表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/119

41話 楽園 1/33

 きれいな海だと、ウッジは思った。

 森で育ったウッジにとって、海は何もかもが珍しい。


 海の匂いや音。

 ぽっかりと空いているようで、詰まっているような不思議な空間。

 海からの風。

 海は青く、水面が煌めいている。

 空も一段と青く、遠くに白い雲がもくもくと立っていた。


 砂浜は白い。


 よく見ると、その白い粒は、白く固い枝のようなものが混じっていて、それが砕かれて砂になっているんだと気が付いた。

 これは何なんだろう、と思うが、わからない。


 そうだ、ストローなら分かるかもしれない!と思い周りを見渡すが、さっきから一人だったのだろうか?


 誰もいない。

 よく考えると、チャルカもメリーもいない。もちろんメイシアも。


 こんなにきれいな海に来て、楽しい気分だったのが一転、急に不安になり、ウッジは仲間を探して走り出した。


 走って走って、気が付くと、浜辺に白い何かが落ちていた。

 近づくとそれが人であると分かった。


 こんなところに人なんて倒れていたかなぁ? と思いながらも声をかけてみる。


 「あの……、大丈夫ですか?」


 反応がない。

 波打ち際でうつぶせになっている。


 女性だった。

 白い簡素なワンピースを着ていた。

 髪は長く、白髪。白髪だが艶があり、老人というわけではなそうだ。

 何より、見えている腕は、細いながらも綺麗な肌だった。


 放って行くわけにもいかず、肩をゆり動かしてみる。


 「こ、こんなところで寝ていたら、体壊しますよ……」


 「ん……んん…………、」


 女性が気が付いたのか、動きがあった。

 ウッジは、心の中で「良かった……生きてた……」と思った。


 と思ったのもつかの間、女性が「触れるな、トイフェル!」と言ってウッジの手を払った。

 しかし、すぐに呼んだ名の者とは違う人物だという事を理解したのか、小さな声で「すまぬ、」といった。


 「起き上がれますか?」


 女性は、ゆっくりと腕を軸にして体を持ち上げた。

 そして、身体を半回転させて、そのまま座り込んだ。


 美しい女性だった。

 しかし、何か違和感がある。

 なんと表現したらいいのか、ウッジは少しの間わからなかったが、しばらく無言で見つめてやっと違和感の正体がわかった。


 色が無いのだ。

 ワンピースが白いのはわかる。長い髪が白いのもまだわかる。しかし、血の気がないのかと思うほど、肌の色が白い。


 (……生きてるよね? この人…… )


 そんな事を考えていると、女性が海を見ながら涙を流した。


 「……死にたい………… 」


 予想外の言葉が女性から飛び出し、ウッジは自分のキャパを超えてしまって、何をどうしていいのか固まってしまった。


 「私はまだ死ねていないのか…… 」


 女性が両の手で顔を覆い、泣き始めた。


 フリーズしていたウッジだったが、フリーズが解かれても、声をかけられずに、静かに女性の横に座り込んだ。


 長いような短いような、波の音と女性のすすり泣く声だけの時間が流れた。


 しばらくして、女性が白く細い腕で涙をぬぐうと、ポツリとこぼした。


 「何も言わないんだな、」


 ウッジは慌てて、自分でも滑稽なほど手だけアタフタと動かしてしまった。


 女性が笑いもせず、ウッジを見た。

 ウッジと目が合った。


 ウッジは息をのんだ。

 そして、つい言葉が漏れた。



 「……色が、」



 色が無いと思っていた女性に一つだけ色があったのだ。

 それは、瞳。

 瞳だけ、とてもきれいな緑色をしていた。


 深すぎず、浅すぎず……深い森が太陽の光を透かしたような色だった。

 そして正面から見ると、横顔よりも幼い印象で、美少女だと思った。


 「……綺麗な瞳の色ですね、」

 死にたいと泣いている女の子に、一体自分は何を言っているんだと心の中で猛省をする。

 そして、乾いた笑いで誤魔化す。


 「あはははは…… 」


 「……まだ私の目は、色があるのか…………、」


 少女は視線を落とした。


 何か、悪い事を言ってしまったのかなぁ? と思いながらも、次にかける言葉が見当たらない。


 「……あなたに、殺せとは言えないな……、」


 無色の声色で少女はそういうと、また泣き出した。

 今度は、大きな声をあげて、膝を抱えて泣いた。


 「私にどうしろというのだ!どれだけの長い間、私を生かし続けるのだ。

 私にはもう何も残っていない。なのに、どうしてまだ生かす!


 あぁ、私を八つ裂きにしてもいい。

 凍らせて砕いてもいい。

 火をつけて灰にしてもいい。

 何もかも忘れて眠りたい!

 無くなりたいのだ!

 存在しくない!

 どうか、私を殺してくれて!


 私を助けて……見ているんだろ?

 私を助けて!

 やっと手に入れたと思ったここも、楽園じゃないのか!

 わぁぁぁぁぁ……!」

 少女の言葉が赤かった。


 赤いなぁ……痛いなぁ、苦しいなぁ、とウッジは思った。

 かける言葉もなく、そっと少女の肩を抱きしめた。



  *** *** ***







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ