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桜色のしずく 8

 私たち、雨の中を並んで歩いて帰った。

 なんとなく、会話が途切れ途切れ、続かない。

 熊坂さん、機嫌悪そう。

「ねぇ? 熊坂さんって、委員長と中学一緒だったんでしょう?」

「・・・・・・うん」

「中学時代の委員長って、どんな女の子だったの?」

「普通の子だった」

「・・・・・・」

 はぁ~ なに怒ってるのよ! まったく!

 タダでさえ、松葉杖をついて、歩きにくいのに、苦労して会話しようとしてるのに!

「ねぇ? 熊坂さん、怒ってる?」

「別に怒ってないよ!」

「うそ、怒ってるよ。さっきから、機嫌悪いし」

「怒ってない! 機嫌悪くない!」

 プイッと顔を背けちゃって、素直じゃないんだから。ったく!

「さっきはごめんね。勝手なことしちゃって」

 きっと、委員長を勝手に島崎君にくっつけちゃったことを怒ってるのだろうな。

「な、何、謝ってるの! 別に、私怒ってないから!」

「中学時代から友達だった委員長を勝手に島崎君にくっつけちゃって、ごめんね。予め、委員長の親友の熊坂さんに言っておくべきだったね」

 とたん、熊坂さん、真っ青になっちゃった。

「ち、ちがう! そんなことじゃ・・・・・・」

「え?」

「違う! 私、彼女が好きになった人と仲よくなれたことは、本当にうれしいの! 本当に、心の底から、喜んでいるの! すごく、すごくよかったと思ってるの!」

 必死に、言っている。どうやら、本心みたい。

 ん? 委員長のことで腹立ててるのじゃないの? じゃ、なにさっきから怒ってるの?

 ・・・・・・!?

 ま、まさかねぇ?

 佐野君に手を握られていたからって・・・・・・

 あ、でも、なんでさっき私、佐野君に手を握られたときに、イヤだって思わなかったのだろう? それどころか、むしろ私、心地よかったような。

 いや、そんなことはないはず。だって、だって、だって、私は・・・・・・

 私、混乱して立ち止まっていた。

 熊坂さん、そんな私の正面に回って、真顔で顔を覗き込む。

「私、愛してるの! 誰にも渡したくないの!」

 私の手をとり、両手で握った。ちょうど佐野君が握っていた手。佐野君よりも強く。

 好き。

 私の耳に、かすかに彼女がつぶやくのが聞こえた。

 なんだか、全然本当のことのようには思えない一瞬がそこにあった。ぼうっとしていた。頭の芯がしびれてしまっているかのように・・・・・・

 まったく現実感のない視線の中の彼女の傘には、桜の花びらが散っているのがみえる。もしかしたら、私の傘にも桜の花びらが・・・・・・・

 ふっと、その傘の向こうに私は見た。

「あっ、虹!」

 いつの間にか、雨は止んで、この町の上に虹がかかっていた。

 熊坂さん、私の声に釣られて、振り返り、その虹を見上げた。

 決して鮮やかではない、不鮮明な七色の帯。自分でもはっきりとは分からないモノ。でも、なにかがそこにはある。きっと、なにかが・・・・・・

 私、その熊坂さんの横顔に近づいた。

 そして、

 チュッ

「えっ!?」

「ありがとう。でも、これだけは覚えてて、私は私。だれのものでもない! 私のことは、私が決めるの。あなたでも、他のだれでもないわ」

 熊坂さん、私がキスした頬を押さえて、戸惑ったように、私を見つめている。

「それでもよかったら、私のそばにいて」

 熊坂さん、小さくつぶやいた。

 ウン


 その坂の桜並木、散れ残った花びらから、ポタポタと水滴が落ちている。

 その桜色のしずくが私たちの靴先をぬらし、桜の根元に小さな水溜りを作って、波紋に揺れる虹を映し出していた。

 もう桜の季節は終わりだった。




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