桜色のしずく 7
「ああ、ちょうど、先生の手伝いで、呼ばれてたから、俺、これでも副委員長なんでね」
「・・・・・・ち、違う・・・・・・」
「ん? 神宮寺は、島崎たちの応援をしたかったんだろ? なら、あれでいいじゃん?」
私、混乱したまま。
「お、さすが、サッカー部のエース。もう追いついてる」
私、佐野君が指差す方を見た。
校門のところ、島崎君、もう委員長に追いついている。逃げる委員長の腕を押さえ、引き寄せた。そして、強引に抱き寄せる・・・・・・
「そう、そう、島崎、そこだ、そこで好きだっていってやれ! そして、唇を!」
隣で、妙に興奮している佐野君、でも、だからって、今、何で私の手をつかんだの?
大きくて、あったかい手。ふふ、ちょっとゴツゴツしてる。
校門前の二人、抱き合ったまま、雨に全身濡れながらも、なにかささやきあっていたみたい。見つめあっちゃって、いい雰囲気かも。
だけど、ちょうど通りかかったサッカー部の男の子たちに、ヒュ~ヒュ~っと口笛を吹かれ、女の子たちに、ヒソヒソ指差されながら見られていることに、急に気がついたみたい。
あらら・・・・・・ 二人、パッと離れちゃった・・・・・・
「ったく! バカ島崎! そこで、なんで思いっきりいかないかなぁ~」
っつ・・・・・・ いたいっ!
佐野君、手に力を入れないで。痛いんだから・・・・・・
でも、あの二人、遠くからでも分かるぐらい真っ赤になっちゃって・・・・・・
見てる私が、くすって笑っちゃう。
「ま、あの島崎だから、仕方ないか。とりあえずは、あそこまで進歩したんだから、OKってことで、ね?」
佐野君、私に微笑みかけてくれるのは、うれしいのだけど、そろそろ手を放してほしいなぁ? なんて、私的には、そう思う。
でも、その間に、委員長と島崎君、ぎこちなく、でも、なんだか見てる方が爽やかに感じられるぐらいの様子で、委員長の傘を開き、並んで、校門を出ていっちゃった。完全に私たちのこと、忘れちゃってるみたい。まあ、それでいいのだけど・・・・・・
手をつなぐでもなく、肩を抱くでもなく。ただ、二人でひとつの傘におさまって、並んで歩く。ただそれだけ・・・・・・
ただ、それだけだけど・・・・・・
委員長も、島崎君も、照れくさそう。それ以上に、しあわせそう。
いいなぁ~。
その様子を見ながら、隣の佐野君、ボソリと・・・・・・
「しかし、あんな女物の傘で、ふたり入ったんじゃ、あんまり傘の意味がないような気がするな。絶対、明日、あいつら風邪ひいて学校休むな・・・・・・」
な、な、なんで、そこで、そんなことをいうのかなぁ? 男って!
折角、素敵な場面だったのに! ぶち壊しよ! まったくもう!
私、佐野君に握られている方の手を思いっきり振った。
その動きで、佐野君、自分が無意識に何をしていたか、ようやく気づいたみたい。
「あっ! わ、わるい」
佐野君、慌てて、手を放した。ちょっと、手の温度が下がった。
「えっと・・・・・・」
熊坂さん、私たちの横から、遠慮がちに、声をかけてくる。
いつもマイペースなのに、なんだか珍しい。
「島崎君だっけ? あれ?」
「うん、そう」
「そう・・・・・・ よかったね」
ちっともよさそうには、見えない表情。
ん? もしかして、この娘、島崎君に嫉妬してるのかな?
委員長とは中学時代からの親友みたいだし、目の前で二人の姿を見せられて、動揺しているのだろうなぁ。
「あ、そうだ、神宮寺? もしかして、それ、アイツのだろ?」
佐野君が照れ隠しか大きな声で、私の抱えている傘を指した。
「うん。サッカー部の顧問の先生が渡してって」
「そっか、じゃ、それ、俺から、渡しといてやるよ。アイツの家近所だし、お前が持ってたんじゃ、ヘンな誤解の元になっちゃうから」
「え? でも・・・・・・」
「それに、今朝、晴れてたから、傘持ってくるの忘れてたし・・・・・・」
そういって、強引に傘を奪っていっちゃった。
ったく! もう! 勝手なんだから・・・・・・
それから玄関の先で、振り返って、いたずらそうな表情で、
「あ、そうだ、今日も俺の背中乗っていくか?」
「ば、バカ!」
バカ! もう、佐野君のバカ! 私、真っ赤になっちゃうじゃない!
全力で、拒否する私に、佐野君、片眉を上げただけ。
「そっか、じゃ、また、明日な?」
軽く手を振って、スタスタ歩いてく。
う、うん・・・・・・
その背中に、すっかり冷たくなった手を小さく振った。佐野君が見てはいないけど。