桜色の雲に浮かんで・・・・・・ 5
その女性が消えてから、会長、舌打ちを連続3回。
「ったく! なんだってんだ! これで朝から4人目だぞ!」
ぐおぉぉぉ~~~
なんて、吠えてるし。
「受付の女の子紹介しろ! 受付の女の子紹介しろ! って、そんなのできるわけねぇっていうの!」
すごい目で、私をにらんでくれるし・・・・・・
やっぱり、そういうことなのね。
私、小さくぺこりと、頭を下げた。
だぁ~~~!!
会長の咆哮で、新館のガラスまで震えたという・・・・・・
ったく!
会長さっきから何度も何度も、舌打ちを繰り返していた。
「ほら、ひかり、おかわり!」
会長、弁当をがっつきながら、熊坂さん(妹)に空になったお茶碗を押し付ける。
「はーい」
なんて、かわいい声で返事をして、茶碗にお茶を注いで、
「はい、お姉ちゃん、どうぞ」
「おっ、サンキュー、あちっ」
茶碗を見もせずに受け取った会長、私たちが持ち帰った署名用紙の束を眺めながら、ブツブツつぶやいていた。
「だいたい、午前中で、約400人ほどか。さすがに晴れてると違うな。去年は、初日、お昼になった段階で150人いくかどうかだったし・・・・・・」
去年は、くもりで、寒さがぶり返していた中での開催だったらしい。
今年は、盛況なので、会長の口調もうれしげ。
「この調子だと、初日だけで、1000人越えるかな? うんうん、今年は、大成功だな。昨日、アイツを作った甲斐があったってもんだ」
生徒会室からグランド側の窓を見ると、最初に目に飛び込んでくるのが、そのアイツ。超デカデカてるてる坊主。
「晴れのお天気、万々歳だわ」
上機嫌に弁当の塩ジャケにかぶりつきつつ、鼻歌が飛び出したり・・・・・・
部屋の隅では、私たち、お弁当を食べ終わり、熊坂さん(妹)が入れてくれたお茶をすすって、のんびりまったり。
まだ署名用紙を整理して、パソコンで名簿を作成するって仕事が残っているけど、とりあえずは休憩。英気を養って、次のもっと地味で、根気のいる作業に取り組まなくちゃね。決して、面倒なことをこのままズルズル引き伸ばそうなんて、思っているわけでは・・・・・・
ヘンな誤解しないでね。
あくまでも、受付に立っていた疲れをとるために、ダラダラしているだけだよ。決して、怠けているわけではないんだよ!
本当だよ!
私たち、のんびりとくつろぎながら、今日あった出来事をおしゃべりしあう。
「あっ、ねぇ~ 委員長。今日は島崎君のお母さん来てたね」
「う、うん。そうみたいだねぇ~」
「なんかすごく上品で、素敵な人だったねぇ」
「そうだったねぇ~ あの桜の花びらのブローチすごくかわいかった」
「え? ブローチなんてつけてた?」
「うん、つけてたよ。それに、バッグもブランド物だったし」
「えぇ~ 委員長よくみてたねぇ 私、緊張してて、そこまでこまかく観察している余裕なかったわ」
てへって舌だし。
「私、あの人が署名してくれるまで、全然、島崎君のお母さんなんて、気がつかなかったなぁ。全然似てないし、雰囲気とか、しゃべり方とか、全然違うんだもんねぇ」
って、委員長、耳まで赤くなっちゃった。あれ? なにか、委員長を恥ずかしがらせるようなこと言ったっけ?
「そ、そうね・・・・・・・」
「そういえば、島崎君って、祐一っていうんだねぇ」
「うん・・・・・・」
あ、そうか、あの時、あの人が祐一って口にしたとたんに、委員長固まっていたんだっけ。ということは、その一言で、委員長は気がついていたんだね。
「あの島崎君だから、てっきり、翼とかいう名前なんだろうなって思ってた。それが、祐一だなんて・・・・・・」
これ見よがしに肩をすくめ、はぁ~と息を吐く。
委員長の頬から、自然と笑みがこぼれた。
私も、同じ笑みを返す。
くふふ。
うふふふふ。
とうとう、二人とも楽しげに笑い声をあげた。
「ねっ、さっきの人、すごく感じの悪い人だったね」
「えっ? そ、そうかな・・・・・・?」
「そうだよ・・・・・・ だって、押し付けがましいっていうか、相手の迷惑なんて、どうでもいいって感じ・・・・・・」
「ふむふむ」
「それに、お子さんがつかさちゃんに一目ぼれしたからって、なんで、母親のあの人がでしゃばってくる必要があるのかしら?」
「まあ、たしかに・・・・・・」
「人を好きになるのって、本人の問題だし、親がでしゃばるなんて、ヘンなの!」
あれ? 委員長が、他の人を悪く言うのって、はじめてみた。いつも、クラスのみんなのフォローに回って、声を荒げるなんてことしないのに・・・・・・
そういえば、島崎君のお母さんも、私のこと、ありさちゃんと間違ってたし。あれも、本人の恋愛に母親がでしゃばってきたのと一緒じゃないのかな?
もし、あの場にいたのがありさちゃんだったなら、彼女どうしていたのだろう?
『うちの祐一があなたのことを気に入ってるみたいなの。これからも、祐一のことよろしくね』とかなんとか、言い出していたのかな?
さっきは、すごく感じのいい人って気がしてたけど、それってやっぱり、ヤだな。ヤな感じ。
男の子の母親って、息子に好きな人ができると、どんな気分になるのだろう?
素直に、子供の恋愛を応援しようって気分になるのかな? それとも、大切な自分の子供をよその女にとられちゃうって、嫉妬しちゃのかな?
学君のお母さんは、今どんな気分なんだろう?
やっぱり、ありさちゃんの出現、よろこんでるのかな? それとも、怒ってるのかな?
あの学君に甘いおばさん、今、どんな風になってるのだろう? 今度、久しぶりに会いにいってみようかしら・・・・・・・・
でも、今は、こんなこと考えても無駄ね。私は、男の子のお母さんじゃないのだし。
この問題、私には、まだ答えが見つからないし、まだまだ、見つかりそうもない。でも、今はまだ、分からないことだらけだけど、いつか、私にも関わってくることだよね。いつか私にも、ちゃんと彼氏ができて、その彼のお母様と・・・・・・
清貴さんのお母さんの三木先生と・・・・・・
きっといつかは・・・・・・