100話 スイの都へ 12/12
沿岸を走り抜けて来て、やっと、スイに向けて内陸へと進路をシフトした頃だった。
向かいから走って来る小隊が見えた。
一瞬身構えたが、すぐにスイの軍である事が身なりから分かった。
向こうもカマディー達に気が付いたようで、早々に敵意が無い事を示す為、馬から降り出迎えの意思を示す。
そのまま馬を走らせ、小隊へ近づくと、カマディを先頭に馬の足を止めた。
スイから来たのであれば、カマディ達にも聞きたい事がたくさんあるのだ。
なぜ最前線から離脱しているのか、その辺りも胸騒ぎがした。
最前列の男が一礼する。
「祝女のカマディーさまとお見受けいたします。」
「いかにも。」
「私は親軍補佐、禰保桃薫と申します。海榮さまの命により、先日スイから魚釣へ発った客人を護衛しスイへと即急に帰還していただく任を頂いております。後方の御同行の方々でございますか?」
「そうじゃ。故あって魚釣を来訪した全員ではない。他の者には十六夜の火急の事態の為、御嶽に残り力を貸してもらっている。詳細は海榮に直接話す。」
「左様でございましたか。……火急の事態と申されましたが、急に立ち込めたこの暗雲もそれなのでございましょうか?」
桃薫が暗い空を仰いだ。不気味なほどに黒く渦巻いている。
「そうじゃ。こちらも、スイの様子が分からず、困っている。スイももう雲に覆われてしまっておるのか?」
「私たちが出立した時分は、まだいつも通りの青空でしたが、幾分か進んだ頃、北方から黒雲が急速に覆ってきました……。あの様子ですと、もう御殿の上空も同じ状態だと推測されます。」
今まで表情を変えなかったカマディの眉間に微かに苦悩が浮かんだ。
「……。御殿の様子はどうなっておる。」
「はい。海榮さまが、御殿から全ての者たちが退避するようにと御触れを出されました。海榮さまは御殿内でキジムナーを捕え、トイフェルが天加那志と海榮さまとの面会を希望していると聞きだされたそうです。取り急ぎのご命令でしたので、詳しい事情は誰もわかりません。しかし、海榮さまは皆さまを御殿へと案内するようにと、私に命を下されたのです。」
「わかった。急がねばならんな。禰保親雲上よ、護衛を頼めるか。」
「ははッ!」
「こちらも困ったことになっている。こちらの状況は走りながら伝える。」
桃薫はカマディに一礼をすると、率いる兵に号令し騎乗させ、速やかに馬をスイに向けて走らせた。
隊の四騎が先頭を務め、その後ろに桃薫とカマディー達が入る。
後尾に残りの四騎が追従をした。
騎乗する事に慣れてきたストローではあったが、集団の中ほどで、しかも護衛の為、密度の高い状態で馬を走らせるのは、なかなか熟練が必要な技術。
迷惑をかけないように付いて行くのがやっと、という状態だった。
他のメンバーもそうであるようで、チルーもナギィも同じように、必死に馬を走らせていた。
「祝女さま。私も、きっと海榮さまも、皆さまはまだ魚釣においでだと思っておりました。なので早々に合流できて有り難い事です。」
桃薫がカマディーに話しかけた。
海榮から情報では、まだ魚釣に滞在していてもおかしくない内容であった。
もし魚釣まで行く事になるとすれば、翌日の夕刻の到着になってしまう事もありえたのだ。
「魚釣と神降の防壁が壊れた。それだけでは無い。御嶽も崩壊した。動揺が広がらないように、大きな声では言えないがな……。禰保親雲上よ、」
「祝女さま、私の事は桃薫とお呼びください。海榮さまもそのようにお呼びです。」
「承知した。桃薫よ。こちらも困ったことになっている。……応急、紹介をしておく。移動中ゆえ認知が困難かもしれないがな。帯同している異国の客人はストロー様ひとり。他は女官のチルー、孫の凪衣と森榮。……魚釣を出立した時は、もう一人メイシアという異国の娘がいたのだが、先ほどトイフェルに連れ去られてしまった、」
「なんと! トイフェルと遭遇したのですか?」
「防壁が壊れた今や、あやつは神出鬼没……、この瞬間に現れてもおかしくはない。だが今は十中八九、スイの御殿であろう。」
「……なんと。では海榮さまがおっしゃっていたことは本当だったのですね、」
「……。」
「いや、失礼いたしました。海榮さまを信じていなかったわけではございません。……ただ現実味が無くて。お恥ずかしい話、まだ悪夢を見ているようでございます。」
「その言葉に偽りがないのであれば、桃薫はここで待機しているがいい。そのような心構えでおると、間違いなく命を落とす。」
「し、失礼いたしました!気を引き締めて任務を遂行いたします!」
「海榮は愚息ではあるが、十六夜が信頼を寄せるに足るまっとうな男であることは疑わない。しっかりと補佐をしてやってくれ。」
「はッ!」
しばらく走ると、スイの町に入った。
いつもは賑やかな城下町だ。
それが、どの家や商店も雨戸を締め切り、町全体が閑散としていた。
スイに入るとすぐに小高い丘に建つ御殿の白い城壁が見える。
曲線の美しい堅牢な城壁だ。
予想通りと言うべきか、御殿の上空は禍々しい黒雲が立ち込めていた。
────もう、スイも包囲されている。
城壁を臨み、黒い空を仰ぎ、誰しもがそう思った時だった。
──── ビカッ!
雷光が一筋、御殿へと落ちるのを目の当たりにした。
「いけない!急ぐぞ、桃薫!」
カマディはそういうと、先頭の四騎を追い抜き疾走した。
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