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66話 楽園 26/33

 御嶽ウタキの前は静まり返っていた。

 いつもと何かが違う。何か空気が重い。

 風が木の葉を揺らす音もほとんど聞こえない。

 すぐそこにあるはずの海の音さえも何かが緩衝かんしょうしているかのように聞こえてこない。


 それもそのはず。御嶽へのたった一つのルートである岩のトンネルは、深い青色の光で誰も通れないように防御されいた。


 言うまでも無く、それはカマディの力により行われた術。言わば、トンネルにされた栓のようなものなのだ。

 風や音や……きっと、それ以外の目に見えないあらゆるものがそこから動けず、通れず、停滞している。



 到着するやいなや一向は、どうにか御嶽の中に入りたいと、トンネルの栓に張り付いたが、やはりカマディの結界の力は強大で、易々とは入れそうになかった。


 ユウナが何度か栓に手をかざし、結界を破ろうと試みる。いや、破れなくても、そこにいるのがユウナたちだと気が付いてもらえればそれでいいのだ。だが、やはり何の変化もない。

 繰り返し、カマディの名前を呼びながら、それは続いた。




 そんな攻防が繰り返されている端で、青い顔でマタラが震えていた。

 気が付いたメイシアが、声を掛けた。

 「マタラさん、どうしたの?」


 「メイシアさん……。実はあの……怖くて、」

 「……おばあちゃんに会うのが?」


 「いえ……、それも少しはありますが……。さっき、すれ違った清明がキジムナーが出たと言っていました……。私は五年前に御殿でキジムナーの来襲に遭っているので…… 」

 震える声を絞り出し、なんとか状況を説明する。


 メイシアが、震えるマタラの手を握った。氷の様に冷たかった。

 「……マタラさん、」



 マタラはあの日の事を思い出していた。


 隠れていろという武人たちの声で、食物庫に逃げ隠れたものの、御殿の敷地の中を何十というキジムナーたちが、小さな太鼓をたたきながら、残っている人は居ないかくまなく探しまわっていたのだ。


 マタラ達も例外ではなく、遭えなくキジムナーに見つかってしまい、追い立てられた。何とか食物庫に火を点けられる寸前で脱出は出来たものの、その時点で御殿中に火の手が回り、もう隠れる場所なんて御殿のどこにもなくなってしまっていた。


 なので、やむなく命からがら山から逃げ出したのだ。

 あの夜の事は、全てが恐怖だった。


 追い立てるキジムナーの声も笑い声も、どんどんと響く太鼓の音も。

 今でも、あの夜の音は耳に残っている。



 「ワーも……、ワーもさっき見たよ、」

 「ワンも見た!」

 ナギィと森榮もマタラの様子に気が付き、やって来た。


 「赤い髪の、耳がこんなに尖ってて……ジュンニ、ウトゥルサンやっさー!アガっ!」

 「こら、森榮っ!怖がらせてどうするの! 人の気持ちを考えなさい。」

 また、ナギィのゲンコツが森榮に落ちた。


 「ごめんね、マタラさん。ここに確かにキジムナーは居たんだけど、もうどこかへ行ってしまったの。だから、大丈夫だと思う。」


 確かにあの時キジムナーは、まるでサルの様に軽々とこの崖をヒョイヒョイと飛び上がり、居なくなってしまった。

 翼があるのだから、てっぺんから遠くへ行ってしまったに違いないと、ナギィは思ったのだ。


 それを聞いた、マタラは少し安心したようだった。

 メイシアが、マタラの背中をカマディにしてもらったように、優しくさすった。


 しかし、そこでナギィの話は終わらなかった。


 「……それに……、」


 何か深く考え込むような表情でナギィがつぶやいた。



 「それに?」

 「ど、どうしたんですか?」

 メイシアとマタラが、難しい顔をするナギィを見つめた。


 「うんん、何でも無い。気にしないで。でも、本当なの。もうキジムナーはどこかへ行ってしまったから、きっと大丈夫! 」

 ナギィがにっこりして見せた。







ジュンニ / 本当に

ウトゥルサン / 恐ろしい

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