112話 エトランゼ 12/16
シュテフィは観念したのか立ち上がり、靴をドアの前に揃えるとラグマットの上の小さなテーブル横に腰を下ろした。
「はい。どうぞー。」
温かい紅茶をカップに注いで二人分。
サブリナがテーブルに、コトッと置いた。
テーブルを挟んで座る。
「……、」
「……あ、ごめん!トイレに行きたかった?言うの忘れてたー!そこのキッチンの横にある階段を降りたら、トイレとお風呂があるの。左がトイレ。使ってくれて大丈夫だよっ」
好奇心旺盛なメイシアが『どれどれ……』と。
確かにシンクの横に手すりがあり、下階に繋がる階段があった。
お宅見学とばかり好奇心ついでに降りてみると、トイレとお風呂らしいドアが向かい合わせになっている。
『やっぱり、オズはお風呂があるのねー、』
などと、どうでもいい事に感心しつつ戻ってくると、まだシュテフィはだんまりのまま膝を抱えて丸くなっていた。
「……トイレじゃなかったか、あはは、」
「……、」
「まぁ、とりあえず飲んでよ。ホッとするよ、あったかいお茶って。」
二人の間の微妙な空気……というよりも、シュテフィから完全に警戒のオーラが漂っている。
また温かい紅茶の香りは、嫌でもあの迷路の屋敷を思い出させてしまっていた。
サブリナの選択ミスと言えばそれまでなのだが、ここまでの経緯を知らないのだから仕方がない。
いや、それとも……?と勘ぐってしまうのも道理というべきか。
『うーん……そうなるよねぇ。だってあの迷路のお屋敷で出されていたの温かい紅茶だったし、ここも不思議な家でしょ?……そうだよねぇ、何かねぇ。よし!ユイ加那志、ここはちょっと覚悟を決めて言った方が良いよ!少し怖いけど!私は応援するよ!』
メイシアがシュテフィの横に座り、言っちゃえ!言っちゃえー!と、見えないのを良い事にファイティングポーズをキメた。
「……飲んでくれないかぁ、」
「……あなたは、何者?」
シュテフィがやっと重たい口を開いた。それが嬉しかったようで、サブリナがパチンと手を叩いた。
「あはー!やっとしゃべってくれた!」
「はぐらかさないで!」
「……ごめん。」
「私をからかっているの?何度も親し気にお茶を出したりして、」
「? ……あたしがシュテフィにお茶を出したのは初めてだけど……前にもこんな事あったっけ?」
「騙されないから!こんな不思議な力と不思議な家、他にあるわけ無いもの!」
「シュテフィ、言っている意味が分からないよぉ。何かあったの?」
「まだ惚けるの?……一体私が何をしたっていうの?私には無理だって断っただけじゃない!」
「んーーー、シュテフィはあたしを誰かと勘違いしてる?あしたは今日初めてシュテフィと出会って、シュテフィの事何も知らないよ?」
「だったら、この家は何?それになんで、こんな初めて会った見ず知らずの私を家に連れてきたの?不自然じゃない!」
「それはぁ……、」
さっきまでとは違いサブリナが明らかにバツが悪そうな様子で俯いた。
『そうだそうだー!ユイ加那志、頑張れ!』
「とにかく私を元の場所に返して。私には絶対無理なの。」
「ちょっとまって。あたしには、シュテフィが言っている事が何なのか全く分かんないよ。あたしはただ……、」
そこまで言うとサブリナは一瞬口を噤んだが、意を決した様に続きを話し始めた。
「……シュテフィは【ここに居てはいけない人】なんでしょ?だからここへ呼んだの。あ……あたしもきっとそうだから。」
サブリナが今までになく真剣な表情でシュテフィを見つめた。
『あれ?なんか雲行きが変わって来たな……、予想と違いう感じなのかな……?』
メイシアがシュテフィの横で、握りしめていた拳を下におろした。
そしてシュテフィは動揺が見破られないよう、必至に平静を装った。
「……、」
【ここに居てはいけない人】
この言葉をどう受け取ればいいのか戸惑う。同時にドキリともする。
確かに、この島の住人で無いのは明白。
しかも逃げ出してきたのだ。それがバレでもしたら一体どうなるのか……
肯定も否定もすぐには出来ない。
動揺を気づかれぬよう、精一杯の平静を装う。
「【ここに居てはいけない人】って、どういう意味……」
「そのままの意味、だよ……?あしたは、シュテフィの事情は分からないけど、なんか同じ匂いがして、」
「……サブリナは【ここに居てはいけない人】なの?」
「……うん、多分、」
サブリナはポツリポツリと自分の事を話し始めた。




