桜色のしずく 1
翌日の月曜日。
朝の空はからりと晴れ上がっているのだけども、天気予報では、今日は午後から雨。
私、傘を持って、今朝もパパに車で送ってもらって、学校へ。
行きは会社へ向かうパパの車で送ってもらえるけど、帰りは当てにできない。今日は歩いて帰らなくちゃ。昨日、家に帰ってから、ゆっくり休んだから、ほとんど痛みもなくなって、快調、快調。
これなら、なんとか傘差しながらでも、家に帰れそう。
私、気分よく、裏門から、玄関まで来ると、私の下駄箱、すごいことになっていた。
靴箱全体が手紙でいっぱい。下駄箱に入りきらない手紙のせいで、ふたも閉まらなくなってるし・・・・・・
うへっ!
なんなの、これ? 今日は、さすがに、呼び出されても、この足じゃ、いけないのに。このうちのどれぐらいが、私に呼び出しをかける手紙なのだろう?
ど、どうしよう・・・・・・
それに、この中のラブレター全部に、付き合えません、いい友達でいましょう。なんて、返事を書かなくちゃいけない。それだけで、何時間かかってしまうのだろう?
ありさちゃんなんか、こんなの、私のことを考えずに、一方的に想いを伝えようとしているだけなのだから、無視して、ゴミ箱へ直接捨ててしまえばいいっていうけど。でもダメ。私の頭の中で、どぶ川に浮かぶ私の服だとか、血だらけになった足だとか、鈍く光る画鋲の針だとかのイメージが・・・・・・
途端に、身震いしちゃう。
とにかく、全部を回収して、教室へ向かった。
教室で、全部に目を通して、仕分けなきゃ。
呼び出し状か、ただのラブレターかだけでも・・・・・・
教室では、同級生たち、私を遠巻きにして見てる。
なんだよあれ? って私を指差して、ケッ! あんなの見せつけて、自分がもてるってことの自慢かよ! ってなことを隠れて言い合っているのだろうなぁ。
でも、そんな陰口には構っていられない。
急いで全部に目を通して、呼び出しだけでも、確認しておかなくちゃ、後で、どんな目にあっちゃうか・・・・・・
私、目を血走らせながら、一通一通目を通していった。
それらは、ほとんどが、昨日一昨日と観桜会にやってきて、私を見かけた上級生たちからの手紙。中には、私を直接見かけたのではなくて、昨日出回っていた写メをみて、一目ぼれしたっていう人もいるみたいだけど。
その一通一通に私への想いが書き綴られ、私の美しさが褒め称えられ、彼らの幻想にだけしか存在しない甘い言葉を私が口にするのを期待していた。
でも、全然だめ。
朝のホームルームが始まるまでに、やっと全体の三分の一を片付けただけ・・・・・・
私、絶望し、半狂乱で考え続けていた。どうしよう! どうしよう! どうしよう!
でも、答えなんてない。そもそも手紙が大量すぎて、それらに全部目を通すだけの時間が存在しない!
私の中の悪魔な部分が、そんなもの、ほうっておきなさい!
なんて、ささやいてくれる。
もともと、私の気持ちなんかまるっきり無視して、一方的に自分の気持ちを伝えようとしているだけ、まともに相手にして、自分の時間をなくすなんて、本末転倒な話!
でも、私の中の天使な部分は・・・・・・
とにかく、わき目も振らず、全部読んであげるのよ! あなたのことを想い。あなたのために一生懸命書いた、彼らの想いの結晶なの。しっかりと目を通してあげて、彼らの想いを汲んであげなさい!
なんて、ささやいてくるし・・・・・・
でも、そもそも、そんな時間がないのだから、困っているんじゃない!
たとえ、時間がなくても、読もうと努力したってことが重要なのよ!
なんて、頭の中で、悪魔と天使が・・・・・・
うあぁぁぁ~~~!!!
「いい加減にしてぇ~!!」
つい声に出して、立ち上がってしまった。先生も教室のみんなも、一斉に私を目を丸くしてみていた。