桜色の雲に浮かんで・・・・・・ 4
ようやく、私たちが休憩を取ることができたのは、正午すぎになってから。
私たち午前の担当組は、午後担当の人たちに引き継ぎを済ませ、午前中の来場者の署名用紙を抱え、寄付金などを携えて、生徒会室へともどっていった。
生徒会室で、昼食のお弁当をとり、着替えを済ませ、書類の整理を済ませれば、今日はもうお役御免。後は自由時間。
私たち疲れて脚を引きずるようにして、生徒会室までやってきた。
おしゃべりするだけの気力も湧かない。午前組の全員が、ぐーぐーお腹を鳴らしている。美少女戦士つかさちゃんとしては、だれにも見られたくない姿、聞かれたくないお腹の虫だけど、そんなことも気にしていられない・・・・・・
私、力なく、生徒会室のドアを開く。
すると、目の前に、作り笑いを浮かべ、だれかと話しをしている会長の姿が目に入った。
その誰かは、私たちに背を向けて、椅子に座っている。
女性だった。50代ぐらいの押し付けがましい声音の女性。
「そうなのよ。さっき、うちの子が慌てて家に帰ってきてね。今日、こちらでお見かけした方に一目ぼれしたって言うのですよ」
会長の視線が、入り口の私たちをとらえる。
「あ、ご苦労様。あっちにお弁当用意してあるから」
その声につられ、会長と話している女性も振り返り、私たちをよく見もせず、気のない会釈。
ぺこりとお辞儀をして、会長の邪魔にならないように、そそくさと部屋の隅へ私たち移動した。
部屋の隅では、熊坂さん(妹) が一人一人にお弁当を配ってくれる。でも、私のときに、なにか目配せをしてくれたような・・・・・・
「でね。なんでも、受付のところいたお嬢さん、すごい美人で、一目で気にいったのですって。もうあの子ったら、興奮しちゃって。ボク、絶対あの娘をお嫁さんにするんだって、そりゃもう張り切っちゃって」
「は、はぁ~」
ちらりと、会長、私の方を見たような。
「私も、さっきこちらへうかがうときに、受付でちらりとお見かけしましたけど、確かに、うちの子がいうように、上品で感じのいいお嬢さんじゃございませんか。私もピンと来ましたわ。うちのお嫁に来ていただくのは、彼女しかいないって。私の勘ってよく当たるのですのよ。だから、間違いなく、あのお嬢さん、私どもへ将来お嫁にこられるのは、間違いありませんわ」
「は、はぁ~ で、私どもに、どのようなご用件で、おいでになられたのでしょうか?」
会長、顔が引きつっているよ・・・・・・
私たちは、かわいらしく『いただきます』をして、お弁当を食べ始めた。
「あ、そうそう、そうだったわね。私ども、ちょっとお願いありまして。あの受付のお嬢さんをご紹介いただけないかしら? できれば、明日にでも、私どもの方へご招待申し上げたいところなのですけど」
「は、はぁ~」
「まあ、明日もこちらで観桜会ですか、イベントをやってらっしゃるようなので、ムリにとは申しませんが、ぜひ、ご都合がよろしいときにでも、我が家へ遊びに来ていただけるように、あなたの方から、お話を通していただけると、ありがたいのですわ」
会長、困って、鼻の頭をポリポリ掻いてるし・・・・・・
「ちょっと申し上げにくいのですが、その、親御様からお預かりしている私どもの生徒のことですので、よそ様にこちらの勝手でご紹介したり、どこそこへお伺いしろ! だなんて、命令するわけにはいかないんです。それで、もし万が一の間違いでも起こったら、私どもでは責任を負いかねますので。一応、本人やご家族には、そのようなお話しがあったこと、伝えてはおきますが、その、私どもとしては、それ以上の対処は取りようがないことを、ご理解いただけるとありがたいのですが・・・・・・」
すこし、考えるかのような間があって・・・・・・
「うん、まあそうね。では、えっと、熊坂さん、この件、あの受付のお嬢さんにはくれぐれもよろしくお伝えくださいね」
「は、はい」
会長、ちょっぴりほっとしたような表情だ。面倒なことから解放されて、心から、喜んでいるって、風情。
「いそがしいのに、ながながとお引止めして、もうしわけなかったですわね」
「いえいえ、お気になさらずに」
「では、失礼いたします」
そういって、その女性深々とお辞儀し、部屋を出て行ったみたい。ちょうどそのとき、熊坂さん(妹)が私の前に立って、お茶を淹れていてくれたから、その女性が出て行く様子は見えなかったけど。