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42話 楽園 2/33

 「ウッジ!」

 いつもの声がウッジに浴びせられ、ウッジは目を覚ました。


 「やっと起きた…… 」

 ストローがウッジを覗き込んでいた。


 「……ストローか。おはよ。あれ?ウチ、昨日、あのまま寝てしまった?」


 起き上がって、伸びをする。


 「あ。腰…… 」


 そこでやっと、昨晩は腰が痛くて動けなかったんだと思い出した。

 腰は全く痛みも違和感もなく、絶好調といった感じだった。


 「お。腰、大丈夫そうだね。」

 それを見てストローが、安堵したようだった。


 そこに、チルーが顔を布でふきながら部屋に入ってきた。

 「って、お二人とも、それどころじゃないですよ。ウッジさんは、とりあえず顔を洗ってきたください。」


 ウッジが、どうしたの?と言いながら、目を擦った。


 その手を見て、ウッジが気を失いそうになった。

 「……!」

 手が血まみれなのだ。


 「ちょっ、ウッジ!大丈夫だよ!血じゃないからっ!それ、血じゃないから!」

 「……え、何これ?なんで赤いの?血じゃないの?」


 寝起きなのも相まって、状況が理解できない。


 チルーが手鏡をそっと渡してきた。

 おもむろに手鏡を出されても、意味が分からなくて受け取れない。


 「ウッジ、見て。」

 ストローが言うので、しぶしぶ手鏡を受けとり、顔を見てみた。


 ウッジはあんまり鏡が好きではない。

 自分の顔など見ても、いい気分になる要素なんて一欠けらもないからだ。

 だから普段から出来るだけ鏡を見ないようにしているというのに……と思いながら覗き込んで鏡にうつった自分は、想像をはるかに超えていた。


 「何これっ!」


 と、ここまで来て、ストローがぷふーーーと噴き出した。

 チルーも、笑いをこらえているのか口角と小鼻がぴくぴくと動いていた。


 鏡のうつるウッジの顔は、誰が悪戯したのか、落書きだらけだったのだ。



 「もうダメぇぇぇーーーー!お願いだから、その顔でこっち向かないで!しゃべらないで!ひぃぃぃぃぃ!」


 「……女性のお顔を見て笑うのは失礼だとわかっているのですが、これは、お顔を笑っているのではなくて、その落書きが……、ダメです、ウッジさん目を閉じても、目があるんですから、むやみに目を閉じないでください……!」

 今までかなりの我慢を強いていたのか、ストローとチルーが耐え切れないと、爆笑した。


 「ひどいよ、二人とも!……落書きしたのはどっち?」


 「ひぃぃぃぃぃ!その顔で近寄らないでぇぇぇ!」

 ストローが、お腹を抱えて悶え苦しんだ。


 「ウッジさま、目を合わせないでお話をすることをお許しくださいね。」

 と言うと、チルーが背中を向けた。


 三度ほど深呼吸をしたのち、もう落ち着いたかと思った矢先、思い出したのか、この状況がおかしいのかもう一度笑い出したが、ウッジの無言の怒りを背中で感じ、咳払いを一つして、冷静に話し始めた。


 「すみません、失礼いたしました。」

 「で? どっちなの?」


 「いえ、私たちではありません。」

 「じゃ、一体だれが?」


 「はい。それは、キジムナーの仕業です。」

 「キジムナー?」


 予想外だったし、聞いたことが無い名前だった。

 会ったこともない人にこんなことをされる言われは無い。


 「キジムナーとは、十六夜いざよいに住んでいる、子供の妖精です。昔は、かわいい悪戯をする妖精だったのですが…… 」


 「ちょっ、話はあとで良いから、とりあえず、顔を洗ってきてっ! このままじゃ、目も合わせられないからっ!」


 ストローがウッジに、笑い転げながら何とか手拭いを渡した。

 仕方なく、ウッジは顔を洗いに立ち上がった。


 チルーが背中を向けたまま、井戸の場所を教えてくれて、誰にも顔を見られないように下を向き、気配を察知しながら細心の注意を払ってそこへ向かい、何とか顔を洗って戻ってきた。





 「それで?話の続き。」

 と、ウッジが帰って来るなり、二人を座らせて、話を聞こうとした。


 二人は、まじめに話を聞こうとするウッジの顔を直視するや否や、ぷふっと噴き出した。


 「ちょっとー!ウチの顔、もう何もついてないでしょ?」


 「ごめんごめん、思い出してしまって…… 」

 「本当に、ごめんなさい。ウッジさん。」


 「もー、チルーまで。」


 チルーが手を合わせた。


 「それで、キジムナー?だっけ。それって何なの?」

 と話し始めたのはいいが、何かを忘れている気がして、一瞬止まってしまった。


 「そうだ!その前に、チャルカ!チャルカもやられてる?」

 チャルカの存在を思い出して、この騒がしい状況でも、まだなお寝続けるチャルカの顔を覗き込んだ。



 チャルカは寝汗を少しかいているものの、すやすやと夢の中だった。

 そして、顔は無傷。

 全く悪戯はされていない。


 「あれ?なんで、チャルカは無事なの?チャルカだけ、寝ている間に拭いたの?」


 ウッジが、チャルカの頬を人差し指で、ぷにっと突いた。

 非の付け所の無い、綺麗な肌だ。


 「想像の域を出ませんが……、多分、チャルカさまは、メリーさんがそばで寝ていらっしゃるので、大丈夫だったのではないでしょうか?」

 チャルカの首のあたりには自分は神獣だという事を忘れているのか、仰向けでお腹を丸出しにして寝ているメリーがいる。


 メリーも落書きされていない。


 「……腐っても神獣か……。」

 口をついて出たのは、そんな言葉だった。








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