名門・さく女生徒会! 3
結局、午後のホームルームが終わるまで、保健室で寝ていた。
ホント、今日はヘンな一日だった。
朝から、ヘンな女の子に付きまとわれ、ヘンな噂を学校中にながされ、頭に血が上ったヘンな男の子に襲われて・・・・・・
保健室のベッドの中で、思い出しちゃった。
私を力づくで押し倒した6年生の男の子。
小学校時代に、私をいじめた男の子たち、女の子たち・・・・・・
ドブ川に浮かぶ、私の服。上履きの中に入っていたかみそりで、血だらけになった私の足。座ろうとする寸前に気がついて、事なきを得た画鋲の針の鋭さ。
ヤな思い出がばかりが、私の脳裏を駆け回る。
闇の中で、もがいていただけの小学校生活・・・・・・
いつしか、私、声を上げずに泣いていた。
だれも、私に気づかない。本当の、本当の私に・・・・・
午後のホームルーム終了のチャイムが鳴り響き、しばらくして、ありさちゃんが保健室にのぞきに来てくれた。
「つかさ、元気? 大丈夫?」
「うん・・・・・・・」
「ごめんね。肝心なときに、一緒にいてあげられなくて」
「ううん。いいの。大丈夫」
「私って、ダメね」
ペコッと自分の頭を叩く。って、ペコッどころか、バコッ!て思わず引いちゃうほど、大きな音立ったんですけど・・・・・・
頭大丈夫?
「ったぁ~~!」
ありさちゃん、頭抱えてしゃがみこんじゃった。自分の頭ぐらい大事にしようねぇ~
でも、そんなありさちゃんの様子、なんだかおかしくて、おかしくて・・・・・・
くふふ
笑い出したのは二人同時だった。ほんと、女友達ってすごくいい。これからもありさちゃんとの友情、大切にしたい。でも、清貴さんは私のものだけど・・・・・・
しばらく、私たち、たわいもないことをおしゃべりしあっていた。昨日のドラマがどうだとか、剣道部の先輩たちの噂話だとか、中学での友達がどこの学校へ進学しただとか・・・・・・
大して、意味はない話だけど、ありさちゃんとこうして、あれこれおしゃべりしあって、笑いあっていると、ヤなことも忘れて、すごく楽しい。
今日一番の楽しい時間が、ゆっくりと流れていった。
――トントン
しばらくして、保健室のドアが控えめにノックされた。
そして、ドアが開き・・・・・・
「神宮寺さん、具合どう?」
ドアの隙間から顔をのぞかせたのは、学級委員長。
委員長、私が横になっているベッドの脇に、ありさちゃんがいるのを見つけて、一瞬顔を引きつらせた。しばしうつむいて、唇を噛んでいる。
うんうん、委員長、アンタの気持ちわかるよぉ~
やがて、今見せた動揺をむりやり押さえ込み、いつもの冷静沈着な表情で顔を上げた。
メガネが夕日を反射して、きらりと光った。
「だいぶ、よくなったみたいね。廊下まで、たのしそうな笑い声聞こえていたわよ」
「うん、おかげさまで」
というか、私より、委員長の方が、病気になってそうに見えるんだけど・・・・・・
顔が蒼白だし、やけに緊張しているみたいだし。かたくなに、ありさちゃんの方を見ないようにしている。
ベッドの横に立った委員長、そう、なら安心ねとかなんとか、つぶやいて、入り口の方を振り返った。
「ひかりん、はいってらっしゃい」
どうやら、委員長には連れがいて、外の廊下で待機していたみたい。
委員長の声に呼ばれて、ドアから入ってきたのは・・・・・・
ぶっ!
「つかさちゃん、大丈夫? ごめんなさい! 私のせいでヘンな噂広まっちゃったみたいで・・・・・・」
く、熊坂光・・・・・・!?
な、なんでアンタがここに?
「ほら、ひかりん、ちゃんとこっち来て、神宮寺さんに謝りなさい。迷惑かけたんだから」
熊坂さん、ひどくしょんぼりした様子で、委員長の隣にくる。
あっ! そうか! 最初に会ったとき、どこかで見た覚えがあると思ったら、委員長がいつもお昼を一緒に食べていた女の子だ。いつもお昼時に見かけていたんだ。
熊坂さん、目をウルウルさせ、
「つかさちゃん、本当に、ごめんなさい!」
ショートの髪を振り乱し、勢いよく頭を下げる。
え~と、この場合は、どうすればいいんだろう?
確かに、この娘のせいで、私、すごく迷惑な噂を流される羽目になったし、今日一日いやな思いもさせられた。
じゃ、だからといって、冷静に考えて、実際、声を荒げて、『あなたのせいで、今日は散々な一日だったのよ!』なんて、なじるほどのことがあったのかっていうと・・・・・・
う~ん・・・・・・
特に、直接の実害といえるようなこともなかったような・・・・・・
ともかく、目の前に、こうして反省して、頭を下げているのだし、これ以上、とやかくいうまでもないわよね?
私、何かを飲み込むようにして、ひとつ大きくうなずいた。
「いいわ、熊坂さん。そんなに、謝らなくてもいいのよ。私、大丈夫だから」
うん、優等生的な回答。これで、好感度アップ間違いなし。でも、あれ? だれに愛想を振りまいてんだ、私って?
とたん、熊坂さん、顔を上げて、くしゃくしゃに表情を崩した。そして、私に抱きついてきて、
「ありがとう、つかさちゃん。許してくれて。ほんとうに、ほんとうに、感謝するね。つかさちゃん大好き! ありがとう!」
またまた、この娘、私の頬に唇を押し付け来てくれるし・・・・・・
ちょっと、アンタ、調子に乗るんじゃ、ないわよ!
ったく!
でも、まあ、今回は、今までの2回ほどには、イヤって感じじゃなかったな。きっと、なんとなく来るのが予想できたからかな?
はっ!
ってことは、このまま、私、キス魔・熊坂光の攻撃に慣らされて、いつかこのキスに喜びを感じるようになってしまうのでは・・・・・・?
うっ!
そんなの絶対イヤだ!
私の内面の危機感をよそに、熊坂さん、瞳が妖しく光っているんですけど・・・・・・
「うふ」
もしもーし、うふって、アンタ。
「つかさちゃんの、ほっぺって、やわらかくて、気持ちいい~ くせになっちゃいそう」
な、なるなそんなもの!