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38話 御嶽(うたき) 12/14

 メイシアは、深呼吸をしたのち祈りを始めた。

 ナギィの事は心配だったが、いくら心配でもマタラが言ったように、ナギィが自分の力と向き合う決意をした今、見守る事しかできないのだ。


 達成の鍵を握り、静かに耳を澄ませた。

 願わくば、あの助けと許しを求める女性か、先ほどの羽音の者と会話がしたかった。


 音が削がれていく。

 最後に残ったのは波の音だった。

 しばらくすると、それがある時を境に、海の中からの波の音に変わった。


 波の音に身を委ねるメイシア。

 頭の中が澄んだように、気持ちが良かった。

 ずっと遠くまで、もしかしたらどこまでも、自分の手足が届きそう。

 重力に任せて、どんどんと海底へと意識を沈めていく。


 そのうち波の音さえもなくなり、辺りは静まり返った。


 遠くで泡の音が聞こえた。

 その音は、近づいてくるのか徐々に少しずつ大きく聞こえる。


 ある程度まで音が大きくなると、それが泡ではなく人の声なのだと気が付いた。


 泡が何かを言っている。


 メイシアはより一層耳を澄ませた。


 『ベリル……』


 ──── あの声だ!

 

 待ち望んでいた声だと認識ができた。


 ベリルと聞き取れたのだが、それが何なのかがわからない。


 (もっと、ちゃんと聞きたい……!)


 メイシアは、海の底でただ沈んで待っていた意識を、グイッと動かし、声の方へ近寄った。


 ナギィが、自分の意識を飛ばすことができるのだから、自分にももしかしたら出来るかもしれない、出来なくても、どうか聞きたい思いが届いてほしいと、願うような気持だった。


 それができたのかどうかはわからない。

 でも必死に、この水中に慣れない意識を泳がせ、声のする方へと近寄る。


 (ねぇ、あなたが何を望んでいるのか、私に聞かせて……?)


 『………… 』


 (私、あなたの力になりたいの、どうか、話を聞かせて?)


 『……ダメ……、出来ない……』


 メイシアは、返事がどうあれ、会話ができた喜びが大きかった。


 (聞こえるのね!私の声が聞こえているのね!)


 『……いつも、私は声を聴いている…… 』


 (どこで聞いているの?あなたは誰なの?)


 『………… 』


 (答えられないのだったらいいよ。……じゃ、ベリルって誰なの?)


 『……ベリルを許して…… 』


 (許すも何も、私はベリルっていう……人? 知らないよ。この前は、あなたを許しい欲しいって…… )


 『……ベリルを…………』


 その時、海の上で声がした。

 「メイシア!」


 メイシアは驚いて目を開けた。

 そこには、少し顔の青いナギィがメイシアの顔を覗き込んでいた。


 「やっと気が付いた。かなり集中していたみたいだね。もう、交代の時間だよ。」

 「え、もうそんな時間なの?」


 「うん。行こう。メイシア、かなり汗をかいて、顔色も悪いし……具合悪そうだよ? 大丈夫?」

 ナギィに言われて、初めて気が付いた。

 すごい疲労感で身体は重く、顔にも汗が流れていた。


 それを手でぬぐい、メイシアは、笑顔を作って「大丈夫だよ、」と答えた。




 帰り道の道中、フラフラになりながらも、何とか帰宅をした。

 メイシアもナギィも、疲れていて口数も少なく、どうにか足を前に出して歩いた。


 帰宅をすると、白い石垣の前で二人の帰りを首を長くして待っていた森榮しんえいが出迎えてくれた。

 二人の顔を見るなり、駆けよって来て、嬉しそうに捲し立てる。


 「おかえりやっさぁ!ワンが捕まえたアンマクを、オバアがスバにしてくれたから、食べよう!早く家に入ろ!」


 森榮が今朝捕まえてきたヤシガニをオバアが、全員その恩恵にあずかれるように、ヤシガニで出汁を取ってそばを作ったようだった。

 しかし、帰宅したばかりの二人は、それどころじゃないくらいに疲労困憊だった。


 「待って待って、森榮はほんと元気チャーガンジューだなぁ……。ワーらは今帰って来たばっかりで……ちょっと休ませてよ、」

 「えーーー、だって、ワンもずっと待ってたさぁ。お腹も減ったし、早く食べよう!」


 「ほら、メイシアも疲労困憊アータナインさぁ。」

 森榮がメイシアを見た。


 「………… 」

 なんか言いたそうな森榮と目が合い、メイシアは森榮がたった一人で大人たちに囲まれてずっと待っていた事を思った。


 「……私は大丈夫だよ。森榮が採ってきたカニ?食べたいな。」


 メイシアがそういうと、森榮の顔があからさまに明るくなり「夕飯ユウバン、今から食べるって言ってくるさぁ!」と言いながら家へ走って入って行った。


 「……メイシアは、優しいんだから、」

 「でも、ずっと、待っていたみたいだし、可哀想でしょ?」

 「んー。まぁね。」


 汗だくだった着物を着換えて居間へ行くと、在宅していた清明がそばを用意してくれていた。

 森榮ももう準備万態に食卓に着いていた。

 二人は用意してくれた清明にお礼をいって、席に着いた。


 「早く食べよう!」

 待ちきれない森榮が、目をキラキラさせていた。

 「はいはい。じゃ、手を合わせて。……いただきます。」


 メイシアたちが食べ始めた頃、夕番だった他の清明たちも自分のそばを作って居間へやって来た。

 人数が多い時様に常備されている、茶托を出してきて、食べ始めた。


 「わぁ、これ、すごくおいしいね。」

 メイシアがそういうと、森榮は何も言わなかったが、真っ赤な顔でそばを限界まですすって咽ていた。







チャーガンジュー / いつも元気

アータナイン / 疲れてくたくた

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