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98話 スイの都へ 10/12

 暗闇の中はもう慣れっこだった。


 メイシアは顔を両手で隠したまま、闇に抱かれていた。


 もうどうでもいいのだ。


 村の事も。両親の事さえも。


 どうにかしたいと、がむしゃらだった暖かな日々は、もう数千年も昔の事のように感じる。


 (……寒い、)

 

 寒いけれど、このまま感覚がなくなっていくのなら、それでもいい。


 もう骨になってしまった身体には感覚なんてあるはずもないのに、顔を覆う手には、しっかりとした冷たく固いあの感覚が伝わっていた。


 (目が閉じられない……)


 それもそうだ。

 だって、もう瞼なんて無いのだから。


 メイシアはうつろのような、しかし研ぎ澄まされた様な、居心地の悪いけれど心地が良い矛盾の中でユラユラと揺蕩たゆたう。

 

 絶望では無い。「あきらめ」という甘い闇。 


 


 ──── 逃げて……!



 誰かの声が耳に届く。

 

 (今さら。どこに。もう遅いのに。もう終わったのに。)



 ──── 大丈夫、まだ何も変わっていない


 (もうどうでもいいの。話しかけないで放っておいて。)



 ──── お願い、カップ村の子


 (……うるさい、)


 ──── あの村のはち切れんばかりの花の香りを思い出して


 (…………、)


 ふと、メイシアの脳裏をかすめる、村に溢れる花の香……


 春から秋にかけて、村中どこに行っても漂っていた。

 冬が明けるのが、待ち遠しかった。

 温かく、幸せの香り。

 

 メイシアの中に、花の香りにまじって、あの村の清々しい光が差し込む。


 (光が……、)


 ──── そう。あの光。花の香りと光を思い出して……


 「おっと、邪魔をしてもらったら困るな。」


 メイシアを抱きくるんでいる闇がニョッキリと意識をもたげ、冷たく柔らかな声で光を掻き消した。

 また、静謐せいひつな闇に包まれる。


 闇は言う。


 「姫はせっかく心地の良い闇の中で夢を見ているのに、邪魔をしないでくれ。」


 ──── ……。


 「メイシア、大丈夫だ。何も心配はいらない。このまま何も考えないで、苦しまないで、面倒な事は全て無かったことにして終わらせよう……。もうすぐだ。楽になるよ。」


 (…………うん、)


 メイシアがそう返事をすると、闇はニヤニヤとしながら気配を元の闇の中に溶かして行った。



 メイシアは、また闇の中にすっぽり潜り込み、何も考えないように、感じないように、深い眠り付いた。


 深い眠りに落ちる刹那、闇の隙をついて、メイシアの夢に紛れ込んだ何かがいた。







  *** *** ***

  




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