幼馴染みが『鈍感』すぎるんだが。
俺の幼馴染みは『鈍感』である。
というか鈍感が過ぎる。俺の想いをどんなに遠回しに伝えても、彼女は「どういうこと?」と首をかしげるのだ。
「今日は月が綺麗だな」
「私の方が綺麗なんだが?」
「流石だわお前。色々と」
何が、と猛抗議してくる彼女の視線を他所に、俺は月を見上げていた。
夜。人々が寝静まる頃。俺たちはコンビニへ買い出しをするため足を運んでいた。
俺が一人暮らしなのを利用して突発的に彼女は『お泊まり会』を決行する。それが今日だったと、それだけの話である。今俺たちがコンビニへ買い出しへと出かけているのは彼女が深夜のカップラーメンより最高の食べ物はないとカップラーメンの悪魔性について説くからであった。
夜、というかぶっちゃけ深夜。冬なのでめちゃくちゃ冷え込む。こんな日はコートと手袋が欠かせない。寒いんだもの。
「今さらだが、深夜にカップラーメンっていいのか?」
「ん、何が?」
「ほら、女の子には色々あるだろ。俺は気にしないが」
「色々って何?」
「太るんじゃないのか?」
「む。物凄い正論。でも美味しいから仕方ないじゃん。カップラーメンは悪魔なんだよ」
相変わらず彼女はカップラーメンの暗黒面に臆さない。流石と褒め称えるべきか、太ったらどうするんだと注意すべきかどちらを選べばいいか分からん。
ビビらないというのは良いことでもあり、悪いことでもある。
現に、一人暮らしの男子校生の部屋で二人っきりで『お泊まり会』に臨めるわけだから、その胆力は計り知れない。というか男として見られてないのでは説が頭に浮上する。
首を振ってその可能性を否定する。
ワンチャンくらいはあっても良い筈なのだ。俺にも、彼女と付き合える可能性は僅かに残されている。
まぁアプローチは虚しく、全て彼女に叩き落とされてしまうわけだが。
もう鈍感を通り越している気がしてならない。もはや知っててスルーしてるのではないか疑惑がある。
直接的な言葉で伝えるのは、正直怖い。
もし彼女の答えがノーだった場合、俺たちは幼馴染みという関係を続けられなくなるだろうから。
『お泊まり会』をする程度には仲が良いのだ。世間一般から見てめちゃくちゃ仲が良い部類だと自負がある。もう仲の良い友人として捉えられて、異性として見られてない可能性まであるが。可能性があるかぎり、俺はそれにすがり続ける。俺はそういう人間だ。直接的な言葉を切り出せず、間接的に想いを伝えることしかできない。俺は、そういう人間だった。
「あ、そういえばさー。今気になる子とかいる?」
「はい!?」
なんの予兆もなしに爆弾が投下された。
なんだこれは。何の確認だ。俺に好きな人がもし仮にいるとしてそしたらこいつはどうするつもりなんだろう。
横目でちらりと彼女をうかがう。
彼女の頬はなんでか、少し赤らんで見えた。
これは、なんと返すのが無難なのか。
お前のことが好きなんだと言ったら、どう返されるのだろうか。
これはいないと答えるのが無難だろう。
「ああ、いない」
「へぇ?」
こちらを怪しむようにして彼女は目を細める。
どうやらこれは彼女の求める回答ではなかったらしい。
では、どんな回答を彼女は望んでいるのだろうか。
わからん。数秒考えて答えがでないのなら考えるだけ無駄だろう。
「今日は月が綺麗だね?」
「ああ、そうだな」
どうやらここでも彼女の求める回答を出すことはできなかったらしい。
腕に抱きつくように彼女は身を寄せ、上目使いにこちらを見た。
「お、おい......?」
当然の事態に俺が困惑していると、彼女は形の整った眉を下げて言う。
「私はもうちょっと直接的な言葉で告白されたいの」
「ん?」
「さっきの私の言葉の意図が伝わらないみたいに、直接言葉にしないと分からないことだってあるの。分かるわよね?」
最後だけ語彙が強めで。威圧するような射貫く視線で彼女はこちらを見る。
つまり、そういうことなのだろうか。
ずっと期待していた。
関係性を壊さない間接的な言葉で、いつも彼女に告白していた。
それでもしかしたらって、上手く行く筈がない。
俺は変化を待つばかりで、関係を変える覚悟で告白したことなんて一度もなかった。
それで上手く行く筈もなかった。
幼馴染みだとか、鈍感だとか、いつだって告白から逃げる口実を探してた。
失敗するのが怖かった。壊したくなかった。
だから、彼女がそんな顔をするのも当然だ。
焦れったそうに、何かを待つ目。
だって俺は伝えてない。
一度も君に、好きだって伝えてない。
「好きだ。付き合ってくれないか」
決心が付くと、すんなりとその言葉は出てきた。
「ずっと待ってました」
彼女は笑った。どんな間接的な告白よりも、直接好きだと口にするのが一番効果的だった。
勢いのまま、彼女は少し背伸びして俺の唇にキスをして見せた。
柔らかい。柔らかい!?
完全に事態を受け入れるのに、数秒。
唇の感触があたたかく、じんわりと全身に伝うのが分かる。
正直訳が分からずに、彼女を見る。
「ーーッ」
彼女も訳が分からなかったようだった。顔を赤くして、視線を下に向けて。こちらに目を合わせないように、でも俺の右手を離さないようにぎゅっと抱き締めていて。
コンビニに付く頃には二人とも、すっかりゆで上がっていた。
やっぱり言葉にしないと伝わらないこともあるんだって。
深夜テンションそのままに四十分で書き上げました。褒めろ。
タイトルがお互いに意味を持つ作品を作りたくて書きました。
彼女もきっと「この幼馴染み鈍感すぎる!?」と思っていたことでしょう。
バカップルがまた一組誕生しました。彼女のことはカップラーメンちゃんとでも読んで上げてください。
モンエナうめぇ! この調子で小説かきまくるぞ!!
春休みが始まり、作者が元気になる季節が近づきました。
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そういえばどうでも言い話ですがカップラーメンって5分が一番上手いらしいですよ。この作品の始めからカップラーメンを作り始めると終わりには言い具合になってるかもしれません。やってみて感想ください。
それでは、また現代恋愛のジャンルに湧きます。さよなら。