99話 スイの都へ 11/12
馬を走らせながら、ストローはずっと何かが引っかかっていた。
事態が急展開過ぎて、状況が掴みきれない。
今はメイシアを救うという事が最優先であるのは事実なのだが、何かが引っかかるのだ。
まず、なぜこの十六夜と呼ばれるこの島に来たばかりのメイシアに対して、トイフェルは待ち望んでいたかのような言い方をしたのか。
メイシアは自分たちと同じで初めてこの島に来たはずなのだ。
そしてもし、トイフェルが長らくメイシアを求めていたという事が本当だとしたら、長い間このスイを守り抜いてきた防壁が、トイフェルにとって都合のいいタイミングで壊れるものだろうか。
得てして事実は小説よりも奇なりというが、本当にそれで片づけていいのだろうか。
「カマディさん、スイまではあとどれくらいですか?」
走りながら、カマディに近づき、声をかけた。
「あと、一時間もかからないはずだ。」
「御殿に到着してから、何か策はあるんですか?」
「わからん。……スイの軍が持ち堪えてくれていると信じておるが、戦況がどのようになっているのかまではワシにも読めん。」
カマディが顔色ひとつ変えずに言うので、より一層リアルに感じた。
「そんなぁ!オバアは、精霊の声が聞けるんじゃないの?スイの様子も、精霊に教えてもらえないの?」
それを聞いていたナギィが心配の声を上げる。
「ナギィ。残念だが、この穢れてしまった土地では、精霊も思う様には動けんのだよ……。」
空はトイフェルが姿を消してからも、黒い雲に覆われたまま。どんよりと陰鬱だった。
黒く不気味な分厚い雲。
この雲がどのように広がっているのか、想像に易いが、事実は分からない。
しかしこれが、ここよりも十六夜の北域全土がこの状態だったとしたなら、今までの作戦が全て変わってきてしまう。
ストローは青ざめた。
「ちょっと待ってください。という事は、魚釣も神降ももしかしたら、今は何もできない状態かもしれないって事ですよね?」
「……おそらくは。こればかりは、どうにか知恵を振り絞って立て直してくれることを祈るしかない。信じよう、」
「……そうですね、」
今は、それしかない。
ストローは、ウッジとチャルカを想った。
ウッジはウッジで、要領を得ない土地で責任重大なことをしなくてはいけない。
そんなプレッシャーがウッジに乗り越えられるのだろうか。
チャルカはもっと心配だ。
今の話だと、太陽が隠れている状態かも知れない。
という事は、頼みの綱のアレハンドラが助力出来ないという事だ。
しかし心配したところで、その全てが、遠く離れた今の自分にどうにかできるはずもない。
今自分にできることをするしかない。
ストローが、カマディーに疑問を投げかける。
「それにしても、どうしてトイフェルはメイシアを攫ったんでしょう?」
「……それは……、」
先ほどまでのカマディとは違い、珍しく歯切れが悪い。
そこから黙り、考え込んでいるようだった。
「カマディさんはあの時、トイフェルにメイシアの事をまだ【そう】ではないと言っていましたが……、それって、どういう意味ですか?」
ストローは多分これが核心に一番近い質問だろうと、たたみかける。
しかし、やはりカマディの口は重かった。
「どうして、そんなことまであやつが知っておるのかわからん。」
「カマディさんもトイフェルも、一体何を知っているんですか?話してください。きっとオラたちが知らないといけない、大切なことだと思います。」
「……すまない。申し訳ないが、ワシからは何も話す事が出来ない。それは、この世の理。ワシの一存では話すことができないのだ。」
「では、これだけは話してください。トイフェルはメイシアをどうするつもりなんですか?メイシアはどうなってしまうんですか?」
「それは……、メイシアの命が危ない……。これだけは確かな事。……とりあえず、急がねばならん。」
聞きたかったことは一つも聞きだすことは叶わない。
しかし、メイシアの事だけは、言われるまでもなく、その危機感を持っている。
とにかくスイに行き、最善を重ねるほか道はないようだった。
スイの方角の空も、暗く重い。
ストローは、暴れ出しそうになる心臓を、どうにかこらえながら馬を走らせた。




