103話 エトランゼ 3/16
身構えたメイシアだったが、姿を現した人物は予想とは違っていた。
『え?』
両手を広げ、行く手を阻んでいたメイシアをすり抜け、そこに現れた人物が少女の傍らで膝をついた。
(どうして、牧師さまが……?)
メイシアは混乱した。
少女の様子から、もっと違う恐ろしい何かが来ると思っていたからだ。
「顔を上げなさい」
牧師が声をかける。
この声の色は一体どういう色なんだろう、とメイシアは思った。
温かくもある。愛情も感じる。でも諦めや冷たさも感じる。これは厳しさなのだろうか?それとも……
判断しきれない言葉に、牧師の背中を見つめる。
少女はその声に我に返ったよう、祈りを止め声の主を見た。
「シュテフィ、探しましたよ。……目が真っ赤じゃないですか、」
シュテフィと呼ばれた少女は、牧師に涙を拭われると、縋るように抱き付いた。
勢いよく抱き付かれた反動で尻餅をついてしまう。
そんな事はシュテフィはお構いなしで、そのまま子供の様に泣き始めてしまった。
「おやおや、困った子ですね……、いつまでたっても子供の様に。」
嗚咽を漏らしながら、シュテフィは謝る。
「牧師さま……ご……、ごめんなさい……ごめんなさい……、」
牧師は泣き止まないシュテフィを抱きしめ、子供をあやす様に背中を優しくさすった。
(この人がシュテフィ……。という事は、ユイ加那志だっけ……、)
メイシアは、カマディから聞いていた印象とは違うユイ加那志に驚いたが、それ以上にどうして自分が十六夜の王の夢を見ているのかという疑問に囚われた。
(これは、私が聞いた話から勝手に作り出したユイ加那志のお話?それとも……)
それもあり得なくはない。
カマディから「ユイ加那志の本当に名前は花冠という意味らしい」と聞かされ、自分の村だったらそれは「シュテフィ」だと言った経緯から、自分の記憶とすり替えて勝手に作り上げたのかもしれない。
何しろ、あの花祭りの風景も、この書庫の不思議な絵も、自分の記憶のままなのだから。
────?
違和感が生まれた。
確かに花祭りと絵は同じであるが、町が違っていた。
金物屋の看板が無かったのだ。
自分の記憶のままで良いはずの状況をわざわざ、変える必要があったのだろうか。
そう考えると行きつくところは一つだった。
(ユイ加那志の記憶を……見てる?でも、どうして?)
どうしてなのか、本当にそうなのか。
確証が持てない。けれども誰に聞くこともできない。
不意に恐怖を感じた。
一体これは何なのだろうか。何のために、誰がこれを見せているのか。
たった一人逃げ場が無い状態で、このままユイの夢を見せられて、自分はどうなるのか不安がむくむくと膨らんで来た……、その時だった。
泣きじゃくるシュテフィをしっかりと抱きしめている牧師の手に、あの時と同じ小瓶が握られているのが見えた。
牧師の背中を見つめるメイシアから小瓶が見えたのは、もう蓋も明けられ、今まさにシュテフィにかけようと手を上げた瞬間だった。
『危ないっ!逃げてっ!』
言うが早いか。
小瓶を取り上げようと体が動くが、やはり触れる事も出来ず空振りをしてしまい、バランスを崩したメイシアは前に倒れ込む。
『きぁぁぁ!』
床との衝突に身構えた瞬間、また視界が白くなってきた。
『待って、待ってよ!なんなの!』
そう叫ぶが、待ってはくれない。
白くなって行く視界で、苦悩と悲しみに耐えている牧師の顔がチラッと見えた気がした。
「許してくれ……、シュテフィ……」
メイシアはそのまま真っ白な世界の中、床と激突する事も無く不思議な浮遊感に包まれた。
────……




