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104話 エトランゼ 4/16

 知らぬ間に目を瞑っていたようで、バラの良い香りに気が付き、目を開けた。


 そこは、どこかの一室だった。


 豪奢で広々とした明るい部屋。いたるところにバラの花が惜しげもなく生けられてある。

 調度品の数々も、ローニー邸で見たものとは比べ物にならないくらい高級だと、一目で分かるような超一流のものばかり。


 その中に大きな天蓋てんがい付きのベッドがあり、メイシアはその横に立っていた。


 ベッドで寝ているのはシュテフィだった。


 身体が埋もれるほどのフカフカのベッド。その中にいるシュテフィは、安らかな顔をしていた。


 あまりに安らかな顔だったので、急に不安になったメイシアがシュテフィが息をしているのかを確かめる。


 顔に手をかざすけれど、やはりここでもこの世界の物に干渉できないのか、息を感じることができない。

 なので、じっとシュテフィの胸のあたりが上下しているかを観察する。


 関係が無いことが分かっていても、自分の息を止めじっと目を凝らす……

 身体にかけられたフカフカの掛布団が、ゆっくりと穏やかに上下しているのを確認できたので、ほっと胸を撫で下ろした。



(ここは何処なんだろう……?村にはこんな豪華なお屋敷は無かったし……)


 カップ村はみんな同じくらいの暮らしをしている村だった。

 外の人ともそんなに関わる事も無い、小さな村。

 こんなお伽噺でしか聞かない様な、豪華なベッドのある家なんてあるはずがないのだ。


(そうだ。窓から外を見たら何か分かるかな?)


 と、窓の外を見ようとした。

 しかし見渡したが、窓らしいものはこの部屋には無かった。


(んー……。ユイ加那志ガナシは寝ているし、ちょっとくらい離れても大丈夫かな?)


 今までの経験から言って、誰も自分の存在が分からないのなら、部屋から出て散策してきても大丈夫なはず。とメイシアはドアを探した。

 

 ──── ん?


 しかし見渡しても、ドアがどこにも見つからないのだ。


(なんで?これ……夢?まぁ、夢だと思うけど……部屋にドアが無いなんて事ある?)


 夢だったとしても釈然としないが、とりあえずは行動。壁伝いに注意深く観察しながら部屋を一周回ってみる。

 やっぱり、どこにもない。勘違いや見落としでは無い。


『もー!どうなってんのよっ!』


 誰にも聞こえない事をいいことに、大声でうっぷんを晴らす。

 

「ん……、」


 と、メイシアの声に反応したのか、シュテフィが目を覚ましてしまったのか息が漏れた。


 メイシアは思わず手で口を押え、ベッドの影になるように腰を低くした。


(き……聞こえるのかな?)

 ばれても、何もやましい事は無いのだけれど、なぜだがドキドキが止まらない。



 ゴソゴソとベッドで衣擦れの音がする。

 きっと、シュテフィが起きたのだ。


 ここで、シュテフィを驚かせても仕方がないし、コソコソしていたら、何か自分が悪い事をしているみたいにとられかねない。

 早々に自分は訳も分からず、ここに居るという事を説明しないといけない。


 メイシアは意を決して「こんにちは!」と挨拶をしようと、ぴょんっと立ち上がった。



『こんに……』


 挨拶をしようと、シュテフィを見るとさっきまでの安らかな寝顔から想像できないくらい蒼白な顔でベッドの上に座っていた。


『ご、ごめんなさい、私、驚かすつもりでは無かったんです!』


「…………、」


 メイシアは自分がシュテフィを怯えさせてしまったと思い謝った。が返事が無い。

 心が折れそうだが、ここで引き返せない。もう少しシュテフィのそばに歩み寄って説明をしてみる。


『ユイ……違うか。シュテフィさん、あのー……私もどうしてこうなったのか、分からないんですけど……、ん?』


 急にメイシアは、この夢を見ている様な不思議な世界が始まる前は、何をしていたんだっけ?と、考えてしまう。

(みんなと旅をしていたはず。……何がきっかけで、こうなったんだっけ?)

 自分が今、この不思議な世界にいるきっかけがどうしても思い出せない。


『んーーーーー……?』


 その間もシュテフィは青ざめたままだ。


 ギュッと掛布団をきつく握りしめた。

 そのまま布団を手繰り寄せると、顔をうずめて、混乱しているのか二回ほど唸った。


 その声にメイシアがびっくりして、今起こっている問題に引き戻される。


(どうしよう……、ユイ加那志って難しい人かもしれない……、)


 そう思った瞬間、シュテフィがメイシアに向かって急激に迫って来た。

 

『ま、待って!話を聞いて!』

 

(怒ってる!)と身構えたが、シュテフィはそのままベッドから飛び降り、メイシアをすり抜けた。


 メイシアは驚きと恐怖で、破れそうなほどドクドク暴れている心臓を両手で抑え『……知ってた、』とつぶやいた。 


 

「……逃げないと。」


 シュテフィが、周りを見渡した。

 すると、さっきまで無かったはずのドアが、奥の壁にあるのを発見する。


『え?さっきは絶対無かったよ?!』


 その扉に向かって、駆け寄るシュテフィ。


『ん?』


 またメイシアは違和感を覚える。

 さっきまでベッドに寝ていたのに、シュテフィが靴を履いている。


 しかしそんな事を熟考している暇も無い。

 シュテフィがドアを開け、顔を覗かせて外の左右を伺うと、躊躇することなく飛び出してしまった。


『ちょっと、まってよ、ユイ加那志!』

 

 メイシアは慌てて、シュテフィの後を追った。


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