桜色のしずく 2
4時間目終了のチャイムがなり、いつものお弁当タイム!
でも、私は、手紙に目を通すだけ・・・・・・
まだ、半分も進んでいない。これじゃ、お弁当食べられないよ。
と、教室のドアが開いて、飛び込んでくる影が・・・・・・
「つ・か・さ・ちゃーん!」
抱きついてきたのは、熊坂さん。でも、私、それどころじゃない! 一人で黙々と手紙に目を通す。
「つかさちゃん、なにしてるの? お弁当食べないの? ね? あっちで一緒にお弁当食べよ?」
委員長を指差して、お弁当に誘ってくれるのは、うれしいんだけど、私は、今、それどころじゃ・・・・・・
返事もしないで、黙々と目だけを動かす。
「ほら、つかさちゃん、ご飯食べないで、そんなのばかり読んでると、体壊しちゃうぞ!」
無理やり手に持っていた手紙を取り上げてくれるし・・・・・・
「ナニ読んでるの? えっと・・・・・・ 『初めて、あなたを目にしたときから、ボクはあなたに夢中になってしまいました。ボクは今、あなたの虜です。昨日までは、真っ暗で、何も見えない高校生活でしたが、あなたという光を目にしたとたん、ボクの人生は暗闇から解き放たれ、ばら色へと変わったのです。どうか、どうか、ボクの気持ちを分かってください。あなたが好きです! 大好きです! あなたに嫌われてしまったら、ボクには絶望しか残りません! 死ぬしかありません! どうか、ボクを嫌わないでください!』 ・・・・・・って、これって、ラブレター!?」
熊坂さん、私が呼んでいる手紙の一節を教室中に聞こえるように読み上げてくれるし・・・・・・
熊坂さんが読み上げている間、シンと静まり返ってた教室、終わった途端、一斉にひそひそと。
耳にかすかに、『す、すごいわねぇ~』だとか、『熱烈ぅ~』だとか、『私もあんな手紙もらいたい』だとか、聞こえてくる。
「ねぇ~? つかさちゃん、もしかして、その手紙の山って、全部、こういうヤツ?」
私から取り上げたラブレターをひらひらと振る。
「うん、そう」
途端に、教室にいる生徒たち全体から地鳴りのような唸り声が・・・・・・
『うぅぅぅ~!!!! す、すげぇ~~~!!!』
「それ、全部読まなくちゃいけないの?」
「うん・・・・・・」
「そんなの絶対むりじゃん!」
「分かってる。でも、読まなくちゃ・・・・・・」
「どうして読まないといけないの? どうせ、不可能なんだし、放っておけばいいことじゃない?」
「でも、一生懸命、私のために書いてくれたのに、読んであげないと・・・・・・ 書いてくれた人の気持ちを踏みにじるなんて、できない!」
「って、だからって、つかさちゃん、これを書いてきた人全員と付き合うってわけじゃないんでしょ?」
「うん、だから、目を通して、返事を書いて、お断りをしなくちゃ・・・・・・ 時間がないの! お弁当、今はたべられないの!」
私、次の手紙を取り出して、読み始めた。
「・・・・・・はぁ~」
ため息を吐くと、熊坂さん、私の机をドンとつよく叩きつけた。
え!? な、なに?
「いいわ! 私が何とかしてあげる。その代わり、私たちと一緒にお弁当たべよ? いい?」
「な、何とかって・・・・・・?」
「ちょっと待ってて、いま電話してくるから」
そういうと熊坂さん、廊下にでて、だれかに電話を掛け始めた。
やがてもどってくると、
「つかさちゃん、OKよ! もうそんなの見なくていいから、私たちと一緒にお弁当たべよ」
って、強引に私の手をとって、委員長の方へ連れて行こうとするし・・・・・・
「ち、ちょっと、ちょっと!」
「大丈夫! ダイジョーブ!!」
私、熊坂さんに連行されちゃった。