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桜色のしずく 4

 放課後になり、あの放送のおかげで、今日からは、呼び出しに応じる必要はもうない。

 私、なんとなく晴れ晴れとした気分で、帰り支度を始めていた。

 教科書とノートをカバンにつめて、杖と傘をつかんで・・・・・・

 あっ、降ってきた。

 教室の窓際の席から、そういうのが聞こえてきた。

 思わず、窓の外を見てみると、鉛色の雲、薄暗い空。かすかな雨粒の線がまっすぐ地上へと伸びている。

 と見る間に、その空から地上をつなぐ線は太さを増し、激しく窓を叩きつける。

 すごい雨。一昨日、昨日と、私の晴れ女パワーのせいで、雨が降るのを阻止されちゃったから、その分もこれから降ろうとでもいうのかな?

 ともあれ、教室を出、一旦、廊下を生徒会室へ杖を突きながら歩いていく。

「つかさちゃん、待って! お姉ちゃんのとこ、行くんでしょ? 一緒にいこ!」

 なんていいながら、私の杖を引っ張るのは、もちろん熊坂さん(妹)。その後ろから、

「ひかりん、神宮寺さん、怪我してるんだから、杖ひっぱったりしないの!」

 なんて、やさしく注意してくれるのが、委員長。

 おもわず、委員長と目が合って、お互いの顔に自然と笑みが・・・・・・


「おす、みんな、一昨日、昨日と、おつかれさま」

 いつものように黒板の前、熊坂会長が演説を始める。

「とくに、昨日は、閉会後に、後片付けまでご苦労様だった」

 そう、昨日の観桜会終了後、メンバー全員での撤収作業が待っていたのだ。まあ、私はこの足だし、たとえ、昨日帰らず、居残っていても、満足に手伝いもできなかっただろうけど・・・・・・

 で、今日は、反省会。

「今年の観桜会。天気もよく、君たちのがんばりのおかげもあって、例年にもなく、大成功だった。これまでの観桜会の中で、歴代ナンバーワンの人出と寄付金が集まった。このような大成功時の会長となれたこと、私は、非常にうれしく思う。みんなありがとう」

 会長、深々と頭を下げる。

 みんなスタンディングオベーション。

 でも・・・・・・

「みんな、ありがとう。だが、最高の成績を残せた観桜会だったが、残念なことがいくつかある。まず、怪我人が出たこと」

 ビシッと私を指差す。

「さいわい、我々の仲間だったので、よかったが、これがゲストだったなら、どういうことになっていたのか、考えるだに恐ろしい・・・・・・ 今一度、安全確保の規定の見直しが必要だと思う」

 かたわらに控えていた少し赤い顔の大崎先輩、さっと立ち上がって、黒板に『安全規定の見直し』なんて書き込む。

「つぎ、ゲストの中に、例年になく無理難題をふっかけてくる者が続出した。これもゲストへの対応マニュアルの早期改訂が必要だと思われる」

 うん、そうだったねぇ。私の連絡先を教えろだの、紹介しろだの、会長大変だったものねぇ。

 ん? って、今の二つ、両方とも私に関係してくるものばかりじゃ・・・・・・

 私って・・・・・・

 もしかして、トラブルメーカー?

 いや、そんなことはない! すべては、私のこの絶対的な美がいけないのよ!

 美の女神は波乱万丈な一生を送るのが宿命なのよ!

 がんばれ、つかさちゃん! ふぁいとぉ~!

「その他、細かいことがこまごまあったことはあったが、概ね、上出来だった。みんなよくやったぞ!」

 会長、そのまま座り込んで、大崎先輩に目で合図。

「では、だれか他に、なにか気づいたことありますか?」

 そういってぐるりと全員を見回す。

 でも、だれも、手を挙げるものはなかった。

「OK では、この二点『安全規定の見直し』と『ゲスト対応マニュアルの改訂』を今後の課題として、考えていくものとします」

 パチパチと拍手。だれも異議をとなえるものは、なかった。

「さて、今後の方針が固まったところでだが、昨日までの観桜会で私、考えたことがある」

 会長が再び立ち上がり、話しはじめた。

「いままで、私は、さくらヶ丘女子の伝統にこだわり、さく女の伝統をひたすらに守ることをよしとしてきた。それは決して間違いではないし、今回の観桜会は、まさに、そのさく女の伝統そのものだった」

 会長、さらに話を続ける。

「今回の成功は、さく女の伝統の勝利であり、我々の勝利でもある。でも、閉会して、みんなで片付けるとき、こうも思った。金曜日、事前の予想よりも短期間で、準備が完了したのは、我々ががんばったからだけではなく、男子たちが手助けしてくれたから。それだけでなく、観桜会期間中、いろいろな場面で、私たちが困っているときに、男子たちが手を差し伸べ、助けてくれることが、あちこちで見られた」

 そう、私が足をひねって動けなくなったときに、助けてくれたのは、男子の佐野君だった。

「もし、我々がさく女の伝統をかたくなに守ろうとするのであれば、そんな男子の助力、突っぱねねばならなかった。だが、我々はそうしなかった。その意味では、今回我々は、さく女の伝統を逸脱した存在だったといえる。だがしかし、そうであっても、今回は空前の大成功だった。伝統を遵守しなかったにもかかわらず、今までだれもなしえなかったほどの大成功を納めた。となると、我々、さく女の伝統を守ることばかり考えていたが、そんなに、堅苦しく考える必要はないのかもしれない。伝統を時代に合わせて、変えていく必要があるのかもしれない。いや、時代に合わせて、変えていくべきなのかも・・・・・・」

 昨日の梅田前会長の意見に近いねぇ。

「我々、これからは、単にいままでのさく女の伝統を受け継ぐだけじゃたりない。それだけでなく、新しい神宮寺という伝統を生み出していかなくちゃいけない。我々は元さく女の生徒だったけど、今は違う。今は神宮寺の生徒。我々は過去のさく女にとらわれることなく、新しい神宮寺の伝統を生み出さなければいけない! だから、みんな私とともに、さく女の伝統を守るだけでなく、これからの神宮寺高校の伝統を生み出していく手伝いをしてほしい。一緒に、新しい伝統を作っていこう! 神宮寺の者たちの手でなく、私たちの手で、新しい伝統を築いていこう!」

 会長の突然の提案に、その場のメンバーたち、最初は戸惑っていたみたいだけど、その言葉を吟味し、しだいに理解していった。

 そして、その言葉は熱烈ではないけど、温かい拍手に包まれたのだった。

「これからの神宮寺の伝統は、私たちが生み出していく!」

 しかし、昨日は梅田前会長、神宮寺の生徒たちとともに新しい伝統を作れとかなんとか言っていたのに、熊坂会長の結論は、やっぱり神宮寺ではなく、さく女が主体となってなのね。

 会長らしいというのか、なんというのか・・・・・・



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