名門・さく女生徒会! 2
で、四時間目も終わり、いつもの名もなき女子4人組と集まってお弁当を広げた。
ありさちゃんは、剣道部の用事があるとかで、ひとりお弁当をもって部室の方へ。
そういえば、委員長も今日はどこかへいってるみたいだし。
今日は、いつもよりみんな口数が少ない。それに、名も無き女の子軍団、私をチラチラ盗み見してる・・・・・・
気づかれてないつもりなのかなぁ~?
完全にバレバレなんですけど?
いつもよりも陰気な雰囲気の中、お弁当を食べ終え、水筒のお茶をすすっているときに、それは起きた。
突然、中川君、席を立って、隣へやってきた。
「神宮寺、ちょっといいか?」
「え?」
いつものエンジェルスマイル。
「あのさ? あの噂、本当か?」
一気に、教室の同級生の耳がダンボになる。
「・・・・・・噂?」
すっとぼけても、意味ないんだけどね。とりあえず、間をとって、ちょっと考えるポーズ。
その間に、中川君の様子を観察。でも、なんかすごく真剣そう。これは、もしかして?
あ、でも、いくらなんでも、みんなの見てる、みんなが聞き耳立ててる教室の中で、告白だなんてねぇ~?
「ほら、神宮寺が女と、その・・・・・・できてるっていうか・・・・・」
私は、かわいく頬を膨らませて、抗議の表情。自分でいうのもなんだけど、かなりわざとらしい。ぶりっ子仮面。ちょっと私的にはキモイかも。
「もう、中川君まで、そんなこと、いうの! 私、私・・・・・・・」
「あぁ、ごめん。で、でも、本当に、神宮寺的には、そんな趣味ないんだね?」
うんとひとつ肯いて、もちろんとつぶやく。すこし、目の端をウルウルさせてあげると、この場合、中川君は満足してくれるのかな?
そんな私の様子に何を思ったのか、中川君。
「じ、じゃ、神宮寺、よかったら、俺と付き合わないか?」
「え!?」
きゃぁぁ~とか、うぉぉぉ~とか、周りの外野陣が『中川が神宮寺に告白した』って騒ぎだしたし・・・・・・
「神宮寺は、女には、興味ないんだろう? 男と一緒の方がいいんだろ? だったら、俺と付き合えよ」
「え、で、でも・・・・・・」
「な、俺と付き合えば、大事にしてやるよ。絶対、幸せにしてやるからさ」
「え、えっと、えっと・・・・・・」
「それに、もう、だれにも、お前のこと、ユリとか、レズとか、言わせたりしねぇよ。絶対に!」
「・・・・・・」
「な、いいだろ?」
そういいながら、中川君、私のあごを持ち上げた。そして、しゃがみこみ・・・・・・
周りの女の子たちは、口元を両手で隠し、私たちのことをビックリして、見ているし、男の子たちは、ヒュ~~~ って、口笛吹いて、はやし立てている。
そんな中、私の右手、無意識に動いた。
パシィィィ~~~ン!
平手が見事に中川君の頬に決まった。
「やめて! おねがい、こんなことしないで!」
でも、中川君、私の瞳を覗き込んだまま、頬を打った私の右手をつかんで、自由をさらに奪う。
「好きなんだよ! おれ、お前にほれてんだよ!」
好きだから、恋してるからって、いやがる相手に無理やり何してもいいなんて理屈はない!
こんなの絶対イヤ!
私、精一杯抵抗した。
「イヤ! こないで! 触らないで!」
助けて、清貴さん! 助けて、学君、ありさちゃん!
でも、3人ともその場にはいない・・・・・・
まだ高校一年生とはいえ、男は男。私は女。どんなに抵抗しても、抗えない。押しのけられない。
絶望的な気分。
なんで、なんで、こんなヤツに、こんなひどいことされなきゃいけないの? なんで、なんで?
小4のときのことが鮮明に思い出された。あの子も、こうやって、私の唇を奪おうとした。
あの子も、目の前の中川君も、同じ男。私、絶対イヤ! こんなこと、絶対にイヤ!
「イヤ、助けて!」
私の目に涙が浮かぶ。必死に身をよじって、助けを求める。
あと、1センチ。中川君の荒い息が、私の顔にも感じられる。
イヤ、こんな嫌な場面、目に入れたくないって思いっきり強く目を閉じた途端、急に中川君の息が、顔から離れていくのに気がついた。それに、私の右手もいつの間にか自由になっている。
ガシャンッ!!
え?
何か大きな音が聞こえてきた。
慌てて、まぶたを開いてみると、中川君、頬を押さえ、うずくまっている。そして、その中川君と私の間に、男の子の大きな背中が・・・・・・
学君。学君、来てくれたのね。私がピンチのときに、やっぱり助けに来てくれたのね。あのときの約束通りに!
中川君、顔を上げた。目をぎらつかせながら、間に立っている男の子を見上げた。殴られた頬を押さえながら、復讐に燃える目で・・・・・・
そして、私もその背中を見上げる。
「中川、いいかげんにしろ!」
学君じゃなかった。その大きな背中は佐野君だった。
佐野君に一喝され、中川君はようやく自分を取り戻したみたい。だまって、自分の席へもどっていった。でも、 自分の指をポキポキ鳴らしながら、ずっと佐野君をにらみつけてる。注意深く、私の方を見ないようにはしているけど。
佐野君、そんな中川君を無視して、振り返って私にやさしく声を掛けてくれた。でも、気のせいかしら、なんだか皮肉な調子がちょっぴり混じっている気がするんだけど?
「大丈夫? 神宮寺さん?」
私、黙って、うなずくことしかできなかった。だって、ようやく、さっきの恐怖がこみ上げてきて、体がガタガタ震えだしたんだもの。
「しばらく、保健室で、休んでいた方がいいんじゃない?」
う、うん。
「今日は神宮寺さん、あの噂のせいで、結構参ってたみたいだし、午後の授業は休んで、保健室のベッドでゆっくり寝てな」
あ、ありがと・・・・・・
口の中だけで、小さくお礼をいった。たぶん、口がもごもごと動いたのは、佐野君にも見えただろうけど、私が口の中で言ったことは聞こえなかったとおもう。
クラスの保健委員の女の子に、震えている私を引き渡して、佐野君、自分の席へまっすぐ戻っていった。
私の方を、もう振り返ったりせずに・・・・・・