伝統を守る! 7
下駄箱で、靴を履き替え、ありさちゃんを待っていると・・・・・・
「ねぇ、彼女、一人? 俺とお茶でもしない?」
さっそく、私を見つけて、声をかけてくるハエが一匹。
「君、すごくかわいいねぇ~ 足怪我してるんだ。これから帰るの? 大変だねぇ。送ってあげるよ」
ハエなんか無視! 無視!
私は、宇宙人、未来人、超能力者にしか、興味がないの! 的に、フンと横をむいて、そのハエを無視。
でも、途端に、そのハエ豹変。
「ちっ、シカトかよ! かわいい顔して、かましてるんじゃねぇ!」
バシンッと、私の横の壁を殴った。
思わずビクッと震えちゃう。顔から血の気が引くのが、自分でだって感じられる。だって、怖いんだもん!
ヤだ! なんで、男って、こんなことするの! 私は、あなたに興味なんてないの! あなたに構ってなんかほしくないの! どっかいってよ! 私に近寄らないでよ!
でも、その男、私の内心の叫びを感じ取ることもなく、私の松葉杖をつかんで、取り上げた。
「なにするのよ! 返して!」
「返してやるよ、そのかわり、俺とこれから付き合え!」
そういいながら、私の腰に手を回して、抱き寄せようとする。
「いや、触らないで! やめて!」
まただよ。もう! こないだの中川君といい、なんで、いつもいつも、私ばかり、こういう目にあわなきゃいけないのよ!
その男、私の手の自由を奪い、強引に顔を近づけてくる。
「イヤ! だれか助けて!」
私がそう叫んだ瞬間だった。
「お前、そこで何してる!」
だれかが、私を助けに来てくれた。
「うるせい! すっこんでろ!」
ハエ、すごんでみせる。なんか、すっごく、芝居がかった態度とセリフ。
「彼女嫌がってるじゃないか! その手を放して、消えな!」
「おまえこそ、どこかへいきな!」
ハエ、私を突き飛ばして、身構え、私を助けに来てくれた人に殴りかかっていった。でも、なんていうのか、こぶしのスピードが・・・・・・遅ッ!
それこそ、ハエが止まっちゃいそうなスピード。
あれなら、私でも簡単によけられそう。
でも、私を助けに来てくれた人は、その超鈍足パンチを見事に顔面に受けて、吹っ飛んでいった・・・・・・
あ、でも、なんか、パンチで飛ばされたというより、自分から跳んでいったみたいに見えたのだけど・・・・・・
その人、すぐに立ち上がり、殴られた頬を押さえ、『親父にもぶたれたこと無いのに!』
はぁ~、なんだかなぁ。
もちろん、この後の展開はお約束。
その人の反撃にあい、『おぼえてろよ!』とかなんとか、ハエとっとと尻尾を巻いて退散。
で、勝ったその人、精一杯の優しい笑顔で、私に手を差し伸べながら、
「じん・・・・・・お嬢さん、お怪我はありませんでしたか?」
う~ん・・・・・・
この場合は、やっぱり彼のシナリオどおりに演じてあげた方がいいのかな? それが親切ってものだろう。バカバカしいけど・・・・・・
それに、さっきのハエを雇ったり、着るものにも結構お金がかかっているみたいだし、もしかするとお金持ちなのかも。
「はい、ありがとうございます」
ここで、一瞬躊躇し、それから、はにかみながら、差し出してくれている彼の手をとってあげるっと・・・・・・
さらに、目を潤ませながら、斜め下に視線をずらして、ちらりと、彼を盗み見。
彼、耳まで赤くなっちゃって。ふふ、かわいい。
「あの、危ないところを助けていただきまして、本当にありがとうございます」
ぺこり
彼の見えないところで、舌をだしてたりして・・・・・・
「い、いや、べ、べ、別に、た、た、た、大したことをしたわけじゃ・・・・・・」
かみまくり。
悪乗りして、彼の両手をひしっとつかんで。潤んだ目で彼の目を覗き込んで。
「私、このご恩、忘れませんね」
――たぶん、あと、1分ぐらいは。
「あ、い、いや、あの、その・・・・・・」
目の端で、ありさちゃんがやってくるのが見えた。もう、お遊びの時間は終わり。彼も鼻息をあらくし、鼻を伸ばしちゃって大いに満足したみたいだから、もうこれぐらいでいいよね?
「あ、友達が来たみたい。本当にありがとうございました。私、いきますね」
こちらへ駆け寄ってきたありさちゃんに手を振り、松葉杖をつきながら近寄っていった。
この芝居をうった彼、私が彼の名前を尋ねようとしなかったことに気づいたかな?
それとも、今の出来事で、私が彼に一目ぼれしただろうなんて、舞い上がって、うぬぼれちゃってるのかな?
まあ、そのうちなにかアクションを起こしてくるかもしれないけど、すくなくとも、乱暴な手は今後使ってこないだろうな。
さっき、一瞬、私のことを神宮寺って呼びそうになったところをみると、私をピンポイントで狙ってきたみたいだし、脈がありそうって思っているうちは、手荒な真似して、嫌われたりしないように気をつけるだろう。
はぁ~ 男って、ホント、面倒くさい!
後々のことを考えて、事前に手を打って置かないといけないなんて・・・・・・
ともかく、しばらくは、あなたの幸せな夢に浸って、私を困らせるようなことはしでかさないでね。
私たち、その後、裏門まで歩いって、迎えに来てくれていたパパの車で家へ帰った。途中、ずっと私たちの車の後ろをついてくる車があったような気がするんだけど・・・・・・
ちょっと心配。