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62話 楽園 22/33

 その様子を、ユウナ、マタラ、チルー、そしてソーラとサンは、ほっとした様子で眺めていたが、事は何も変わることなく事態は一分一秒を争うのだ。

 こうしている間にも、山原ヤンバルから黒い何かがスイを侵食しているし、カマディの身柄もどうなっているのかわからない。

 

 「おい、娘たちよ。再会が嬉しいのはわかるが、そうもしていられない状況ではないのか?」

 優しい大人三人が、声をかけづらそうにしているにしているので、気を利かせたソーラが声をかけた。


 「そ、そうなんです!早く祝女ノロさまを助けに行かないと……!」

 「山原から、トイフェルの黒い雲もやってきているのです、どうにか手を打たねば…… 」

 マタラとチルーが関を切ったように口々に訴えた。


 「え?!マタラさん、おばあちゃんがどうかしたの?」

 メイシアの表情が一瞬にして不安の色に変わった。


 「メイシアさん、祝女さまが牢に入れられてしまうのです……もうどうしたらいいのか……、」

 「どういう事?なんで?なんでおばあちゃんが捕まえられないといけないの?何があったの?」

 メイシアが、マタラのもとに駆け寄った。


 「それは……、」

 マタラがじっと見つめるまっすぐな瞳に耐えられずに、目線をそらしてしまった。心中は複雑なのだ。



 ユウナが立ち上がった。


 「やることは決まってるばぁよ。」

 全員の視線がユウナに集中する。


 「まず、メイシアグワァはマタラがムチュン、ニジリーメーとイユ汁をカムン事。アンサーニ、ウヌアトゥからウマンチュでカマディをタシキーンチュンデー! 」


 「……え?」


 メイシアの頭の上にハテナが並んだ。

 ユウナが自分の名前を言ったことは聞き取れたが、それ以外は全く何を言っているのかわからなかった。


 「そうですね。メイシアさん、とにかくこれを食べてくださいっ!命薬ヌチグスイです。 これで、あなたのマブイに、力をつけてもらって体から離れないようにしてもらいましょう!」

 ずいっとマタラが、メイシアの前に小さな一口サイズのおにぎり七個と魚とアーサの入った味噌汁が乗った膳を出してきた。


 「……う、うん。じゃぁ、」

 マタラの勢いに押され、理解はしていないが素直なメイシアは、とりあえず箸を握りおにぎりを頬張った。




 「では、妾たちもそろそろ戻らねばな。」

 ソーラはメイシアの様子が安定したことを確認したので、とりあえず役目は達成されたのだ。


 「えー、ソーラ。ボク、もうちょっとここに居たいよー。だって、全然みんなとおしゃべりできていないだもん。」

 「何を言っている。この柱が消えぬうちに帰らねばならんことは、サンも知っている事だぞ。」

 と、光の柱を指さした。


 誰も気にする余裕なんて無かったが、そう言われれば、柱は二人が来た時よりも明らかに細くなっていた。

 柱の中から、アレハンドラの声が聞こえた。


 「そうですよ、サンさま。もう時間切れです。これでもかなりの時間、保ったのですから、諦めてください。」


 「えーーー、でもぉ…… 」

 サンがどうしようもないことが分かりつつ、食い下がる。


 サンは自由奔放な感情に従うのが役目なのだから仕方がない。とりあえず、押し殺すという事は出来ない。頭でわかっていても心に落ちていないというやつだ。


 「サンちゃん、またあそぼ。そっちに行ったら、また秘密基地に連れてってね! 」(※)

 見かねたのか、はたまた、ただのあいさつか。チャルカがサンの手を取りながらにっこりとした。


 「……し、仕方ないなぁ、あそこは誰にも秘密だから、チャルカだけだぞ。また、絶対に遊びに来いよな!」

 「うんっ。」


 「ソーラさま……時間があれば色々聞きたい事だらけなのですが……、」

 「ストローは、そうじゃろうな。……わらわも話してやりたい事は山ほどあるが……言えない事の方が多いのじゃ。すまんな。」


 「……そうですか、では仕方ないですね。今回は助かりました。ありがとうございました。……お元気で。」


 「ソーラさま、ウチからも……。本当にありがとうございました。」

 「ウッジは、もうすぐ妾たちのところに来るからな。前祝みたいなものじゃ。」


 「……え!そ、そんな約束は……、」

 いきなり青ざめてオロオロするウッジを見て、ソーラがニヤリとした。


 「いひひひ、冗談じゃ。」

 「もー!ソーラさま!」


 「ウッジよ、聞こえますか?」

 光の柱から、アレハンドラがウッジを呼んだ。


 ペンタクルでは色々あり、精神的に上司と部下……いや、先生と生徒?のような関係が染みついてしまったウッジは、アレハンドラの呼びかけに背筋が自然と伸びる。


 「はい!」


 「そちらの様子は、おぼろげにですが、把握しています。……もし、わたくしの力が必要な場合は呼びなさい。」

 「え?呼ぶと言ってもウチ、呼び方なんて…… 」


 「そこは夜の国といえども、太陽が昇る。太陽のあるうちは、ソーラさまとサンさまのお力が少しは届くという事。死神を追い払った時の事を覚えていますか?」

 「……はい……なんとなく……、いや、あの時は必死だったので…… 」


 「それを太陽に向かってするのです。いいですか、太陽が隠れてしまっては、わたくしたちはどうすることも出来ません。手遅れになる前に、行動を起こすのですよ。」


 と言っている間にも、光の柱は、徐々に細くなっている。


 「いけない。サンさま、ソーラさま、お急ぎください。」


 その言葉を合図に、ソーラとサンが光の柱へと足を踏み入れた。


 光の粒が滝を流れる一滴の様に、ソーラやサンの体に触れると跳ね返り、美しい光景を作り出していた。


 「それではな。皆が、健やかでいる事を祈っておるぞ。」

 「じゃーねー! また遊びに来てねー、絶対だよ! 」


 「ソーラさま、サン、ありがとうございました! 」

 一際、メイシアが大きな声で、礼を言った。


 うんうんと、ソーラが頷いたが、何かを思い出したように口を開いた。

 「そうじゃ! そちらには何故だか、加護がついておるな、サブリ…… 」

 と話の途中だったが間に合わず、昼の国からの来訪者は、消えてしまった。


 「サブリ……?」

 「寒いって言ったんじゃない?」

 「なんで、急に寒いなんて言うんだよ…… 」

 と、ストローとウッジが何でかそこそこと話す。



 そこへ、ユウナが気合の入った声で、全員に告げる。

 「さぁ、急いで御嶽うたきへ向かうさぁ!何事もカマディがいないと始まらないばぁよ!」




  *** *** ***







ムチュン / 持つ

ニジリーメー / おにぎり

カムン / 食べる

アンサーニ / そして

ウヌ / その

タシキーン / 助けに

イチュンデー / 行くよ


※スピンオフ短編 「セノーテの約束」を参照

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