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61話 楽園 21/33

 重たい空気の中、おもむろにチャルカが立ち上がった。


 チャルカは、ウッジに叱られたので、言付けを守りウッジの膝に座り黙っていたのだ。

 急に立ち上がると、所在なさそうにフワフワしているメイシアの肩をトントンと叩いた。


 「メイシアー、早く帰らないとダメだよー」


 驚いたのはウッジだ。

 今まで特別なものが見えているような素振りは一つも無かったのだ。


 「え!?チャルカも、見えていたの?」


 「ん?だって、ここにいるよ?ウッジは見えないの、メイシア。」

 「えーーーーーー!そりゃ、ウチは見えているけどさぁ。」


 不思議そうな表情のチャルカをよそに、ソーラが何かを閃き、彼女らしからぬ大きな声を上げた。


 「でかした、チャルカ!こればっかりは、力があったとしても、神の妾たちでは出来ぬ事。しかし、半分人間のチャルカなら……。チャルカが、メイシアの魂を戻すのじゃ!」


 またもやペンタクルの神にチャルカを使われそうなウッジは、少しばかりの抵抗が胸をチクリとしたが、刹那それを飲み込んだ。

 今、それに賭けるしかないからだ。


 「……ソーラさま、そんな事出来るんですか?」

 「やってみるしかあるまい! チャルカに神のごとき力があることは本当じゃからな。」


 「そうだよ、ウッジ!チャルカに賭けよう!」

 ストローも、最後のチャンスとウッジの背中をパシッと叩いた。



 それを聞いたユウナが、チャルカにサン(・・)を渡した。

 「よし、ワラビっ子、マブヤー マブヤー ウーティキミソーリって言いながら、これでネーネーの肩を叩くさぁ!」


 「わぁ、これ、サンちゃんと同じ名前のやつ!ほら、見て! サンちゃん!」


 「チャルカ、それはいいから…… 」

 嬉しそうにサン(・・)を見せるチャルカに、サンが頭を抱えた。


 「もー、チャルカ!そんなことはいいから、言える?マブヤー マブヤー ウーティキミソーリ、だって。」


 「マブヤァ。マブヤァ。ウーリ…… 」

 「あー、チャルカには難しいかぁ……」


 早くしないと、メイシアがまたどこかへフラフラと行ってしまう。


 「じゃぁ、チャルカさん、これでどうですか?『魂よ、私を追ってきてください』これだったら言えないですか? 」

 マタラが、後ろから助言を飛ばした。


 「チャルカ、今の言える? 魂よ、私を追ってきてください。言ってみて。」

 「うん!言える!タマシイよ、アタシをオッテきてください! 」


 「それそれ!」

 「童っ子、それを言いながら、ネーネーの肩を!」


 「よーし!」

 そういうと、チャルカはサン(・・)を振り上げた。


 「いくよーーーー!」


 全員が固唾をのんで見守った。

 すぅ、とチャルカが大きく息を吸い込んだ。


 注目と静寂。


 「……あれ?なんて言うんだっけ?」


 もちろん、全員肩透かし。


 「もう!チャルカ、ちゃんとしてよ!あんたがちゃんとしなかったら、メイシアが死んでしまうかもしれないんだよ!」


 「ちょっと、ウッジ。それは言い過ぎだよ。こんな幼い子に、重たい責任を押し付けたらダメ。オラたちだって、何も出来ていないのに。」

 「だって!」


 「ほらほら、喧嘩オーエーはやめるさー。そうしているうちにも、メイシアグワァマブイが…… 」

 仲裁に入ったユウナの言うように、皆が二人の喧嘩に気を取られている間に、魂が今にもフワフワと、どこかへ行ってしまいそうになっていた。


 「あぁ、メイシア!」

 「童っ子、ワッサイビーン、」


 慌ててユウナがチャルカからサン(・・)を取り上げた。と、奪い取るように取り上げたわけではないのだが、その瞬間チャルカが大声で泣き出した。


 「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!」


 「チャ、チャルカ、仕方ないでしょ、ちょっとぉ、泣かないでよ…… 」

 ウッジが焦って、チャルカをなだめ出した。

 しかし、チャルカは収まらない。


 ストローも、チャルカのご機嫌を取ろうと話しかける。

 「チャルカのせいじゃないよー?みんな出来ない事なんだから。これから、どうしたらいいから考えるから、チャルカも一緒に…… 」


 「ちがうのぉーーー!」


 「「?」」

 「メイシアが、死んじゃうのがヤなのぉ。わぁぁぁぁぁぁーーーーんっ 」


 「嫌って言っても、今、それをどうにか…… 」


 「チャー、メイシアが一緒がいいのっ!メイシアが一緒じゃなきゃヤなのっ!メイシアーーーーー!メイシア、死なないでぇーーーーーっ!」


 もうここまで本格的に火が付くと、泣き疲れるまでチャルカは止まらない。いつもの事だ。

 ウッジとストローは、半分あきらめて、チャルカを眺めた。


 すると、宙を注視ししていたメイシアの魂の視線がチャルカに注がれた。

 じっとチャルカを見つめる。


 そして、泣き叫ぶチャルカにゆっくりと近づき、優しく抱きしめた。


 「メイシアーーーーーっ、メイシア、どこにもいかないで?」

 メイシアは、抱きしめたチャルカの頭を撫でながら、「うん、」と頷いた。


 次の瞬間、メイシアの魂が霧のように消えてしまった。




 「メイシア!」

 その一部始終を見ていたウッジが、悲痛な叫びをあげた。



 その横でストローはもっと青ざめていた。

 メイシアがチャルカを抱きしめたのも、何も見えていないのだ。


 チャルカが泣き叫び、次にウッジが、どう聞いても悪いことが起こったような絶望的なトーンでメイシアを呼んだのだから最悪な想像しか残されていない。


 ストローは言葉も無く、ボー然となったその時、メイシアの指が微かに動いた。


 それを見逃さなかったソーラとサンが、素早くメイシアの額に手を重ねた。

 「「エ ソーレ ラ レ」」

 添えられた二人の手が柔らかくぽわっと一瞬光った。そして、すぐに手を退けると「安心するがいい。」と穏やかな声で告げた。



 神の言葉を聞き、戸惑いながらもウッジが、メイシアの顔を覗き込んだ。

 ストローは、何が何やら、話についていけなくて、オロオロしっぱなしだ。



 次の瞬間、やっと待ちに待ったその時がやって来た。

 メイシアがパチッと瞼を開き、目覚めたのだ。



 「嫌あああぁぁぁぁーーーーーーーーーーー!」

 何故か目覚めた瞬間、メイシアは悲鳴を上げながら、飛び起きた。


 飛び起きたものだから、覗き込んでいたウッジのおでこに頭突きをする形になってしまった。


 ──── ごつん!


 視界に火花が散った。


 「「わぁぁぁぁぁぁっ! !…………?」」


 二回目の悲鳴は二人分だった。


 

 「ったぁいっ……!」

 「……っつう、」

 痛がり額を抱える、メイシアとウッジ。



 あまりの痛さに、それ以上声が出ないメイシアの都合はなんてお構いなしで、チャルカがメイシアに抱き付いた。


 「メイシアーーーーーー!」

 「えっ? ……チャーちゃん?……ん?あれ?みんな…… えーーー!ソーラさまとサンまでいる!ってここ何処?!」

 周りを見回し、手洗い前に寝ている事や、探してたみんながいる事や、なぜかソーラとサンまでその場にいる事で、頭が混乱する。


 「あーーー!また呼び捨てにした! ほんっと、ボクの事を呼び捨てにするの、メイシアだけなんだぞ、そろそろ改めろよっ 」

 「目覚めてすぐだというのに、忙しいのぉ。メイシアは。気分はどうじゃ?」



 「え?あぁ、うん。頭が……痛いかな、……あぁっ!」

 「今度はなんじゃ。」

 メイシアは叫ぶが早いか、両手で顔を隠した。


 「私の顔見ないでぇっ!」


 「……もう大丈夫だよ。まだ寝ぼけているの?」

 サンが呆れた、とばかり肩をすくめた。


 ──── がばっ


 そんなやり取り、目に入っていないのだろう。

 ストローが無言でメイシアを抱きしめた。


 「ちょ、ストロー?どうしたの?」


 感極まって、涙で顔がぐちゃぐちゃになっている。


 「ばか!何がどうしたの、だ。メイシア!オラ、めちゃくちゃ心配したんだからな!」



 「ちょっとー、ずるいって!ウチだって、心配したし、色々大変だったんだからね…… もぉっ!」

 と遅れをとったウッジも、一番外から、メイシアを中心にした塊を抱きしめ泣き出した。


 「何? なになに?……もーーーー!私だって、みんなの事すっごく心配したし、探したし、めちゃくちゃ大変だったんだからねっ!みんな一緒だなんてずるいよぉーーーー!会いたかったよーっ!」


 四人はしばしの間、抱き合ったまま、好き勝手なことを吠えながら泣いた。









ワッサイビーン / ごめんなさい

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