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ゆりデビュー 4

 4時間目が終わり、すこし、涙声が交じったような『起立、礼』の掛け声のあと、お昼の時間。

 私たち女の子組は集まってお弁当を広げてた。

 私とありさちゃんの他に、名も無き女子4人。

 ワイワイ、ガヤガヤにぎやかなお弁当の時間。

「ねぇ? 昨日のドラマ見た?」

「シュンくん、格好イイ!」

「え~!? ダイちゃんの方が、ずっといいよ!」

 とかなんとか・・・・・

「私的には、ケイちゃんが後藤なんかと、くっついてほしくなかったなぁ~」

「あぁ、それ同感!」

「でしょ? でしょでしょ!」

 意味のない会話で盛り上がりつつ、お母さんが作ってくれたタコさんウィンナーをパクッ。

「ねえ、後藤って、いったら、なんか、島崎に似てない?」

 部屋の隅で、別のクラスの仲良しのショートカットの女の子とランチしている学級委員長の背がピクリと動いたのを、目の隅で確認しつつ・・・・・

「えぇ? 似てないよぉ~」

「そうかなぁ、日に焼け具合とか、口調とかさぁ~」

「あ、それ分かるかも」

「でしょでしょ。絶対、島崎に似てるよ!」

 フンフンとその名もなき女子が一人うなずいている。

「ねぇ、島崎っていったら、昨日、さくら館の窓口でチケット買ってるのみたよ」

「へぇ~ どんな映画ぁ~」

「ほら、レオナルド・チャンドラーが出てるアレ!」

 みんなの頭の中に、この春封切られたばかりで、泣ける映画として人気がある純愛モノがうかんだ。

 ・・・・・・プッ!

 で、おもわず、一斉に吹き出す。

「あの島崎がぁ あははは」

「きゃはははははは」

「ははははは」

 島崎君には悪いけど、あのサッカーバカ、脳みそ筋肉男に純愛映画は似あわねぇ~!!

 ありさちゃんの方をチラ見しながら、私も笑い声をあげていた。


「ねぇねぇ? 島崎があの映画のチケットを買ってたってことは、もしかして、島崎って彼女いるの?」

「え? あっ、そうかぁ~ いくらなんでも、あの映画、男の子一人でみるわけないもんねぇ~ 島崎一人だったら、アニメ見るだろうし」

「えぇぇ!? あの筋肉バカに彼女ぉ~」

「絶対、ないよ! ありえなーい!」

「妹か誰か家族のために買ったんじゃないの?」

「でも、あいつ一人っ子とか言ってたよ?」

「じゃぁ、お母さんのため?」

「マザコン!」

 チョーきも!!

「もし、彼女のためだったとしたら、島崎の彼女ってだれ? クラスの子?」

 女子6人組はキョロキョロと周囲を見回していた。若干、2名ほど、わざとらしくそのマネをしていたけど・・・・・・・

 私たちがキョロキョロしている間に、お弁当を食べ終わったのか、学級委員長は、静かに立ち上がって、ランチしていた友達と一緒に、教室を出て行った。私たちの声が聞こえないところへ行きたいんだねぇ~ きっと。うん、わかるよ。その気持ち。

「島崎って、文香ちゃんとイイ仲だったんじゃないの?」

「えぇ~? 文香ちゃんって、藤原本命じゃん!」

「じゃぁ、しーちゃん?」

「しーちゃんは、中川君」

「う~ん、だれだろう?」

「あ、そういえば、昨日、国語の時間、あいつ、ありさちゃんのことずっと見ていなかった?」

 その一言で、一斉に4対の視線が、デカ口をあけて、卵焼きをほおばろうとしていた女のもとへ集まる。

「ぐふ。おいしぃ~ しあわせぇ~」

 なんて、卵焼きをほおばりながら、わざとらしく、つぶやいて見せやがって、この女は!


「ないない! 絶対ないよぉ~!」

 ありさちゃんは、胸の前で手のひらを広げて、力いっぱい振ってみせた。

「だって、私には、清貴さんがいるんだもん!」

 ポッと頬を染め、両手で隠そうとするし・・・・・・

 言うに事欠いて、なんてこと言うんだか。この発情ムスメは! 清貴さんは、私のものなんだから!

 大昔、清貴さんのお母様の三木先生から、冗談でお嫁さんにどうって、言われたからって、調子に乗ってるんじゃない!

「そっか、そうだよねぇ~ ありさちゃんが島崎と付き合うはずないよねぇ~」

 女子連中、妙に納得。

「あの清貴さんがいるんだしね。島崎なんかに乗り換えるわけないか・・・・・・」

 って、それはちょっと、私的には、不愉快な言い草だぞ!

 島崎君がどうのこうのではなくて、『清貴さんがいるんだし』ってところが・・・・・・

「ありさちゃんでないとするとぉ・・・・・・・」

 全員の視線がゆっくりと私の方へ移動してくる。

「定番だよねぇ~」

「ふつうそうだよねぇ~」

「ねぇ~」

 口々に、言い合いながら。ありさちゃんまで、ウンウンとうなずきながら、私を楽しそうに見ている。

 なんかちょっと悔しい。なんで、島崎君、ありさちゃんなんだろう? こいつらがいうように、普通、わたしでしょ!

 この学校で、一番の美人なんだから。

 そんな心の中のもやもやを吹き飛ばして、つとめて明るく、ここ一番の笑顔でにっこり微笑んで、

「でも、私じゃないんだ!」

 てへっと可愛く舌だし。

「えぇ~! つかさちゃんじゃないの!」

「うっそぉ~!」

「えぇぇ~~!」

「え! うそ~!」

 なんだか、そこの名もなき女子4人組、やけにうれしそうじゃん!

 ええ、そうよ! 私じゃなく、そこの薄笑い女よ!

「じゃ、だれ? 島崎の彼女って、だれ?」

 ワイワイ騒ぐ女たちに、口の端を引きつらせた笑い顔を向けて、私は、最後のおにぎりを口の中に放り込んだ。

 おえぇ~~~

 私の大っ嫌いな梅干しのおにぎりだった・・・・・


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