お花見しましょ? 1
次の日、なんだか、いつもより元気のないありさちゃんと桜並木の道を学校へ。
ありさちゃん、すっかりやつれちゃって、やせこけちゃって、今にも死にそうなぐらい顔色が悪い・・・・・・
いつものように、周囲の桜並木を鑑賞することもせず、とぼとぼと二人で、坂道を上る。
そして、いつものように、バス停に影、影・・・・・・
影二つ?
その二人、なんだかちょっと様子が・・・・・
「あっ、ごめんなさい。あなたも誰かを待っていらっしゃるんですか?」
「え? あ、ごめんなさい。ぶつかっちゃいましたね。どこか痛めませんでしたか? えっと、あれ? 一昨日の・・・・・・・」
「全然大丈夫です。ん? どこかでお会いしましたっけ?」
「あ、そっか~ オレはあの時、図書館の陰で隠れてたんだっけ・・・・・・」
「え、えっと、その・・・・・・?」
「俺、A組の神宮寺学です。たしか、えーと、D組の熊坂さんだったっけ?」
「・・・・・・・・」
もうひとつの影、何歩か後ずさりしたりなんかして。
そうだよねぇ~ 隠れて見てたなんて告白されたり、見ず知らずなのに、いきなり自分の名前を呼ばれたりだもの。だれかさんみたいな女でもかなり気味悪いのに、男がそんなことを言ってくるなんて。うんうん、熊坂さん、あなたの気持ち分かるわよ。
「ほら、そこ! なに、朝からやってるのよ?」
学君も、熊坂さんもハッと私たちの方を振り返り、私の背後を見てのけぞった。
「ありさ、ど、どうした?」
「斉藤さん、大丈夫?」
ありさちゃん、そんな二人にも気がない様子で、口の中でもごもごと『おはよう』ってつぶやいて、バス停を通り過ぎる。
ホント、昨日の恐怖の話、よっぽど強烈だったんだねぇ~。
はぁ~ ともかく、今日は、ありさちゃんと一緒にいて、元気付けてあげなくちゃ。それに、昨日、一瞬でも、いつも助けてくれるありさちゃんを、本気で見捨てようかと考えてしまったの、申し訳ない気がするし・・・・・・
慌てて、ありさちゃんを追いかけようとした私を、引き止めた二つの手。
「おい! つかさ、ありさのやつ、どうした? なにかあったのか? もしかして、ついに清貴さんに振られたか?」
「つかさちゃん、なんかコイツ、ヘンだよ! もしかして、ストーカー?」
学君、妙に期待を込めて私を見つめてくれるし、私の背後に隠れながら、熊坂さんそれ以上近づくなとでもいうように、その学君をにらんでる。
「残念ね。まだ振られてないみたいよ」
そして、学君を指差して。
「こいつ、神宮寺学君、私のいとこ。ストーキングしてるけど、狙いはあなたじゃないから安心して」
「そっか・・・・・・ でも、なんで、あいつああなっちまってんだ?」
「え、ええ! こいつやっぱりストーカー!! 気持ちワルー!」
って、アンタも立派に私をストーキングしてんじゃん!
学君が気持悪いのなら、アンタはなんなんだっ!
ともかく、いいたいことはたくさんあるけど、ぐっと飲み込んで・・・・・・
「昨日ね。生徒会室に呼ばれてね・・・・・・」
学君に、昨日の放課後にあったことを洗いざらい話してあげた。
「ひでぇなぁ~ お前の姉ちゃんって、すんげぇ、感じ悪い女だな」
さっきから、ストーカー、ストーカーって何度も言われてたの、少しは傷ついてたのね。学君。
「な、なによ! アンタなんかに、お姉ちゃんの何が分かるっていうのよ!」
「何がさく女の伝統だよ、ったく! ただのエリート主義で、傲慢なだけじゃねぇか!」
「ふん。おバカ神宮寺がなに言ってるの! 脳みその腐ったアンタなんかには、分からないでしょうけど、さく女の方が、はるかに頭いいんだから!」
「はぁ? なにいってんだ、バカかおまえは。神宮寺だろうが、さくらヶ丘だろうが、別にどうだっていいことだろうが? 結局、同じように勉強して、同じように三年間すごすだけなんだしよ! 入ったときの成績がどうこうじゃなくて、卒業したあとが重要なんじゃないのか?」
「ふん、アンタたちおバカが私たちさく女と対等な人間なわけないでしょ! 百万年早いっつうの!」
「なんだと!」「なによ!」
二人がいがみ合っているのをほっといて、私はありさちゃんを追いかけていった。
まあ、学君なら、喧嘩になっても、女の子に暴力をふるったりしないだろうし、ほっといても大丈夫だろう。