表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/47

伝統を守る! 1

 次の日の日曜日、朝早く、私、パパに車で送ってもらって、学校へ。

 今日、学校へ出ても、こんな足じゃ受付なんてできないし、役に立たないけど、とりあえず、挨拶程度に、生徒会室へ顔を出しておいた方いいだろう。

 昨日、私が怪我した姿を直接見たのは、委員長と熊坂さん(妹)、それに佐野君ぐらい。あとは、ほとんど私のことを知らない人ばかり・・・・・・

 直接、会長が私の怪我した姿を見たわけでないから、いくら携帯に連絡しておいたといっても、私の怪我がどの程度のものかまでは、きちんと分かっていないはず。

 もしかしたら、私が今日ズル休みをするために、大げさに騒いでいるなんて、考えているかも。それは考え過ぎだって、もちろん分かってる。でも、そういう誤解を発端に、悪感情が醸成され、大きく育ち、私を嫌うようになって・・・・・・

 どぶ川に浮かぶ私の服、血だらけの足、鈍く光る画鋲の針先・・・・・・

 ブルッ・・・・・・

 ママやパパは止めたけど、やっぱり会長と直接会っておかなくちゃ!

 私、まだ、開門前の静かな校舎の中を、松葉杖をつきながら、生徒会室へと歩いていった。

「おはようございます」

 生徒会室のドアをノックして、開ける。

 中にいたのは、会長と大崎先輩だけ。後の生徒たちは、もうそれぞれの持ち場へ出払っていった後みたい。

 会長と大崎先輩、書類をのぞき込んで、なにか話し合っていたけど、私が中へ入ると、顔を上げて、びっくりしたような表情。そして、心配そうな声音で、

「おう! 神宮寺、足大丈夫か?」

「はい、なんとか・・・・・・ でも、まだ、ちょっと痛みますけど・・・・・・」

 ちらりと、私のグルグルに包帯が巻かれた足元を確認。

「ムリするな! 今日は、ゆっくり休んでろよ」

「はい、ありがとうございます」

「その足じゃ、受付はムリだろうし、今日は光を代わりに受付へ行かせたから、こっちは気にしなくてもいいぞ!」

 要するに、そんな足じゃ役に立たないから、とっとと帰って休めって言いたいんだろうなぁ~

「は、はぁ~」

 でも、こんな風に足を痛めるなんて、まして、松葉杖をついて歩くなんて、生まれてはじめての経験、そんな風に言外に追い出そうとされても、実は疲れてて、一旦休憩しないことには・・・・・・

 とりあえず、一番手近にあった椅子に腰を下ろした。

 今日は、このまま帰るにしても、体力を回復させてからでなければ・・・・・・


「フゥ~」

 私のため息に、ちらりと会長と大崎先輩が、私の方を見る。

 まだいたのかって、視線だね。あれは・・・・・・

「でも、松葉杖って、結構疲れるものなんですね?」

「ああ、私も中学時代、体育の授業で怪我したことあって、1週間ほど、松葉杖の生活したことがあったけど、あれは辛かった」

「家から車で送ってもらって、裏門から、ここまで歩いただけで、すごく疲れちゃいました」

「うん、慣れないと大変だよな。大崎、これでいいんじゃないか?」

「はい、じゃ、これで印刷にまわしておきます」

「あい、たのむわ」

 そのまま、大崎先輩、部屋をでてどこかへ行っちゃった。

 その後姿を見送り、手近にあったポットとお茶のお盆を手繰り寄せ、二つの湯呑みにお茶をいれた。ひとつは、少し苦労しながらも、会長の机の上へ。

「お、サンキュー」

 もうひとつは私のために・・・・・・

 ずずず・・・・・・

 そういえば、昨日の委員長、大きな音を立てて、お茶をすすっちゃって。

 クスッ。

「ん? 神宮寺、思い出し笑いか?」

「え? あ、はい。ちょっと、昨日のこと、思い出しちゃって・・・・・・」

「そっか・・・・・・」

 そういえば、この人は、会長だというので、ずっとこの生徒会室につめているけど、昨日は、私たちみたいに、あちこち見てまわって、観桜会を楽しんだのかなぁ?

 会長として、ここに詰めているばかりで、ちっとも楽しんでいないのじゃ?

 律儀というか、職務に忠実というか、そういうのは、よいことなのだろうけど、このイベントはそもそも、みんなでさくらヶ丘名物の満開の八重桜を観て回ろう、花見を楽しもうって企画のはず。

 いくら職務とはいえ、この人自身が、ちっとも楽しまない、楽しめないのじゃ、まったく意味がないような気がするのだけど・・・・・・

「会長? 会長は昨日、裏山の桜見てきました?」

「うん? いや、行ってない」

「ええ!? そうなんですかぁ~! 裏山から眺めると、ピンクの雲に乗って、フワフワ浮き上がっているみたいで、すごく素敵なんですよ! それに、演劇部の劇とか結構面白かったし、東屋の美術部や手芸部の作品も、とてもかわいくて、素敵だったんですよ! 会長も、観桜会、終わるまでに、一度観にいかれた方がいいとおもいますよ!」

「ああ、機会があればな・・・・・・」

 会長、言葉とは裏腹に、興味がないのか、顔の横で手を払うみたいに振った。

 まあ、本人が興味ないみたいだし、強いて、観て来い! なんて、命令するつもりはないけど、でも、なんかなぁ~

 それで、本当にいいの?

 本当に、満足なの?

「ぜひ、一度、観にいってみてくださいね?」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ