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114話 エトランゼ 14/16

 メイシアの腕はサブリナの身体をすり抜け「心」というのだろうか。何かに触れた気がした。

 凍えるように冷たい水の中にあって、ほんのりと暖かい核ような。そこだけが、すり抜ける感覚が違う。


『優しい子……』


 サブリナの奥底の暖かさに触れて、逆に救われた様な気がする。その暖かさが心のおり(・・)を晴らしていく。


『暖かい、』

  

 そう感じた瞬間、辺りに充満していた冷たい水が見る見るうちに引き始めた。

 それが当たり前かのようにメイシアは驚きもしないで、水が引いて行く様を全身で感じていた。

 サブリナの話は続く。


「それから、こっそりベランダから柵を伝って外に出たの。見つかるのが怖くて、とにかく必死で逃げた。

 でも、あたしを覚えてくれてる人がいるかもしれないって、ちょっと期待して顔見知りのネコと遊んでたけど、飼い主のおばさんに初めましてって声をかけられちゃった。

 あー、あたしはもう誰の記憶にも残っていないんだなぁって、悲しくてあのベンチで泣いてたら、ベリルとラズが声をかけてくれたの。」


「二人も、あなたの事覚えていないんでしょ?」


「うん。そうだよ。でも友達になろうって。泣いてるあたしを励ましてくれた。あたしの事を知らなくても、あたしの友達はいい友達だった。だから、またいちから友達になればいいんだって思った。」

「……、」


「えへへ。あたしの話はこれでおしまいっ」

「え?この家は?まだその話は聞いていないよ。……まだ信用できない。」


「あー……、」

 サブリナが困ったように微笑んだ。


「この家はね、あたしも分かんないの。あの(・・)家に帰ることはもちろん出来ないから、寝る場所だけでも欲しくて無いかなって探してた時にたまたま見つけたの。」

 さらっとすごい事を言ったサブリナに、シュテフィが目を丸くした。


「そんな都合がいい事ある?!」


「だって、これが本当なんだよぉ……。入り口、教会の誰も開けなさそうな場所だったでしょ。丸くなって寝るくらいなら出来そうだし、雨風しのげるかなぁって思って開けたら、こんなだった。あはは」


「はぁ?」


「……でもね、ここは多分捨てられた家なの。だって、ここに来るまでランプになんて火を灯したことなかった。水はね、何とか使えるんだけど、色々不便なんだ。」


「?」


 このサブリナの言った意味をシュテフィが理解することは出来ないだろうと、メイシアは思った。

 この島でロードの加護を受けて生活をしてみないと分からない事なのだ。

 欲しいと思ったものが気が付くと、そこにある。それを無意識で利用し、不思議とも思わない。

 言うなれば、祝福された暮らし。

 

『サブリナは、それについてどう考えているんだろう、』

 

「いいよ。私の事信じてくれなくても。」

 サブリナがにっこりした。


「……、」


「あたしね、夜は寂しくて眠れなかったの。これからも一緒にいて、シュテフィ。一緒に寝てくれたら、あたしはそれだけで、じゅうぶんだよっ」 

 えへへ、と照れ隠しで笑ったが、その笑顔が何とも言えず、暖かな笑顔だった。


「…………。」

『ちょっと、ユイ加那志ガナシ!サブリナ、良い子だよ?ちゃんと返事した方がいいよぉ』


「お茶、冷めちゃったかな?淹れなおそうか?」


「……いい、」


「うーん、やっぱり、淹れなおすね。ここ、夜は海風でちょっと冷えるんだよねぇ。窓も閉めようか。」

 サブリナが立ち上がり、窓へ行き手を伸ばした。


「私、ずっとはここに居られないの……、」


「……そっか。わかった。」

 サブリナは、そういうと、窓を閉め、冷めたお茶の入ったカップを回収すると、キッチンへ向かった。

 

『…………、』

 それからサブリナは何も聞くことは無かった。

 二人は淹れなおしたお茶を飲み、ブランケットを分け合って一緒に就寝する。

 


 

 

「ごめんね、ブランケット一枚しかないの。クッションはあるのにねぇ。」

 ブランケットに潜り込んだサブリナが申し訳なさそうに、小声で謝罪した。


『私も夢の中で眠れるのかわからないけれど、横になってみるか……。二人が寝たら暇だし。』

 メイシアも、一か八かシュテフィの隣に寝転がってみる。


 不思議にブランケットが欲しいような寒さは感じない。

 夢の中なのでそういう物なのだろうかと、とりあえず納得をする。


「……、」


「あれ?もう寝ちゃった?……おやすみー……」

「……泊めてくれてありがとう、」


『ユイ加那志、やっと言えたねぇ~』

 メイシアが妙に保護者の様にうんうん、と頷いた。


「わっ!起きてた!」

「……そこじゃないでしょ?」


「あはは、そうだった。どういたしまして。」

「……、」


「ねぇ、シュテフィー、お腹減らない?」

「……もういいから、寝て。」

 シュテフィがサブリナに背中を向けた。


「ごめん……、」


「…………、」

「…………、」


 サブリナが突如、がぱっと上半身を起こした。


「ダメ。どうよう、シュテフィ。嬉しくて寝れそうにないっ!」

「えぇっ?」


「だってぇ!あたし、今まで一人だったんだもんーーーーっ」

 予想できない展開。

 サブリナが急に泣き出してしまったものだから、シュテフィが慌ててサブリナの涙をぬぐう。


「な、なんで嬉しいのに泣くのぉ?」

「勝手に涙が……うぐっ……で、出るんだから、しょうが……ひっく……ないでしょ?ひぃぃぃぃん、」


『あーあぁ~……』

 メイシアは今晩は長くなりそうだなぁと思った。

 

 

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