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伝統を守る! 4

 その後、梅田前会長が取り仕切って、その場を収めてくれた。

『お静かにお願いします』『順番に整列して、受付をお済ましねがいます』『当校生徒へ向けての写真撮影はご遠慮もうしあげます』『ソコ! 撮るなって言ってんだろが、このボケ!』

 さっきとは違って、男たち、すっかり毒気を抜かれたみたいな表情で、私たちの指示に素直に従ってくれていた。もうこうなったら、大人しいものだ。

 あとは熊坂さん(妹)や委員長たちだけで十分対処できる。私たちは、もう一度、生徒会室へもどっていった。

「・・・・・・」

 熊坂会長はさっきから、むっつりと黙ったままだった。額の血管を浮き上がらせ、顔を真っ赤にして・・・・・・

 私は、慣れない松葉杖をついて、生徒会室と校門を往復したので、グッタリ座りこんでいる・・・・・・

 ただ一人、元気なようすの梅田前会長は、離れたところで座り、頬杖をついて、そんな私たちを面白そうに眺めていた。

 やがて、梅田前会長。

「ねぇ、神宮寺さん? その足どうしたの?」

「え? あ、はい、昨日、裏山から降りる途中で、足を踏み外しちゃって・・・・・・」

「捻挫?」

「そうです。お医者さんは、10日間ぐらいで治るだろうって」

「そう、お大事にね」

「はい」

「しかし、あなたすごいわね。さっきのあれ」

「え? な、なんですか・・・・・・」

「あのポーズひとつで、さっきの集団を大人しくさせちゃって」

「そ、そうですかぁ?」

 ちょっと分かっていないかのようなフリ。天然ぶりっ子つかさちゃん出現。ここで、彼女が指摘しているポーズとは、何のことか分かっているかのように振舞うと、いやらしくなっちゃう。嘘でも、ぶりっ子して見せなくちゃ。

「あんなの初めてみたよ。すごいなぁ、神宮寺さん!」

「えっ、えっ、えっ!! ええっ~~!」

 我ながら、かなりわざとらしい。照れたように、髪を掻いたり・・・・・・

 そんな私の態度をどうみたのか、梅田前会長、にこりと微笑みかけてくれた。

「ほんと、すごいわ・・・・・・」


「瞳、いつまで隅でふてくされてるの!」

 梅田前会長、私に微笑みかけた後、今度は一転して厳しい顔。去年までの生徒会長の顔って、こうだったのだろうな。

「なに気に入らないか知らないけど、いい加減にしなさい!」

「・・・・・・」

「いい、あんなのだれにだってあることよ。気にしないの!」

 一転、あやすかのような口調。

「なんていったって、私たちは女の子なんだし、あんな風にいきり立っている男たちを黙らせる、大人しくさせるなんて、土台ムリな話なのよ。それだけの腕力がないし、迫力ある大声も出せないんだから・・・・・・」

「・・・・・・」

「だから、私たちは、ああいう場合、だれか頼りになりそうな男を呼んでくるしかないの! それがムリなら、鍋でも叩いて、注意をひきつけるしかないのよ」

 熊坂会長さらにきつく唇をかんじゃった。あの場面で無力だったのが、よっぽど悔しかったんだねぇ。

「でも、あそこで登場してくれた男の子、天の助けだったと思うわ。頼りになったし、適切な行動をとってくれたわ」

 あらら、これって、わざとかな? なんか、神宮寺の今野生徒会長をほめて、追い討ちをかけちゃってるよ・・・・・・

「ああいう男の子がでてきて、自分から率先して、手助けしてくれるって言うのは、瞳に人望があるからなのよ。そうでなければ、だれがあんな場面で手助けなんてしてくれるもんですか。世の中の人たちは、自分に関係のないことなら、みんな遠巻きにして、面白がって観ているばっかりなのよ。瞳、もっと自分に自信を持ちなさい。もっとしゃんとしなさい!」

「・・・・・・」

「アンタは、立派にやったのよ。大丈夫。あれでよかったの。瞳は正しいことをしたの。私がそういうのだから、間違いないの。大丈夫、私を信じなさい!」

 どんと芝居がかって、自分の胸をたたいた。たしかに、頼もしい大きさの大人の胸・・・・・・

「・・・・・・でも、私はあの時、何もできなかった・・・・・・」

 熊坂会長、涙声だよ。いつものいやらしいほど自信満々な様子の影も形もない。

 悄然としちゃって、目の端に涙を浮かべちゃって・・・・・・

「私、なんにもできなかった。早く混乱を収めなきゃ、みんなを落ち着かせなきゃって思って、焦って、焦って、焦って・・・・・・ それでも、何もできなかった・・・・・・」

「そりゃ、仕方ないよ。私たちは非力な女の子なんだから・・・・・・」

「でも、でも、だからって、アイツは、今野は、たった一言叫んだだけで、できたんだよ! なんで、なんで、アイツにできて、私にできないの! アイツは、おバカ神宮寺の人間で、私はさく女の生徒会長なのよ!」

「だ・か・ら、女の私たちには、最初からムリなの! あの男の子は女じゃなかったから、あんなことができたの!」

「なんで、なんで、あのおバカが、私たちにできないことできるのよ! さく女の方が、頭のできも人間のできも完全に上なんだから! 絶対、おかしい! ありえない!」

 梅田前会長、思わずため息ひとつ。

「はぁ~ ちょっと人より勉強ができるからって、なんでもできるような気になっているのは、よいことではないわ」

「な、なんで、あそこでアイツなのよ! よりによって、なんでアイツの力を借りなきゃいけないのよ! さく女の伝統は、この私が守るってきめたのに、なんで、なんで、神宮寺に助けられなきゃいけないのよ! しかも、観桜会っていうさく女の今年最初のイベントで!」



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