伝統を守る! 1
次の日の日曜日、朝早く、私、パパに車で送ってもらって、学校へ。
今日、学校へ出ても、こんな足じゃ受付なんてできないし、役に立たないけど、とりあえず、挨拶程度に、生徒会室へ顔を出しておいた方いいだろう。
昨日、私が怪我した姿を直接見たのは、委員長と熊坂さん(妹)、それに佐野君ぐらい。あとは、ほとんど私のことを知らない人ばかり・・・・・・
直接、会長が私の怪我した姿を見たわけでないから、いくら携帯に連絡しておいたといっても、私の怪我がどの程度のものかまでは、きちんと分かっていないはず。
もしかしたら、私が今日ズル休みをするために、大げさに騒いでいるなんて、考えているかも。それは考え過ぎだって、もちろん分かってる。でも、そういう誤解を発端に、悪感情が醸成され、大きく育ち、私を嫌うようになって・・・・・・
どぶ川に浮かぶ私の服、血だらけの足、鈍く光る画鋲の針先・・・・・・
ブルッ・・・・・・
ママやパパは止めたけど、やっぱり会長と直接会っておかなくちゃ!
私、まだ、開門前の静かな校舎の中を、松葉杖をつきながら、生徒会室へと歩いていった。
「おはようございます」
生徒会室のドアをノックして、開ける。
中にいたのは、会長と大崎先輩だけ。後の生徒たちは、もうそれぞれの持ち場へ出払っていった後みたい。
会長と大崎先輩、書類をのぞき込んで、なにか話し合っていたけど、私が中へ入ると、顔を上げて、びっくりしたような表情。そして、心配そうな声音で、
「おう! 神宮寺、足大丈夫か?」
「はい、なんとか・・・・・・ でも、まだ、ちょっと痛みますけど・・・・・・」
ちらりと、私のグルグルに包帯が巻かれた足元を確認。
「ムリするな! 今日は、ゆっくり休んでろよ」
「はい、ありがとうございます」
「その足じゃ、受付はムリだろうし、今日は光を代わりに受付へ行かせたから、こっちは気にしなくてもいいぞ!」
要するに、そんな足じゃ役に立たないから、とっとと帰って休めって言いたいんだろうなぁ~
「は、はぁ~」
でも、こんな風に足を痛めるなんて、まして、松葉杖をついて歩くなんて、生まれてはじめての経験、そんな風に言外に追い出そうとされても、実は疲れてて、一旦休憩しないことには・・・・・・
とりあえず、一番手近にあった椅子に腰を下ろした。
今日は、このまま帰るにしても、体力を回復させてからでなければ・・・・・・
「フゥ~」
私のため息に、ちらりと会長と大崎先輩が、私の方を見る。
まだいたのかって、視線だね。あれは・・・・・・
「でも、松葉杖って、結構疲れるものなんですね?」
「ああ、私も中学時代、体育の授業で怪我したことあって、1週間ほど、松葉杖の生活したことがあったけど、あれは辛かった」
「家から車で送ってもらって、裏門から、ここまで歩いただけで、すごく疲れちゃいました」
「うん、慣れないと大変だよな。大崎、これでいいんじゃないか?」
「はい、じゃ、これで印刷にまわしておきます」
「あい、たのむわ」
そのまま、大崎先輩、部屋をでてどこかへ行っちゃった。
その後姿を見送り、手近にあったポットとお茶のお盆を手繰り寄せ、二つの湯呑みにお茶をいれた。ひとつは、少し苦労しながらも、会長の机の上へ。
「お、サンキュー」
もうひとつは私のために・・・・・・
ずずず・・・・・・
そういえば、昨日の委員長、大きな音を立てて、お茶をすすっちゃって。
クスッ。
「ん? 神宮寺、思い出し笑いか?」
「え? あ、はい。ちょっと、昨日のこと、思い出しちゃって・・・・・・」
「そっか・・・・・・」
そういえば、この人は、会長だというので、ずっとこの生徒会室につめているけど、昨日は、私たちみたいに、あちこち見てまわって、観桜会を楽しんだのかなぁ?
会長として、ここに詰めているばかりで、ちっとも楽しんでいないのじゃ?
律儀というか、職務に忠実というか、そういうのは、よいことなのだろうけど、このイベントはそもそも、みんなでさくらヶ丘名物の満開の八重桜を観て回ろう、花見を楽しもうって企画のはず。
いくら職務とはいえ、この人自身が、ちっとも楽しまない、楽しめないのじゃ、まったく意味がないような気がするのだけど・・・・・・
「会長? 会長は昨日、裏山の桜見てきました?」
「うん? いや、行ってない」
「ええ!? そうなんですかぁ~! 裏山から眺めると、ピンクの雲に乗って、フワフワ浮き上がっているみたいで、すごく素敵なんですよ! それに、演劇部の劇とか結構面白かったし、東屋の美術部や手芸部の作品も、とてもかわいくて、素敵だったんですよ! 会長も、観桜会、終わるまでに、一度観にいかれた方がいいとおもいますよ!」
「ああ、機会があればな・・・・・・」
会長、言葉とは裏腹に、興味がないのか、顔の横で手を払うみたいに振った。
まあ、本人が興味ないみたいだし、強いて、観て来い! なんて、命令するつもりはないけど、でも、なんかなぁ~
それで、本当にいいの?
本当に、満足なの?
「ぜひ、一度、観にいってみてくださいね?」