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お花見しましょ? 8

 午後の授業も終わり、帰りのホームルームも終了。

 いつものように、何人かの男子、女子を振って、生徒会室へ向かった。

 ったく! ほんと、面倒くさいんだから!

 ヤになっちゃう!

 いつものように、生徒会室へ入ると会長にじろりとにらまれちゃったけど、もう、みんななんで私が毎日遅れるか知っているので、なんにも言わない。何人かの女生徒たちに、お疲れ様なんて、声をかけられ、部屋の隅、入り口から死角になる場所で、ジャージに着替えた。

 今日はいよいよ観桜会前日。会場の準備をする日。

 でも、カーテンで外からは見えないようにしてはあるのだけど、なんか私、部屋の中からじっとりと見られているような・・・・・・

 部屋の中にいるのは、全員が女生徒。男子生徒はひとりもいないはずなのだけど、何人かのねっとりと絡みつくような、舐めるような視線を感じる。

 ちょっと身震い。ヤな感じ。

 ともかく、さっさと着替えて、ださださジャージ姿の美少女完成。

 カバンの中から、愛用の手鏡を取り出して、格好を確認。

 う~ん。こんなだっさい格好をしていても、私ってきれい!

 それどころか、部屋の中の少女たちもみんな同じジャージ姿だから、私の美貌だけが引き立って見えてしまうわ。困ったわ、どうしましょ。うふ。

 やっぱり、モノが違うだけに、同じ格好になっちゃうと、違いが際立ってしまって・・・・・・現実って、残酷よね。別に、私がいけないわけじゃないのよ。ただただ、神様に愛されて生まれた私の運命がそうさせるだけなの。ホント、私って、罪な女。

 いやぁ~ん。

 なんて、頬を押さえて、クネクネ腰を振ったりして。

 って、なんか、みんな私から離れていっちゃったような。

 そうね、私の美少女オーラが圧倒的で、物理的な力を持って、あなたたちを弾き飛ばしてしまったのね。

 パフンッ。

 そんな間抜けな音をたてて、会長が手元の書類の束で私を殴ったのは、この後だった。

「なに、神宮寺、もだえてんだよ! 支度終わったんなら、さっさと、作業開始!」

「ほへっ? は、はぁ~~い」

 私、慌てて、今日のそれぞれの持ち場へ散っていくみんなを追いかけた。


 私の担当は、受付の設営。

 長机を学校の倉庫から出してきて、校門の近くに並べる。そして、『受付』などと書かれた紙を机の前に貼り付ける。

 非力で、可憐な女の子の私。何人か仲間がいるにしても、この作業だけでも、最初の見積もりでは一時間以上かかる計算だった。だけど・・・・・・

 私が玄関の外へ出た途端、グラウンドで部活動中の男子たち、帰宅部の生徒たち、みんな私のそばへ集まってきてくれて、手伝ってくれ、あっという間に受付の設営完了。

 私、ほとんど働かなくて済んでしまった。

 ぐふふ。コレだから、美少女ってやめられないかも。

 その後も、私の即席ファンクラブ部隊が、私の指揮のもと、あちこちで活躍して、今日夕方までかかる予定だったすべての準備作業、ものの半時間ほどで終了。ホント、私って、すごいかも。あ、いや、私の美女度ってとてつもなく、すごいのかも。知ってはいたけど、あらためて感心しちゃう。

 う~ん、とりあえず、手伝ってくれたみんなに、お礼を言っておかなくちゃね。

 みんなでゾロゾロ、校門横へ移動して、私、手近かにあった椅子に飛び乗って、みんなを見回して。

「みんな、今日は私たちのために手伝ってくれてありがとう」

 ここで、必殺エンジェルスマイル。

 うおぉぉ~~~!

 なんて地鳴りみたいな騒音の中、あちこちから。

「つ・か・さ! つ・か・さ!」

 の声。なんだか、私、アイドルにでもなったみたい。みんな本当にありがとうね!

 アイドルなら、やっぱりここは、なにか一曲歌わないと、目の前のファンたちは満足しないはずだわ。そう、私はこの学園のアイドル。ファンたちに、愛と幸せを運ぶ、エンジェルつかさちゃん!

 いつの間にか、手元に握られていたマイク、そして、どこからか聞こえる伴奏の音(吹奏楽部が練習していた)。

 さっきまで、ざわざわしていた男子たち、急に静かになって、期待のこもった目を向け、私が歌いだすのを待っている。

 大きく息を吸い込んで、とびっきりの美声を出す準備をして・・・・・・

 そして、その瞬間、どこからともなく、飛んできた木の枝が私の顔を直撃した。

「ぐへっ!」

 だ、だれがこんなことを・・・・・・

 私はそのまま失神してしまった。だれか、私の暗殺を企てているものがいるのかしら。

 そうね、この美貌だもの、嫉妬するひとは多いのかも知れないわね。

 でも、一瞬、ちらっと見えた、投げてきた人の背中、なんだか学君に似ていたような気もするのだけど・・・・・・

 きっと、気のせいだよね?


 私が保健室に担ぎこまれた後も、各クラブの部員たちの手で、明日の観桜会の準備、着々と進められていた。

 さくらヶ丘歴史伝統研究会の主催で行われるこのイベント。前にも書いたとおり、私たち旧さくらヶ丘女子生徒会だけが参加するのではなく、旧さくらヶ丘女子高校にあった各クラブも参加する。

 まず、茶道部が裏山の頂上付近で、野点をたて、訪問客へ無料でお茶をふるまってくれる予定だし、中腹の東屋では、美術部や手芸部の作品が飾られることになっている。裏山の入り口脇、管理棟からは、吹奏楽部・軽音楽部がこの日のために練習してきた琴や横笛なんかを演奏して、上品な花見の気分を盛り上げてくれるのだとか。

 また、裏山の途中にある池の周辺では、文芸部による自作詩・俳句・短歌の朗読会が開かれ、時間帯によって、あちこちを舞台に演劇部の野外劇が繰り広げられる。

 学校の敷地内では、裏庭にしつらえた舞台上で合唱部や吹奏楽部、軽音楽部などなどのコンサートが行われ、体育会系のクラブを中心に、グラウンドで屋台の出店もある。

 こんな感じで、一部で多少の例外はあるけど、概ね野外で行われるのが、この観桜会の特徴だ。


 で、肝心のこの会の主役・桜。

 ソメイヨシノは、さすがに私たちの入学式のころまでに、とうに散ってしまっているけど、今、裏山で満開を迎えているのは、八重桜。ぼってりとした感じの大ぶりの花が鈴なりに咲いて、まるで、木の枝をピンクの真綿で包んだみたいに見える。

 その八重桜が裏山一面に咲いていて、遠くから見ると、ピンクの雲がたなびいているかのよう・・・・・

すごく幻想的で、きれい。

 一歩、裏山に足を踏み入れると、やさしいピンクの雲の中に浮かんでいるかのようなフワフワとした気分が味わえるんだよねぇ。

 だから、さく女のOGや招待のチラシが配られる近所の人たちみんな、この観桜会を心待ちにしているのだとか。

 今年もあの幻想的で美しい世界を堪能できるって。ピンクの雲につつまれるって。

 でも、そこへ、今回の世界金融危機。

 あっけなく、さく女が神宮寺高校へ吸収合併。OGや近所から、一時期、急な合併に反対する署名活動が行われかけたのだとか・・・・・・

 その懐柔策として、神宮寺高校側が用意した策が例年通り観桜会の開催を認めるってこと。

 旧さく女生徒会を中心に観桜会開くっていうのは、神宮寺高校側にとっても、渡りに船の提案だったみたい。

 まあ、大人の世界にいろいろあるにせよ、明日からの観桜会。十分に楽しみたいね。私たちとしては!



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