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第69話 studenthood

 瑛神にはあの格好のまま寮にバンドの機材を取りに行かせた。最初は嫌がっていた瑛神ではあったけれども、誰も違和感持ってないから大丈夫だと僕とレイラで説得したら変な自信を持ったのかあっさりと引き受けてくれた。


 次に僕は美織を呼びに行くことにした。

 美織はサブステージのPA卓で音響担当の仕事をしている真っ最中だ。ヘッドフォンを着けながらいつになく真面目な表情でツマミだらけのPA卓をいじっている。

 美織とバンドを組むようになったとき、学生時代よりもプレイだけでなく出す音に対する意識も高くなったなという印象を受けた。その裏には、こういったところでPAの仕事をするようになったからなのかもしれないと思うと、ふと僕は笑みをこぼした。

 そんな僕が笑みをこぼした瞬間を、ちょうど振り返ってこちらを向いた美織に捉えられてしまった。


「……先輩? 何してるんすかこんなところで?――妙に微笑んでて不気味っす」


「あっ、いや、ちょっと大事な話がな……」


「chokerの二人が楽屋から出て来ないって話は聞いたっす。――どうせ先輩のことすから、彼女達がボイコットするなら代わりに出ようって言うんすよね」


「……参ったな。全てお見通しか」


「そりゃもう。………先輩のこと好きっすから」


 美織には先を読まれていたらしく、わざわざ息を切らして急いでここまで来たのが少し馬鹿らしい。しかしながら、話が通っているならそれはそれで良い。今は時間がとにかく無いのだ。


「本来ならばPAである私がこの場所を離れるとライブが成り立たないっす。でも、どうせ先輩がそんなことを言い出すんじゃないかと思って手は打ってあるっすよ」


「………まさか遠隔操作でPAをやろうとか言わないよな?」


 大学時代には遠隔で授業出席を試みたり、楽器屋で働き出したら遠隔で店番が出来ないか試行錯誤してみたりと、何かとぶっ飛んだ策を思いつきがちな美織であるので、僕はまた突拍子もないことを言い出すのではないかとヒヤヒヤした。


「そんなわけないじゃないっすか。遠隔でPAやりながらベースを弾くとか人間技じゃないっす」


「じゃあ一体どうするんだ?」


「フッフッフ……、そろそろ切り札がやって来るっすよ」


 美織が得意げな顔をしていると、僕の背後から誰かが近づいてきた。そして、振り返ろうとしたところで目隠しをされてしまう。

 ……目隠しをされたところで想像はついているし、ほんのり香る嗅ぎ慣れた香水の匂いのおかげでそれが確信に変わった。


「だ〜れだっ?」


「こんな下手くそな『だ〜れだっ?』は柚香さんしかいませんよ」


 目隠しの手を外されると目の前にはやっぱり柚香さんが立っていた。

 それにしてもこの人はよっぽど体型に自信があるのか身体のラインが出る服が好き過ぎだなと思う。……僕でも目のやり場に困るのだ、その辺の男子生徒など尚更だろう。


「というわけで、柚香さんにPAをお願いすることにしたっす」


「なるほど、それなら安心だ」


 柚香さんはこう見えて趣味の域に収まらないレベルでレコーディングエンジニアをやっていたり、学生時代はライブハウスでPAのアルバイトをしていたりと、百戦錬磨だ。僕らのデモ盤を作ったときも大変お世話になった。

 そんな柚香さんがバックアップをしてくれるならばこれほどまで心強いことはない。


「なんだかんだ忙しくて脩くんのライブ一度も観てないしね。今日は思いっきりやって頂戴ね!」


 相変わらず下手くそなウインクをしてくる柚香さんに思わず笑ってしまった。


 さあ、残すは桃子を探すのみ。サブステージの舞台袖でタイムキーパーをやっていると伊織から聞いていたので、僕は脇目も振らずにそこへ向かう。


 しかし、たどり着いてみたらそこに桃子はいなかった。


「お、おい……、どこにいるんだよ桃子……?――ちょっとそこのキミ、尾鷲桃子見なかった?」


 僕は手当たり次第ステージ脇でライブの補助をしている生徒に聞いてみるが、皆口を揃えて『どこかへ行ってしまった』と言う。

 前に一度使ったことのある見守りアプリを開くが、学園構内にいるということしかわからなかった。


 ……桃子、一体どこへ行ったんだよ。



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