75話 師弟 2/15
メイシアは、ストロー、ナギィ、森榮、チルー。そして、カマディと共に朝清が船頭をする船に乗っていた。
目指すは赤星島のスイだ。
ここの空はまだ青い。
風を捕えていっぱいに膨らむ帆を、森榮が好奇心いっぱいのキラキラした目で見つめていた。
そのずっと奥で、黒い空が不気味に蠢いていた。
あの闇に紛れてトイフェルがやって来る。
不気味なほどゆっくりなそのスピードは、もう何も手を打てないだろうとあざ笑っているかの様で、わざとじわりじわりとやってきているようにすら思える。
残された時間。勝因があるとすれば、そこしかない。
メイシアたちは、どうにか手を打つべく動くしかないのだ。
勝利は手中だと油断しているであろうトイフェルから形勢逆転を狙うには、この与えられた時間を徒爾するわけにはいかない。
「やっぱり、サバニは早いさー。ワーが漕いできた手漕ぎ船とは全然違う。そう思わない?メイシア。」
ナギィが海風を受けながらメイシアに話しかけた。
先ほどからずっと、考え事をしているのか、うつむいていつものメイシアではないのだ。
「あぁ、うん。そうだね。すっごく早いね。……でも私、ナギィが歌いながら漕いでくれる方が好きだよ。」
そう言いながら、また上の空になる。
目線の先は、もう遠くなった御嶽の巨石だ。
「メイシア。心配なのはわかるけど。ワーたちはワーたちの出来ることをしよう。ウッジさんなら大丈夫だよ。ユウナさんもついているんだし。」
「そうさぁ、メイシア。あのイナグングヮは、なかなかだったよ。きっと大丈夫。」
隣に座っているカマディが、メイシアの手をぎゅっと握った。
「……うん。そうだね…… そうだよね。他のみんなも戻って来てくれたし…… なんとかなるよね!」
あの時。
御嶽でカマディの話を聞き終えた頃、キジムナーに怯え、逃げて行った清明たちが戻って来たのだった。
一人の清明が、申し訳なさそうに口を開いた。
「清明とは天から頂いた力を、平和のために惜しまない者が清明だと、覚悟してここへやって来たのに、恥ずかしいか、一時の迷いに惑わされて、逃げてしまったさぁ。
ヤシガ、もう迷わない。
天加那志の為に、スイの民の為に、命を使う覚悟で臨むさぁ!
……もう一度、ワーらを清明として迎えてほしいです。」
そして、数人はカマディに疑ってすまなかったと涙を流しながら謝罪をした。
船着き場まで走って逃げると、この先どこにも逃げ場が無いと気づいた。そして、一度絶望し、頭が冷静になると目が開かれる。
カマディはどんな事情があるにせよ、トイフェル側に落ちるようなことは絶対に無いという事。
そして、誰ともなしにそれを口に出し、話合う事ができたのだ。
他の清明たちも、バカげた妄想だったと謝罪を口にした。
カマディの答えは明白だった。
もちろんイエス。
突き返す理由などどこにもない。
カマディも彼女たちに頭を下げた。そして、この十六夜の為に、一緒に戦ってほしいとお願いをした。
その彼女たちのサポートを借りて、ウッジが魚釣島の御嶽を守ることになったのだ。
カマディが、メイシアの目を見てにっこりとした。
「そうさぁ。それにユウナがいる。ユウナは傷や病気を治す事に長けている。この十六夜一と言ってもいいさぁ。そのユウナが付いているんだから、何も心配はいらないよ。……それよりも、」
「それよりも、チャルカが心配だよ、」
そう口を挟んだのは、ストローだった。
「……そうだね……、チャルカもだけど、メリーもね…… 」
そういうと、またメイシアの顔に影が差した。
とんでもない任務をチャルカは請け負ってしまったのだ。
ウッジが、西の砦である魚釣を守れと言われた時、自分にそんな大役が務まるはずがないと震えあがったウッジは、動揺してどういうわけか、アレハンドラに助けを求めたのだった。
しかし、それがいけなかった。……いや、唯一の正解だったのかもしれないが、チャルカとメリーにとっては大災難になってしまった。
チャルカとメリーの、初めてのお使いが始まってしまったのだ。




