桜色のしずく 6
私、玄関の扉のところ、島崎君の真後ろに立った。D組の下駄箱から、来るはずの熊坂さんを待っているかのフリ。でも・・・・・・
「委員長、ちょっとここへ、私の前に立って」
「え? なに?」
そういいながらも、素直に、なんとなくうれしげに委員長、私の前に立ってくれるし。やっぱり、好きな人の近くに立てるのが、うれしいのだねぇ。
「はい、そのまま回れ右して!」
「え? こう?」
少し握った手を唇の前に置き、頬を多少赤らめて、反対の方をむいた。
もしかすると、委員長、今、島崎君の背中に視線が釘付けかな?
私、そう考えながら、委員長の背後から、すこし大きめの声で島崎君に声をかける。
「ねぇ、島崎君? 傘ないの? 私の傘に入れてあげるから、一緒に帰ろ?」
え!? なんて、驚いて、振り返ろうとした委員長。でも、振り返る暇も与えず・・・・・・
ドシンッ!!!
全力で委員長の背中を押した。そして、私は、その反動を利用して、近くの柱の影へ。
「キャッ!」
計画通り、委員長、前へつんのめるようにして、二、三歩前へ。
ちょうど、私の声で背後を振り返った島崎君の目の前。
「え? あぁ、神宮寺さん? いいの? わりい・・・・・・ ん? 委員長?」
「し、し、島崎、君・・・・・・」
振り返った島崎君、後ろにいたのが、私でなく委員長だったので、すごく戸惑った様子だった。
一方の委員長も、自分の傘を胸の前に抱えたまま、ビックリして固まっているし。
「・・・・・・!」
「・・・・・・?」
一瞬見つめあった二人、委員長、たまらず、視線を足元へ。
そう、委員長、そこで勇気を出して、誘うの! 一緒に帰ろって! がんばれ、委員長!
でも、委員長は、視線を落としたまま・・・・・・
と、突然・・・・・・
「つ、使って!」
胸に抱えていた自分の傘をグイッと島崎君に捧げるように突き出し、無理やり渡した。そして・・・・・・
あっ! 逃げた!
委員長、そのまま雨の中へ。
ピッシャ! ピッシャ! と委員長が一歩踏み出すたびに水がはねる。その場から、走り去っていく委員長の髪の毛が激しく上下に揺れる。
島崎君、自分の腕に抱えさせられた女物の傘と走り去っていく委員長の背中を交互に見ながら、当惑し、混乱していた。呆然と立ち尽くしているばかり・・・・・・
な、な、な、なにしてるのよ、委員長! そこが一番肝心なところじゃない! 勇気を出して、なんで、誘えないのよ! なんで、逃げ出しちゃうのよ!
あまりの展開。折角、お膳立てしたのに、委員長、逃げ出して行ったし。こんな場合、私どうしたらいいの?
こんなことって、こんなことって、ありえない!
と、そのとき、A組男子の下駄箱コーナーから一人の男子が走り出てきた。そして、ぼうっと突っ立っている島崎君に大声で叫んだ!
「バカ、なに突っ立ってるんだ、島崎! 追え! 追うんだ!」
島崎君、一瞬その叫び主の方を見た。すぐに、うんとうなずくと、はじかれるようにして、雨の中へ飛び出していく。
それを見送り、私、慌てて、その叫んだ男子を振り返った。
「ど、どうして・・・・・・?」
佐野君が、にこりと笑ってた立っていた。