68話 楽園 28/33
メイシアはゆっくりと、ナギィを離した。
そして、まっすぐにストローを見た。
「ストロー、アレ出して。」
「え?なに?何だっけ?アレって言われても…… 」
ストローは慌てた。なんたって「アレ」と呼ばれる代物に、思い当たる節が全くないのだ。
ストローが今までメイシアに喜ばれた物といえば、トーヴァに、水に、サンダーサニアに、ジャングルで葉っぱで作った帽子に……と、瞬間的に色々と思い出すが、どれも今の状況では必要がなさそうなものばかりだった。
「もう、アレよ。アレ。アレハンドラさんに貰ってたじゃない。」
それを聞いて、はっと思い出した。
「トーラ!」
「それ!もうアレしか頼れるものが無いわ。早く出して!」
「うーん…… ごめん、メイシア。アレ…… 失くして…… んー、違うな、多分、いや、絶対、オズの家に置いてきて…… しまった……?」
「えーーーーーーっ!!!」
確かにストローは、ペンタクルの神殿で、アレハンドラから、誰かに託ったという話しでトーラと呼ばれる聖書を渡された。
トーラと呼ばれたその聖書は、とても不思議な力を持っていて、あまりストロー本人は覚えてはいないのだが、そのトーラの奇跡により、死神を撃退しと言っても過言ではない。
アレハンドラはストローにこう言っていた。
『正しい者が正しい心で聖書をめくれば、必ず力を貸してくれる』と。
また、ソーラも『トーラとは、不思議な力を込めた聖書で、奇跡を起こす力がある』と。まぁ、同時に簡単に奇跡は起こらないと釘は刺されたのだが。
必要な時に、必要なものを与えてくれる奇跡の聖書。
それがトーラだった。
しかし、そのトーラ。
大切にしていたのは勿論なのだが、十六夜へ送られる時、誰一人きちんと荷物は持ってこなかったのだ。トーラも然り。
オズの家のリビングで、ゲオルクと話している時、ふらっと雪蘭が現れて、気が付けば船の中。
いつものリュックを抱える余裕なんて無かった。
全ての荷物は、雪蘭が……いや、オズという土地を支配している大きな力が、今も保管してくれていると思ってはいるが…… 今、手元にないのは事実。逆立ちしたって、出てこない。
メイシアは、落胆でよろめいた。
「そんな…… あれが最後の砦だと思ったのに…… 」
「ご、ごめん…… 」
自分が謝るのもおかしな話だと思いながらも、ストローはしょんぼりと謝った。
謝りながら、今トーラがあればなぁ……。トーラさえあれば、どうにかこの事態を打開できたのに、悔しいなぁ、と心底思った。
目を瞑り、トーラのイメージを思い浮かべていた。
──── ここにトーラがあれば……。
その時だった。
ストローの目の前の空間に三日月形の光が現れた。
その三日月が、円になるようにクルンと一回転したかと思うと、三日月の弧が下に来たとき、その光からゴトンと四角いものが落とされた。
光は「何か」を排出し、一回転を終えると、その形を三日月形から垂直に伸び一本のまっすぐな光になると、プツンと消えてしまった。
その一部始終を、ストローをはじめ、その場にいた全員が、あっけにとられて見ているしか出来なかったが、ただ一人だけ森榮が、ゴトンと落ちた「何か」を無類の瞬発力で、キャッチした。
「高サンネーネー、これ…… 」
森榮が、その「何か」をストローに差し出した。
その「何か」を、放心状態で「何か」を見る事無く受け取る。
「あ、ありがとう…… 」
「ストロー、今の何?どうしたんだ?」
ウッジが、何度も瞬きをした。
チャルカも、すごいものを見たと嬉しそうにはしゃぎだした。
「すっごーい!本が出てきたー!」
「本……?」
「ちょっと、ストロー、それどうやったの?トーラじゃない?それ…… 」
メイシアが、指さしたその「何か」に視線を落とす。
知っている重みと厚みと大きさ。表紙の皮の手触り。
視界に入れる前から、わかっていた。
「なんで……?」
ストローの手には、トーラが握られていた。
トーラ / 「伝えられしもの」参照




