表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/119

80話 師弟 7/15

 メイシアは馬に揺られながら、カマディの話を思い出していた。


 あの時だ。あの時のカマディの独白。


 カマディはあの時、やっとメイシアたちが御嶽ウタキへ入ることができたあの時、こう話し始めたのだ。


 「まだワシには話せぬことがある。それは、この国を天加那志てぃんぢゃなしにより任された身である故。……それは、許してほしい。」

 そういうとカマディは、その場にいる者に深々と頭を下げた。


 そして頭を上げたカマディは、長い間自分の心にとめていた事を話し始めたのだった。


 「もう、その時が来てしまったのだな。この五年間、ワシがこの国の者に隠してきたことやっさぁ。ただ一人を除いてな。」

 メイシア、ストロー、ウッジ、チャルカ、ナギィ、森榮しんえい、マタラ、ユウナ、チルーの九人は、じっとカマディの言葉を聞いていた。


 「……マタラは、ワシとキジムナーが密会しているのを見たのだったね。」

 マタラが、黙って頷いた。


 「いつもは島の木々が道を塞いで隠してくれていたのに。メイシアがこの島に来て、何かが、運命と呼ぶべき何かの廻りが、狂ったのかもしれないさぁ。」


 「おばあちゃん、私が何かを狂わせてしまったの……?」

 メイシアの心がチクリと痛んだ。


 「気に病むことは無いよ。言っただろ?ただ『そう』だっただけ。それは運命。運命の輪がただそのように動いただけやさ。」


 メイシアはカマディの言葉を聞いて、あの不思議な夢の世界で見た、誰もいない部屋にあった大きなオブジェを思い出していた。

 誰に見られているわけでもないのに、ただ静かに動き続けていた球体と輪っか。


 「ワシはな、メイシア。こうなった事を感謝しているのだよ。」

 「感謝だなんて…… 」


 「これも運命。受け入れると、次にするべきことが見つかるというものだよ。」

 カマディが、メイシアにほほ笑んだ。


 「すまなかった、マタラ。苦しい思いをさせて。実はワシとキジムナーは旧知の仲でな。あれは、ワシの友朋ゆうほうなんやさ。」

 その場にいた十六夜の者は、少なからず驚いた。ただ一人を除いて。


 「どうして……?キジムナーは……、」

 マタラがあからさまに動揺していた。

 マタラにとって、キジムナーは人の心を持たない悪魔の手先でしかないのだ。

 そんな者が尊敬するカマディと友達だと言われたところで、すんなり受け入れられるものではない。


 「そうさぁ。キジムナーは、トイフェルのしもべ。ワシらの敵。」

 「では、どうして、そんな者と、」


 「もともと、キジムナーはこの島の精霊。ちょっといたずらが過ぎる悪餓鬼ヤナワラバーやっさぁ。

 まだワシがそうさねぇ、マタラぐらいの歳だったかやぁー、その頃にとっ捕まえて、叱ったことがある。

 何度も何度も、悪戯を見つけては捕まえて叱り、それを繰り返しているうちに気心が知れる友になったんやさ。

 友になってしまえば、気の良い寂しがり屋のイタズラ坊主。本当にただのヤナワラバー。」


 聞いているうちに、マタラがカタカタと震え出した。


 あの日のキジムナーの、命を何とも思っていない笑い声や、キジムナーが叩いているであろう太鼓の音が、脳内にフラッシュバックして、カマディーが話すキジムナーの話が受け入れられない。


 「マタラ、大丈夫やっさぁ?」

 ユウナがマタラの横に座り、肩をさすった。


 「ワッサイビーン、マタラ。ジチェー、ワーも知っていたんやさぁ。」

 「ユウナだけは、キジムナーとワシの仲は知っていたんだよ。ユウナとは付き合いが長いからねぇ。」


 「え……、」

 「黙っていて、申し訳ない。マタラがキジムナーの事を憎んでいるのは、ワカユン。ヤシガ、キジムナーも不器用ブクーなのに、よくやっているさぁ。」


 「…… ワシが全部悪いんだよ、マタラ。ワシがキジムナーたちに頼んでしまったんだ。このスイ、いては御主加那志ウシュガナシ…… いや、ユイ加那志ガナシの事をトイフェル側について、内密に守るようにと……。」


 「そんな、」

 「ヤサヤー。アッターは不器用な守り方しか出来ないヤシガ、ちゃんと今の今まで、カマディとの友情を守っているんやさ。」


 「しかし、あの時、私はキジムナーに追い立てられて、食物庫から…… 御殿から追い出されたのです! 」


 カマディの表情が後悔の色で曇った。


 「怖い思いをさせてしまったね……。キジムナーの代わりに謝るよ。すまなかったね、マタラ。この通りだ。

 でもわかってやっておくれ。あれはキジムナーなりの、守り方だったんだよ。


 あの時、そうでもしないとみんな御殿の敷地内で焼かれてしまっていた。

 御殿で働くものは、最後まで御殿を守る気持ちでいる。

 お前も、そうであったように、御殿から離れそうとはなかなかしなかった。

 だからキジムナーが、御殿から遠く離れるようにあんな行動をとったんだよ。」


 「……そんな、」

 マタラの顔から血の気が引いた。


 あの夜の恐怖がよみがえる。

 キジムナーの甲高い声。御殿が焼けるのを喜んでいるような笑い声。ドンドンと休みなく叩かれる太鼓の音。


 でも、そこでハタと気が付いた。

 その事実を聞いてから記憶を手繰ると、キジムナーたちは「もうこっちは火の海やっさぁ! 」「御殿が丸焼けになるさぁ! 」「次はここだからよー! 」と笑いながら、確かに脱出を促していた。

 太鼓を鳴らしながら、それより奥にはいかないように、早く御殿を出るように急き立てていたのだ。


 「……私は、何を今まで、」

 この事実が悲しいわけではない。悔しいわけでもない。絶望したわけでもない。どれも近いが違う。マタラは、この感情の名前を探した。

 ただただ、涙がこぼれた。


 頭は冷静な状態なのに、涙だけ止めどなく流れた。

 この感情に名前を付けるなら「苦しい」。


 誰が悪いわけでもない。そして、自分は生きている。

 あの日がどうであれ、あの日から生きて、今ここに居て、この事実を聞いたのだ。


 その全てを言葉にするなら「苦しい」。

 それが一番近い言葉だ、マタラは思った。







ジチェー/ 実は

ワカユン / わかる

アッター / あいつら

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ