お花見しましょ? 5
って、今、心の中で褒めてあげていたところだったのに・・・・・・
「なんで、あんた、またそこにいるのよ!」
私、思わずこけてしまいそうになった。
いつものバス停の影、いつものように隠れている影二つ、そして、このところ恒例になっている言い争う声・・・・・・
ったく! はぁ~
「もう、つかさちゃんに見つかったじゃない! アンタのせいだからね!」
「はぁ? なんで、オレのせいだよ。大体、こんなところに隠れて、なにしてんだよ!」
「そんなこと、アンタには関係ないでしょ!」
「どうせ、また、つかさにヘンなことでもしようっていうんだろう? これだから、ヘンタイ女ってやつは・・・・・・」
って、アンタも、つい最近まで、そのヘンタイ行為を私にしていたくせに!
「はいはい、二人とも、ヤメ! 喧嘩はそこまで、ストップ!」
はぁ~ 毎朝毎朝、なんで私が仲裁に入らなきゃいけないのよ。
「つかさちゃーん、このストーカー野郎、私のこと、ヘンタイ女って言った。信じらんない! こんな可憐な美少女を捕まえて、ヘンタイだなんて。きっと、コイツ、私たちの純粋で清純な愛にやきもちを焼いているんだわ。こんなストーカー男の醜い嫉妬になんか、私たち負けない! ね、つかさちゃん、いつまでもお互いへのひたむきな愛を大事にしていこうね」
熊坂さん、私の手を胸にしっかりと抱いて、悲劇のヒロインよろしく、あさっての方へ叫んでいるし・・・・・・
はぁ~
って、こらそこ、私を置いて、二人で並んで勝手に先に行くな!
助けてよ! 学君、ありさちゃん!
そう、学君とありさちゃん、二人で笑みを交わし、あきれたように肩をすくめると、とっとと並んで坂道を上っていった。
「ふっ、ようやく、あのストーカー男にも、私たちの愛の尊さが分かったみたいね」
私の隣で勝利のピースをして仁王立ちしている女生徒がひとり・・・・・・
そんな私たちを登校中のほかの生徒たちは、遠巻きにして通り過ぎていった。
こ、この人は、私の友達なんかじゃありません! 私、このひととは、まったく無関係なんです!
そんな悲痛な私の心の叫びに、耳を傾けてくれる人はだれもいなかった。
「ねぇ、つかさちゃん?」
「え、なに?」
「あの二人、いつからあんなに仲良くなっちゃったの? こないだまでは、お互い避けあっていたみたいだったのに・・・・・・?」
先を歩く、ありさちゃんと学君の後を、熊坂さんと私ついて歩く。私としては、右腕をとられて、歩きにくいのだけど、全然放してくれる気はないみたい。
「あの二人って、付き合ってるの?」
「ん? まだ、そこまではいってないとは思うけど」
「ふ~ん・・・・・・ でも、なんか、さっきから二人とも全然何もしゃべらないね」
「うん。そうだねぇ~」
「じゃ、まだ、そんなに進んでないんだね。結構、お似合いなのに。ね、つかさちゃん?」
「え、ええ、そうね」
確かに、こうして、あらためてみると、この二人って結構お似合いのカップルなのかも。二人とも、私には劣るけど、美男と美女だし。それなりに、品があって、武道の達人としてのたたずまいにはさすがってものがあるし・・・・・・
「この二人がくっついてくれたら、私たち毎日こうして一緒にいられるのよね?」
ゾクッと寒気が背中を走った。
「よし、私がんばって、応援してあげよ」
な、なにかとんでもないことを口走ってくれたぞ、この娘。
でも、まあ、私もこの二人を応援するのは、大賛成だけど。
熊坂さんが右腕を放してくれたのは、玄関に入ってからだった。
大きくバイバイって手を振って、D組女子の下駄箱コーナーへ駆けていく。
入れ違いに、飛び込んできたのは島崎君だった。
「斉藤、ちょっといい?」
下駄箱の前で、上履きに履き替えているありさちゃんに声をかけた。
しかし、島崎君、しつこいというか、根性があるっていうか・・・・・・
ありさちゃんに相手にされなくても、相手にされなくて、毎朝毎朝、映画へ誘いにくるなんてねぇ~
でも、島崎君、もうそろそろ気づきなよ。ありさちゃん、島崎君のこと眼中にもないし、興味もないよ。それよりも、向こうの柱の影で、君の事、ジッと見ている女の子のこと、そろそろ気づいてあげなよ。
そして、今日も島崎君玉砕。
ありさちゃん、後ろも見ずにとっとと教室の方へ向かって行っちゃった。
島崎君、しょんぼりしちゃって・・・・・・
思わず、私、島崎君に声をかけてしまった。余計なおせっかいのような気が、すごくしたんだけどねぇ。
「ねぇ? 島崎君」
「え? あ、ああ、神宮寺さん、おはよう」
精一杯の笑顔で私に振り返る。でも、いまにも顔が泣きそうに引きつっているし・・・・・・
「おはよう。ねぇ、島崎君? ありさちゃんって、今、付き合っている人がいるって、知ってた?」
正確には、まだ付き合ってもいないし、恋心を抱いているかどうかすら、自分では理解していないみたいだけど。私はそうなってほしいし、なってもらわないと困るというか・・・・・・
ともかく、こういうとき、こういう男にはストレートに言ってあげる方がいい。頭に血が上って、なにも見えていないだろうから。
「えっ・・・・・・」
「だから、たぶん、ムダだと思うよ。島崎君がいくらがんばっても」
島崎君の顔から血の気が・・・・・・
「あきらめな。すっぱり男らしく。ありさちゃんが本当に好きなら、彼女が幸せにいられるように、彼女の幸せを邪魔しないように、遠くから見守ってあげるのも、男子の格好よさだと思うな、私は」
「・・・・・・」
「相手にされていないなら、きちんとあきらめて、女の子の幸せを遠くから祈てるって男の子の方が、いつまでもしつこく付きまとう男の子よりも、私は好きだなぁ」
実感だ。しみじみ・・・・・・
「・・・・・・」
「じゃ、そういうことでね」
私、そういって、島崎君の背中をドンと押してあげた。島崎君、その反動で一歩よろめいた。今は、ショックでどうしようもないかもしれないけど、この一歩分の歩みから、島崎君が立ち直ってくれることを祈って。