110話 エトランゼ 10/16
「そろそろ、帰りましょ。」
食べ終わって、一息ついたベリルが立ち上がった。
サブリナもシュテフィに「おいしかったねー」などと言いながら立ち上がり、お尻の砂をパンパンと払った。
「ほら、いつまでも照れてるんじゃないわよ!行くよ、ラズロック!」
「……なっ、なんでオレが照れないといけないんだよっ!」
「はいはい、今さらですからねー。ほら、遅くなったら叱られるわよ。」
「ったくよ、」
『そろそろ解散かぁ。今晩私たちはどうしたらいいんだろう』
ちらりとシュテフィを見る。
解散ムードの三人の様子に入れず、所在なさげだけれど構っても欲しくない、そんな微妙な感じのシュテフィがいた。
『そうよねぇ、』
何も解決策が浮かばないため息ひとつ。
その時、急にサブリナがシュテフィに抱き付いた。
────!
「あたしは、まだシュテフィと町をフラフラしてから帰る事にする!」
「だ、だったらオレも……!」
「何言ってんの、あんたの家が一番、門限うるさいでしょっ。行くわよ!」
有無も言わせないサブリナの言い草に、ラズロックはグヌヌ……と何か言いたそうにしたが、どうにか飲み込んだ。
「ちぇっ、……また明日な、サブリナ。」
「じゃ、コレ連れて帰るわ。またね、サブリナ。」
後ろ髪引かれるラズロックを連れてベルリ歩き出した。
「コレってなんだよ!」などと言い合っている一方通行の喧嘩の声が、徐々に遠退いて行った。
『あの二人、ずっと喧嘩しているなぁ……』
騒がしい二人を見送り静かになると、遠くの潮の匂いに敏感になる。
もう陽も傾き、空はオレンジ色に染まり始めている。
ここは、どこか知らない島の港町。
「……、」
「ねぇ、シュテフィ。あなた、帰る家が無いんでしょ?」
『わぁ、直球。』
少しの間があり、シュテフィが口を開いた。
「どうして、そう思うの……?」
「んふふ。カンよ。カン。ね、どうなの?」
『この子……、悪い子じゃなさそうだけど、大丈夫かなぁ。私も色々その辺りはバレない様に苦労したからなぁ……』
「……うん、」
「やっぱりー!」
「でも、いいの。今からやる事もあるし、私の事は放っておいて。」
隠し事があると、どう説明しても不自然になる。
シュテフィは、今は逃亡中の身なのだ。
瞳をまっすぐに見つめて来るサブリナから、視線をそらした。
「ねー、シュテフィ。あたしんちに来ない?」
「え?」
「うん、それがいいよー!そうしよう。あたしんち、誰もいないから平気だよ。」
『……ん?こんな子が一人暮らし?』
「でも、私は……、」
「いいっていいってー。お金ないんでしょ?」
「そうじゃなくて……、」
「気にしない気にしない。あ。でも、ベリルとラズには内緒ね。さ、いこー!」
まだ返事を決めかねているシュテフィの手をとり、サブリナはずんずんと歩き出した。
「今日はさっきスブラキ食べたから、もう夕食は無いらないよねー。まだお腹減ってる?」
「ちょっと待って……!」
強引なサブリナの手をシュテフィが振りほどいた。
「私はあなたの家にはいけない。」
今度はまっすぐにサブリナの目を見る。
サブリナの目は、不思議な目だ。
夕陽が差し込み、またサブリナの瞳の色を変化させる。
金色のような、熟れた果実のような。
サブリナもまっすぐにシュテフィを見ていた。
────ボー……ボー……
遠くの海で汽笛が鳴った。
シュテフィが、目をそらす。
「大丈夫だよ。心配いらないよ。」
「あなたは、私の事何も知らない。」
「……知ってるよ。」
──── !
かけられた言葉が意外で、サブリナと目を合わせてしまう。
刻々と変わる空の色につられて、サブリナの瞳も濃く成熟していく。
「突然この島に来て、迷子になっていた女の子・シュテフィ……でしょ?」
「……それは、」
「いいの、いいの。もう行きましょ。陽が沈んだら、この辺りは階段が多くて危ないから早くいこ、」
さぁ、と手を出されて、シュテフィはそれ以上何も言わずに、サブリナに手を引かれて歩き出した。




