上履きにしこんだり、画鋲を椅子の上にまいたり・・・・・・

 ほんと、地獄のような毎日だった。

 そんな、悲惨な小学校時代をすくってくれたのが、ありさちゃんと学君。

 私が男の子恐怖症だって気づいてくれて、呼び出しに一緒についてきてくれるようになったし、他の子たちが、私を傷つけようとしていないか、それとなく目を光らせて、見張ってくれていた。

 それだけでなく、私を守るために、二人とも、体を鍛えるようになったし・・・・・

 ほんと、二人には、感謝しても、感謝しきれない。

 ありさちゃん、学君、ほんとうに、ありがとう!

 でも、だからといって、二人が通っていた道場の先輩の清貴さんに、ありさちゃんが恋しちゃったのは、許せないけどね!



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