伝統を守る! 2
ほどなく、開門時間がやってきた。
やがてグラウンドの体育会の屋台から、客引きの声が遠く聞こえてきた。
二日目の今日も、盛況みたい。
お茶も飲み終え、脚の疲れもだいぶ取れてきたので、そろそろ帰ろうと立ち上がったとき、ドアを軽くノックする人がいた。
「はい、どうぞ」
「おす! 瞳、元気か?」
背の高い、髪の長い年上の女性。大学生かな?
会長、目を大きく開いて、信じられないっていうように、入ってきた人を見てる。
「か、会長!」
熊坂会長が、会長と呼びかけるってことは・・・・・・
そう、熊坂会長の前任者、去年の生徒会長、ってことは、さくらヶ丘女子高校の最後の正統な生徒会長・梅田美樹だった。
「今年は、すごく人出が多いな!」
「は、はい。昨日も今日も快晴だったので・・・・・・」
「それだけじゃ、ないみたいだけど・・・・・・」
梅田前会長の視線が、戸口の近くで立っている私に向いた。
「あ、彼女、今年の新入生の神宮寺さんです」
「神宮寺つかさです。よろしくお願いします」
「ああ、よろしく。梅田です」
私を値踏みするように、じろじろ見ている。ちょっと居心地が悪い。
「昨日、あなた受付をしてた?」
「え? あっ、はい。午前中だけ」
私の答えを聞いて、ひとり納得の様子の梅田前会長。
なんなのだろう? なに、一人で合点がいったって感じで、含み笑いをしているのだろう?
「なあ、瞳? 今日の観桜会、ゲストの間で流れてる噂って知ってるか?」
えっと? ん? 噂ってナニ? どんな噂だろう?
「受付の女の子の中に、昨日は、とてつもない美人がいたんだってさ」
そういって、自分の携帯を開いて、メールを見せてくれた。
「昨日来た写メ。ほら」
その写メに写っていたのは・・・・・・
「え!? 私!」
「そ、この写メ、昨日来た連中から、広まってさ、今、美人の噂でもちきりみたいだったゾ!」
「・・・・・・」
「近所の男どもだけでなく、卒業生の知り合いとか、今日はみんな、この写メみて、美人目当てに大勢来てるみたいだ」
えっと・・・・・・
「今のうちに、手を打っておかないとさ、危ないかもよ」
そこへ転がり込むようにして飛び込んできたのは、受付にいるはずの熊坂さん(妹)。
「おねえちゃん、大変! 今、受付のところで、ゲストさんたち、騒ぎ出して、大混乱だよ! 昨日の写メの美人を出せって!」
「・・・・・・」
そういえば、遠くで、『出せ! 出せ!』の大合唱がきこえる・・・・・・
「ったく! 今年は、いったいなんだっての!」